映画ホラー『REC レック3 ジェネシス』は、前2作からの大胆な路線変更となった映画です。第1作、第2作は、閉鎖されたアパートを舞台にしたファウンドフッテージスタイルのホラーでした。ところが本作では、冒頭こそホームビデオのファウンドフッテージで始まるものの、20分ほどで披露宴が始まりそこから通常の映画的撮影手法へと切り替わります。
この変化には賛否両論がありますが、新郎新婦が離ればなれになり、それぞれの視点で物語が進行する構造を描くには、この選択が必要だったのでしょう。
そして本作を特別なものにしているのが、結婚式という舞台設定です。人生で最も幸せな瞬間が一転して地獄絵図となるというギャップが強烈な印象を残します。愛する家族や友人がゾンビと化し、互いに襲い合う姿は、単なるホラー映画の恐怖を超えた痛みを感じさせます。特にクララが家族の一人と対峙するシーンは、彼女の表情に宿る苦悩が痛々しく、観る者の心を締め付けました。
披露宴会場という広い空間も、前2作とは異なる恐怖を生み出しています。開放的でありながら出口は封鎖され、どこに敵が潜んでいるか分からない不安感が漂います。結婚式という設定は、ゾンビホラー映画に新しい風を吹き込んだと言えるでしょう。
ウェディングドレス姿のヒロインと容赦ないゴア描写
映画ホラー『REC レック3 ジェネシス』は、ウェディングドレス姿でチェーンソーを振り回すヒロイン、クララの姿でしょう。レティシア・ドレラが演じるクララは、幸せいっぱいの新婦から生き残るために戦う戦士へと変貌します。白いウェディングドレスが血で染まっていく様子は、美しさと狂気が共存した忘れがたい映像です。

教会の地下で丸太に突き刺さったチェーンソーを引き抜く姿は、『死霊のはらわた』のアッシュを彷彿とさせます。ハイヒールでゾンビの目を突き刺すシーンなど、機転を利かせた戦い方も見せてくれる強いヒロイン像は、観客の共感を呼びます。ただし終盤で彼女が感染し、夫コルドと悲劇的な最期を迎える展開は救いがありませんが、これこそが本作の持つダークな魅力でもあります。
本作は前2作同様、容赦ないゴア描写が特徴です。CGIに頼りすぎず、特殊メイクや血糊などを使った古典的な手法が多用されているのか、2012年のCGIにはないリアリティのある恐怖を生み出しています。
ネタバレありの印象的なシーン
クララがチェーンソーでゾンビを切り裂くシーンや感染した腕を切断されるシーンは特に強烈でした。終盤のラストシーンも非常にダークです。感染したクララが愛する夫にキスをし、その舌を噛み切ってしまう。二人は抱き合ったまま銃で撃たれ、手を繋いだまま息絶えます。この救いのない結末は、あまりにも残酷で後味の悪さを残します。
また本作のサブタイトル「ジェネシス(起源)」が示す通り、シリーズ全体の謎に迫る要素も含まれています。聖書の朗読によってゾンビが静止するという設定が登場し、彼らが単なるウイルス感染者ではなく、悪霊や悪魔に憑依された存在であることが示されます。新郎の叔父が第1作で感染した犬に噛まれた獣医という設定は、シリーズファンにとって嬉しいサプライズでしょう。ただし神父による説明的なシーンは、前2作の謎めいた緊張感と比べるとやや説明過多に感じられました。
コメディとホラー、演出の課題と前2作との比較
映画ホラー『REC レック3 ジェネシス』の特徴の一つは、コメディ要素の導入です。スポンジ・ボブの着ぐるみを着た「スポンジ・ジョン」や、著作権問題をネタにしたメタ的なジョークなど、監督の遊び心が随所に感じられます。重苦しい雰囲気に息抜きを与えてくれる一方、ホラーの緊張感を削いでしまう面もあります。特に聖書の朗読でゾンビが静止するのに、補聴器をつけた祖父だけ動き続けるというギャグは、シリアスな場面での唐突な笑いとなってしまいました。『死霊のはらわた』や『ゾンビランド』のように笑いと恐怖を両立させた名作もありますが、本作は完全には成功していません。
演出と構成にも課題があります。物語の中盤ではテンポが悪く、冗長に感じる場面が続きます。披露宴会場の広大な敷地は前2作のような閉塞感がなく、「逃げられるかもしれない」という希望が極限状況の恐怖を薄めてしまっています。また、地下トンネルから脱出後に穴を塞がないなど、脚本の詰めの甘さも見られました。ただし、こうした粗は低予算ホラー映画にはつきものです。勢いとエンターテインメント性を楽しむ姿勢で観れば、十分に楽しめる作品でしょう。
前2作と比較すると、失われたものと得たものがあります。失われたのは、ファウンドフッテージスタイルがもたらした緊迫感と臨場感です。手持ちカメラの揺れ、限られた視界、突然現れる恐怖──前2作の没入感は、通常の撮影手法に移行したことで大きく損なわれました。一方で、新郎新婦が別々の場所で行動する様子を同時進行で描けるようになり、物語の展開はよりドラマチックになりました。ウェディングドレス姿でチェーンソーを振り回すという強烈なビジュアルも、通常の撮影だからこそ美しく映えています。
まとめ:挑戦と冒険の価値
スペイン映画ホラー『REC レック3 ジェネシス』は、シリーズの転換点となった作品といえるでしょう。前2作が築いた成功の方程式を捨て、新しい試みに挑戦したパコ・プラサ監督の勇気があります。
シリーズ1と2のファウンドフッテージスタイルからの転換、コメディとホラーの不安定なバランス、構成上の問題点は批判すべき点かもしれません。
しかし、映画作りにおいて「安全な道」だけを選ぶことが正解でしょうか。続編やシリーズ作品において、前作の成功を繰り返すだけでは、やがてマンネリ化してしまいます。新しいことに挑戦し、時には失敗することも、創作活動には必要なプロセスなのです。
『REC レック3 ジェネシス』は、結婚式という新しい舞台を設定し、コメディ要素を導入し、撮影スタイルを変更しました。正直なところその全てが成功したとは言えないかもしれません。しかしながらこの冒険心こそが映画の未来を切り開くのです。
ウェディングドレス姿でチェーンソーを振り回すクララの姿は、忘れがたいビジュアルとして観客の記憶に残るでしょう。結婚式が悪夢に変わる瞬間の衝撃も、ホラー映画史に刻まれる一コマとなるはずです。
前2作を愛するファンであれば、本作には物足りなさを感じるかもしれません。しかし、シリーズ全体の一篇として、そして新しい試みへの挑戦として観れば、『REC レック3 ジェネシス』には確かな価値があります。




