映画 アメリカ
ブレット・トレイン:新幹線が舞台の殺し屋大乱闘!ハリウッド流”日本”が炸裂する娯楽大作

Score 2.5

ブラッド・ピット主演の痛快アクション『ブレット・トレイン』は、伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」を原作とした、新幹線を舞台にした殺し屋たちの狂騒劇です。デヴィッド・リーチ監督(『ジョン・ウィック』『アトミック・ブロンド』『デッドプール2』)が手がけた本作は、ガイ・リッチー風のスタイリッシュな演出と、タランティーノ的なオタク感が融合した、見応えたっぷりの娯楽作品に仕上がっています。ハリウッド流の"トンチキ日本描写"にツッコミを入れたくなる場面は多々ありますが、それも含めて楽しめる懐の深さが魅力です。限られた空間で展開される緻密な伏線回収、豪華キャストの競演、そして「運命」と「因果応報」という普遍的なテーマが、高速で疾走する物語に深みを与えています。

原題
Bullet Train
公式サイト
https://www.bullettrain-movie.jp/

© 2022 Columbia Pictures Industries, Inc. and TSG Entertainment II LLC. All Rights Reserved.

監督
登場人物
レディバグ

Actor: ブラッド・ピット

他の作品:

元ヒットマンで“運が悪い”主人公。簡単な任務と思われた列車の仕事で混乱に巻き込まれる。

プリンス

Actor: ジョーイ・キング

若い女性の殺し屋。物語のキーとなる登場人物の一人。

タンジェリン

Actor: アーロン・テイラー=ジョンソン

他の作品:

双子コンビの一人(タンジェリン)。コミカルかつ危険な存在。

レモン

Actor: ブライアン・タイリー・ヘンリー

双子コンビのもう一人(レモン)。タンジェリンと独特の掛け合いを見せる。

キムラ

Actor: アンドリュー・小路

日本の関係者あるいは敵対する筋と関わる重要人物。

エルダー

Actor: 真田広之(さなだ ひろゆき)

日本人の重要な登場人物。武道的な強さと存在感を示す。

ここがおすすめ!

  • ハリウッド流"トンチキ日本"が愛おしい
  • ガイ・リッチー×タランティーノの融合
  • ブラピをはじめ、サンドラ・ブロック、バッド・バニー、チャニング・テイタム、ライアン・レイノルズまで豪華キャストの競演

あらすじ

東京発・京都行の超高速列車に乗り合わせた“世界一運の悪い”殺し屋レディバグは、簡単な任務のはずが車内に集う複数の殺し屋たちに命を狙われ、終着駅・京都へ向けて想定外の因縁と暴力が加速していく。

ブレット・トレイン | ソニー・ピクチャーズ公式

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』以来、約3年ぶりにスクリーンに戻ってきたブラッド・ピット。今回彼が選んだのは、日本の新幹線を舞台にした殺し屋アクションという異色の題材にした映画「ブレット・トレイン」です。

原作は日本のベストセラー作家・伊坂幸太郎が2010年に発表した小説「マリアビートル」。実は伊坂氏自身が日本での映画化を断り続けていた作品で、ハリウッドからのオファーに応じて初めて映像化が実現したという経緯があります。その理由は、この作品が持つガイ・リッチー的な演出センスは、日本映画では再現が難しいと判断したためだと言われています。

マリアビートル
タイトル
マリアビートル
購入リンク
     DMMで購入する 楽天で購入する  Amazonで購入する

ハリウッド流”日本観”を笑って楽しむ

映画「ブレット・トレイン」を鑑賞した日本人は、全員が総ツッコミしたくなったのではないでしょうか。存在しない新幹線「ゆかり号」、銀髪の車内販売員、そして日本人の父親なのになぜかカタコトの日本語を話すエルダー(真田広之)の息子・木村。

これらは決して製作陣の怠慢ではありません。原作の「マリアビートル」自体が、現実には存在しない新幹線を舞台にした物語です。むしろ、これはハリウッドが持つ独特の”日本イメージ“が、この作品の持つファンタジックな世界観と融合した結果なのです。

細かいリアリティを追求するのではなく、「ハリウッド風日本」という一つのジャンルとして楽しむ姿勢が、この作品を最大限に味わうコツだと感じました。実際、架空の超高速列車「ゆかり号」にめちゃくちゃ乗ってみたくなりましたし、あの未来的でカラフルな車内デザインは、現実の新幹線よりも映画的で魅力的でした。

AIで生成したイメージ画像

緻密に編まれた群像劇が描く、因果応報という人生の縮図

群像劇としての巧みな構成

脚本の見事さは、複数の殺し屋たちの視点を巧みに切り替えながら、一つの大きな物語へと収束させていく点にあります。冒頭では、レディーバグが「1分で終わる簡単な仕事」として依頼を受けるシーンから始まり、このユーモラスな導入部が観客を油断させる罠となります。実際には、彼が新幹線に乗り込んだ瞬間から、予想外の展開が次々と襲いかかるのです。

レモンとタンジェリンというイギリス人コンビの掛け合いは、本作のコメディ要素の中心です。二人が「きかんしゃトーマス」のキャラクターに登場人物を例えて議論する場面は、タランティーノ的なオタクトークの楽しさに満ちています。特にレモンが「お前はディーゼル(悪役)だ」と相手を分析するくだりは、後の展開への伏線にもなっており、単なるギャグでは終わらない脚本の緻密さを感じさせます。

伏線回収の快感

序盤では意味不明に思えた出来事が、すべて後半の展開に繋がっていきます。ミネラルウォーターのペットボトルが何本も登場すること、レモンがトーマスのステッカーを貼ること、プリンスが新幹線に乗り込んだ理由。これらすべてが、後半になって「ああ、そういうことだったのか!」と膝を打つ展開に繋がります。

特に秀逸だったのは、「運」というテーマの扱い方です。レディーバグは自分を「世界一運の悪い男」だと思っていますが、物語が進むにつれて、彼の不運が実は他の誰かの幸運であり、その幸運がまた別の誰かの不運を呼ぶという、因果応報の連鎖が明らかになります。

中盤で長老(真田広之)がレディーバグに語る「お前の背負っている七つの星は、幸運の星・てんとう虫ではなく、悲しい運命を背負わされた存在だ」という言葉は、本作のテーマを象徴しています。これはまさにヒーローの宿命であり、コナンのように「歩けば事件に遭遇する」運命を背負った者の物語なのです。

因果応報という人生のメタファー

本作の核心にあるのは「因果応報」というテーマです。登場人物たちはそれぞれ過去に何らかの罪を犯しており、それが新幹線という舞台で一気に精算されていきます。

レディーバグが「1分で終わる簡単な仕事」のはずが次々とトラブルに巻き込まれていくのは、彼の過去の行いの結果です。レモンとタンジェリンが護衛していた犯罪組織のボスの息子が殺されてしまうのも、彼らの過去の仕事の報いです。

そして、これらすべての因縁が、京都駅という終着点で一つに収束していく構成は見事というほかありません。新幹線が時刻表通りに走っているように見えて、その中にいる人間たちは自分の計画通りには事が運ばない。これはまさに人生そのものの縮図ではないでしょうか。

限られた空間が生む映画的快感

新幹線という高速移動する密室は、映画の舞台として理想的です。登場人物たちは物理的に逃げ場がなく、観客もまた、この閉鎖空間に閉じ込められたような没入感を味わえます。

デヴィッド・リーチ監督は、この限られた空間を最大限に活用しています。車両から車両への移動、狭いトイレでの格闘、グリーン車の静寂な空間での緊迫した対峙。同じ新幹線という舞台でありながら、場所を変えることで視覚的な変化とアクションのバリエーションを生み出しています。

特に印象的だったのは、列車の側面に大きな穴が開き、登場人物たちが必死にしがみつくシーンです。高速で疾走する列車から放り出されそうになる恐怖と、それでもブリーフケースを手放さない執念。このシーンは本作のアクション場面の中でも白眉と言えるでしょう。

ガイ・リッチーとタランティーノの影響

本作を語る上で避けて通れないのが、ガイ・リッチー監督とクエンティン・タランティーノ監督の影響です。そして興味深いことに、この「ガイ・リッチーっぽさ」は映画版だけでなく、原作小説の段階から存在していたのです。

ガイ・リッチー的な要素は、スタイリッシュなカメラワーク、過去への軽快なフラッシュバック、テンポの良い編集にはっきりと表れています。特に、結婚式のシーンで白い服を着たレディーバグが登場し、そこから過去に遡っていく演出は、『スナッチ』や『シャーロック・ホームズ』シリーズを思い起こさせます。

原作「マリアビートル」は、むしろ映画版よりもさらにガイ・リッチー色が濃厚です。複数の視点が目まぐるしく切り替わる群像劇の構成、軽妙な会話劇、そして計算された偶然が積み重なっていく展開。これらはすべて、ガイ・リッチー作品の特徴そのものです。

一方、タランティーノ的なオタクカルチャーへの言及、暴力とユーモアの絶妙なバランス、登場人物たちのどうでもいい雑談の面白さは、『パルプ・フィクション』や『キル・ビル』のDNAを感じさせます。「きかんしゃトーマス」という子供向けアニメを使って人間性を分析するというアイデアも、原作の段階から存在していました。

外国人殺し屋が「テントウムシ」というコードネームで呼ばれる設定も、『キル・ビル』を彷彿とさせます。日本人がつける「テントウムシ」と外国人がつける「Ladybug」では意味合いが異なりますが、この異文化の交差こそが作品に独特の味わいを与えています。

しかし、本作はただの模倣ではありません。デヴィッド・リーチは『ジョン・ウィック』で培った洗練されたアクション演出と、『アトミック・ブロンド』で見せたネオンカラーの美学を融合させ、独自のスタイルを確立しています。また『デッドプール2』で見せた遊び心も随所に感じられ、特にブラッド・ピットのカメオ出演の逆パターンとして、本作でブラピが主演を務めるというメタ的な構造も興味深いポイントです。

豪華キャストと演出の魅力、そして若干の物足りなさ

ブラッド・ピットという絶対的な看板

本作におけるブラピの存在感は圧倒的です。バケットハットを被り、自己啓発本を読み漁り、「もう銃は持ちたくない」と平和主義を唱える殺し屋という設定は、彼だからこそ成立するキャラクターです。彼が演じるレディーバグは、『トゥルー・ロマンス』のフロイドを彷彿とさせる脱力系の魅力と、いざという時の身体能力の高さを併せ持っています。特に、ピンチに陥った時に見せる「やれやれ」という表情は、観客に親近感を抱かせる効果があります。

© 2022 Columbia Pictures Industries, Inc. and TSG Entertainment II LLC. All Rights Reserved.

また、サンドラ・ブロックの電話越しの声だけの出演も印象的でした。彼女は本作を最後に一時引退すると発表しており、そういった背景を知って観ると、ラストシーンでの登場がより感慨深く感じられます。

脇を固める個性派俳優たち

ブラピ以外のキャストも素晴らしい仕事をしています。ブライアン・タイリー・ヘンリーとアーロン・テイラー=ジョンソンが演じるレモンとタンジェリンは、本作の心臓部とも言える存在です。二人のコンビネーション、掛け合いのテンポ、そして時折見せる兄弟愛のような絆は、観客を惹きつける大きな魅力です。

ジョーイ・キングのプリンスは、無邪気な少女に見せかけて冷酷な殺し屋という二面性を見事に演じ分けています。彼女のあどけない笑顔が、逆に不気味さを増幅させる効果は抜群でした。

真田広之とアンドリュー・浩二の父子も、物語に深みを与える重要な役割を果たしています。特に真田の存在感は圧倒的で、彼が画面に登場するだけで空気が引き締まります。そして、マイケル・シャノンのホワイト・デス。彼のベートーヴェンのような髪型とサメのような目つきは、まさにこの役のために生まれてきたかのようです。

サプライズ出演のチャニング・テイタムやライアン・レイノルズ、バッド・バニーも、短い出演時間ながら強烈な印象を残しています。

音楽とポップカルチャーが彩る世界観

本作のサウンドトラックも特筆すべき要素です。冒頭で流れる「ステイン・アライブ」から始まり、随所に挿入される楽曲が、シーンに独特のリズムを与えています。特に印象的だったのは、唐突に流れる「上を向いて歩こう」です。日本を舞台にした映画で日本の名曲を使うのは外国人へのサービスとも取れますが、この選曲には深い意味があります。「上を向いて歩こう」は海外では「Sukiyaki」というタイトルで知られており、ハリウッドが日本をどう見ているかの象徴でもあるのです。

また、レモンが「きかんしゃトーマス」に執着する設定も、ポップカルチャーへのオマージュとして機能しています。子供向けアニメのキャラクターを使って人間性を分析するという発想は、殺し屋という非日常的な存在に、妙な親しみを与える効果があります。

惜しい点:テンポと尺のバランス

気になった点も挙げておきましょう。まず、コメディ要素が時として空回りしている場面がありました。同じギャグを繰り返したり、キャラクターが同じことを何度も言ったりするシーンは、テンポを損なっています。ガイ・リッチーやタランティーノの作品が持つ切れ味鋭いユーモアには、わずかに及ばない印象を受けました。

また、上映時間126分は、このタイプの作品としてはやや長く感じられます。特に中盤で少しだれる瞬間があり、20分ほどカットしても物語は成立したのではないでしょうか。A級アクションスターのカメオ出演を詰め込みすぎた結果、本筋から逸れる場面が増えてしまったように思います。

まとめ:疾走する列車の中で描かれる、人生という名の因果応報

映画『ブレット・トレイン』は、時刻表通りに進んでいるように見えて、その中にいる人間たちは予想外のトラブルに次々と見舞われる。計画通りにいかない人生をどう生きるか、運命とどう向き合うかと捉えることもできる作品です。

ただそんな高尚なことを考えずにハリウッド流の”トンチキ日本描写”は、確かにツッコミどころ満載です。しかし、それを超えて楽しめる懐の深さこそが、本作の真の魅力ではないでしょうか。完璧なリアリティよりも、映画的な快楽を優先する選択は、娯楽映画として正しい姿勢だと感じました。

ブラッド・ピットというハリウッドのスーパースターが、日本の新幹線の中で暴れ回る。それだけで嬉しくなってしまう私たちは、きっと映画を愛する幸せな観客なのでしょう。

各サイトのレビュースコア

本ページの情報は 時点のものです。
各サイトの最新スコアは各々のサイトにてご確認ください。

このページではU-NEXTで配信中のブレット・トレインから執筆しました。

U-NEXTで配信されている「ブレット・トレイン」のあらすじ、感想、評価を紹介しました。気になる方は、ぜひ下記URLのU-NEXTからチェックしてみてください!

U-NEXT ブレット・トレイン U-NEXT ブレット・トレイン

このページは 時点のものです。
最新の配信状況は U-NEXTサイトにてご確認ください。

Categories

VOD