2008年公開の『アイアンマン』から始まり、以降2010年代の映画業界を席巻したとも言ってよいではないかと思わせるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)。そんなMCUに新たなヒーローとして「アントマン」が登場しました。アントマンを主人公とした映画『アントマン』は、『アイアンマン3』から始まったフェーズ2を締めくくる作品として公開されました。アントマンは特別な力をもったヒーローや正義感をもった人でもなく、巻き込まれた人間です。
劇場公開されたMCUの映画作品の中で最も低予算の制作費が投じられた本作は、主人公がおじさんであり、アントマン自体の知名度もものすごく高いわけでもないため(筆者もこの映画で初めてしりました)、地味な作品とされてきました。けれども、映画公開後に独特な魅力でファンを惹きつける、人気作品となりました。アントマン自身はそれ以降の作品でも大切な鍵を握るキャラクターとなるなど、本作以降も大活躍を見せていきます。
ですので物語や世界観のスケールが大きくなく、良い感じに小さく(他が大きすぎると思いますが)とてもしっくりきました。

娘を大切にするお父さんヒーロー
映画『アントマン』の主人公スコット・ラングは、MCUに登場してきたヒーローの中で珍しく父親であることが前面に押し出されたキャラクターです。本作では、スコットがいかにしてヒーローであるアントマンになっていくかが描かれています。彼の原動力になっているのは、良くも悪くもいつだって娘のキャシーの存在でした。窃盗罪で服役していた彼が構成しようと思えたのも、定職に就こうと努力できたのも全てはキャシーのため。それでもどうしようもなくなって犯罪の道へと戻ってしまうのも、キャシーのためという気持ちが少なからずあったからです。はたから見ればダメダメなお父さんともいえそうなスコットですが、キャシーが彼を非常に慕っていることから、スコットの人の良さが伺えます。

本作では、もう一組の父娘も活躍します。それが、初代アントマンであるハンク・ピム博士とその娘のホープです。スコットとキャシーの父娘関係は、どんなにスコットがダメダメでも崩れない、非常に強い絆に上に築かれています。しかしながら、ピムとホープの関係は冷え込んでおり、スコットたちとは全く違う関係です。それでも、娘のため、世界のためにヒーローとして懸命に頑張る点は、どちらのアントマンにも共通しているポイントです。この二組の異なった父娘関係が織りなす物語が、多くの人の心をつかんだのではないでしょうか。実際、公開当時は涙ぐむお父さんたちが劇場から出てきた、なんて話題にもなりました。
抜群のコメディセンス
映画『アントマン』の大きな見どころの一つは、抜群のコメディセンスです。主人公が元犯罪者な普通の子持ちなおじさん、の時点で他のMCU作品とは一線を画していましたが、独特のユーモアのセンスもまた、人々から愛される理由だと思います。本作で抜群のコメディセンスを見せつけているのが、スコット役を演じるポール・ラッドです。アメリカの大人気コメディドラマ『フレンズ』への出演経験もある俳優で、シリーズの終盤から登場したキャラクターにもかかわらず多くの人々から人気を集め、人気者となりました。これ以降、さまざまなコメディ映画にも出演していて、コミカルな演技に定評があります。そのセンスを本作でも存分に楽しむことができます。
さらに作品を面白くしてくれているのが、スコットの泥棒仲間ルイス、デイヴ、カートたちです。特に人気が高いのが、顔が広くあらゆるコネクションを駆使して情報収集を担当しているルイスです。物事を説明する際に前置きが非常に長く、大幅に脱線してから本題を話すのが特徴で、早口かつラテン調なルイスの話はとても面白くて、見るたびに笑ってしまいます。他の作品にも登場して欲しいという要望も多く上がるほどの人気です。また、よく言い争いにも参加しているデイヴと、対照的に表情が乏しくどこか異様な雰囲気を放つカートも含めた4人の空気感・テンポ感も面白く、多くの人々の心を奪っている窃盗団です。

たくさんの「おなじみ」が登場する演出
映画『アントマン』のコメディは、キャラクターや役者の身ではありません。細かい演出からもユーモアがにじみ出ていて、そこが愛されるポイントでもあります。例えば、出所したばかりのスコットの働き先となったのが、日本ではサーティワンの名前でおなじみのアイスクリームチェーン店バスキン・ロビンズです。この直前に「電気工学の修士号を持っているから就職先はすぐに見つかる!」と豪語していたところからの落差に、笑わずにいられる人はいないのではないでしょうか。あの特徴的なピンクの衣装とエプロンがさらなる笑いを誘います。そこすらも前科のせいですぐにクビになってしまうなど、スコットのダメっぷりを象徴する素晴らしいシーンだったと思います。
更に多くの人の注目を集めたのが、クライマックスのバトルシーンに登場するきかんしゃトーマスです。きかんしゃトーマスといえば、イギリス発の子供たちに大人気のキャラクターですが、まさかの場面でまさかの活躍をしてくれます。絵面として非常に笑える強烈なシーンとなっているので、もしまだご覧になっていない方がいらっしゃればぜひ、本編を見て確認してみてください。 映画『アントマン』は、それまでのMCUの「かっこイイ」ばかりが表面に出ていたヒーロー像とは全く異なるヒーローを提示してくれる一作です。父娘の物語に心を掴まれつつ、作品全体包むユーモラスな空気に、思わず笑いだしてしまう作品です。泣いて笑って日常のストレスから解放されたい方に特におすすめの一作になっています。
ヒーローになる理由も一人娘の「尊敬されるような父親になる」いたってシンプルだけど、とても骨太で共感しやい作品となっていました。