劇場版 アニメ
アップルシード アルファ:廃墟のニューヨークで蘇る希望の物語

Score 3.3

士郎正宗の名作漫画『アップルシード』を原作とする本作は、シリーズの新たな起点となるフルCGIアニメーションです。過去の作品とは一線を画し、荒廃した世界で生き延びる二人の元兵士の物語を描いています。圧倒的な映像美とキャラクターの魅力は健在ですが、ストーリーの単純さや既視感が課題として残ります。アップルシードシリーズの入門編として、また映像技術の進化を体感したい方におすすめの一作です。

原題
Appleseed Alpha
公式サイト
https://www.aniplex.co.jp/lineup/appleseedalpha/

2014 Lucent Pictures Entertainment Inc. /Sony Pictures Worldwide Acquisitions Inc.

監督
登場人物
デュナン

Actor: 小松由佳

他の作品:

元 SWAT 隊員。荒廃した世界で立ち回りながら、生き延びを試みる。ブリアレオスと行動を共にしながら、理想都市 “オリュンポス” への道を探る。

ブリアレオス

Actor: 諏訪部順一

デュナンの相棒。すでにサイボーグ化しており、体の機能が損なわれていく中で、デュナンと共に戦う。

Iris / Hitomi

Actor: 悠木碧

他の作品:

オリュンポスと関わる少女(バイオロイドあるいはその型)。物語の鍵を握る存在。

Olson

Actor: 高橋広樹

サイバネティクス技術を持つ兵士。Iris と共に旅をしており、彼/彼女の過去や使命などが絡む。

Nyx

Actor: 金田朋子

反対勢力や敵対キャラクター。

配給会社
制作会社

ここがおすすめ!

  • リアルな質感と滑らかな動きが実写と見紛うほどのCGI技術
  • シリーズの魅力である二人の関係性が丁寧に描かれる
  • ポスト・アポカリプスの世界観

あらすじ

第5次非核大戦で荒廃した近未来のニューヨーク。元SWATの女傭兵デュナンと全身サイボーグのブリアレオスは、仕事で出会ったアイリスとオルソンを守るうちに、人類の希望をかけた戦いとオリュンポスへ至る運命に巻き込まれていく。

アップルシード アルファ | アニメ | 株式会社アニプレックス

アニメ「アップルシード アルファ(APPLESEED ALPHA)」を視聴して圧倒されるのは、その映像美です。フルCGIで制作された本作は、キャラクターの髪の毛の質感、水の表現、爆発シーンの迫力など、細部に至るまで驚くべきクオリティを誇ります。特にブリアレオスのサイボーグとしてのデザインは秀逸で、タンクのような重厚な体躯と精密な機械構造が見事に表現されていました。

画像出典(Appleseed Alpha OFFICIAL Trailer by Sony Pictures Entertainment

画面を通して観ていると、冒頭シーンでは「これは実写なのか、それともアニメーションなのか」と本気で迷うほどです。キャラクターが歩くシーンでは、その動きの自然さに思わず見入ってしまいます。廃墟となったニューヨークの背景美術も素晴らしく、荒廃した都市を探索したくなるような魅力がありました。

しかし、この圧倒的な映像技術が物語の薄さを補いきれていないのも事実です。美しい器に盛られた料理の味が物足りないような、そんな印象を受けました。

デュナンとブリアレオス―絆が紡ぐ物語の核心

アップルシード アルファ(APPLESEED ALPHA)は、主人公デュナンとブリアレオスの関係性にあります。この二人はアップルシードシリーズにおける「バディ・コップ」的な存在で、互いへの深い信頼と愛情が物語の根幹を支えています。

そして声優として演じている小松さんと諏訪部さんの両名は、この複雑な関係性を見事に演じ分けています。デュナンの強さと脆さ、ブリアレオスの寡黙ながらも深い愛情。二人の掛け合いには、まるでクリント・イーストウッドを彷彿とさせるような渋さと、同時に温かみがありました。

特に印象的だったのは、ブリアレオスがトゥーホーンズの整備士によって意図的にシステムを弱体化されていたことが判明するシーンです。デュナンの怒りと、それでも冷静に状況を分析するブリアレオスの対比が、二人の絆の深さを物語っていました。

ハリウッド流リブートの野心と既視感の狭間で

2015年の公開された『アップルシード アルファ』は、荒牧伸志監督が過去に手がけた劇場版2作(2004年、2007年)とは直接的なストーリー上の繋がりを持たない「リブート作品」として制作されました。

インタビュー記事によると荒牧監督は続編ではない「新しい切り口」を模索する中で、主人公であるデュナンとブリアレオスが、人類の理想郷である都市オリュンポスにたどり着くまでの「前日譚」を描くことを発案。これは、複雑な設定を持つ原作を「心機一転して、シンプルでおもしろい物語」として再構築し、従来のファンだけでなく、初めて『アップルシード』に触れる観客でも抵抗なく楽しめる、ストレートなエンターテインメント作品を目指すという明確なコンセプトに基づいています。

オリジナリティと汎用性の狭間で

デュナンとブリアレオスのデザインは原作のエッセンスを残しつつ、リアル路線で再構築されており、特にブリアレオスの存在感は圧巻でした。

一方で、トゥーホーンズという新キャラクターのデザインは非常にユニークです。彼の登場シーンで流れる音楽と相まって、強烈な印象を残します。「彼は一体何者なのか」という謎が、視聴者の興味を引きつけました。

しかし、敵メカのデザインには残念な点があります。士郎正宗は世界屈指のメカデザイナーとして知られていますが、本作のメカは『クライシス』などの既存作品の影響が強く、オリジナリティに欠けています。原作のデザインをそのまま活用すれば、もっと魅力的になったはずです。

アクションシーン―派手さと物足りなさの共存

アクションシーンについては、2004年版『アップルシード』や2007年の『エクスマキナ』と比較すると、やや控えめな印象を受けました。前作では、デュナンがメカから飛び出して敵を一掃するような派手な演出がありましたが、本作ではそこまでの爽快感はありません。

ただし、タンクバトルや廃墟での戦闘シーンは見応えがあります。特にブリアレオスとタロスの部下ニクスとの一騎打ちは緊張感に満ちており、サイボーグ同士の格闘戦の迫力を堪能できました。

音楽面では、高橋瑛士氏のスコアが素晴らしく、まるでダフト・パンクが『トロン』で手がけたような電子音楽の美しさがあります。ただし、楽曲の使用頻度が少ないのが惜しまれます。

シリーズの転換点として―グリッティ・リブートの功罪

アップルシードシリーズのファンにとって、本作は大きな転換点となる作品です。2004年版や『エクスマキナ』で描かれた、きらびやかなオリンポスの塔や調和的な社会は本作には登場しません。代わりに提示されるのは、爆撃で破壊された都市景観と、生き延びるために戦う人々の姿です。

これは明らかに意図的な選択です。本作は「グリッティ・リブート(暗くシリアスな再起動)」というハリウッド的手法を採用しており、『バットマン ビギンズ』のように、より現実的で過酷な世界観を提示しています。この方向性は、ポスト・アポカリプス作品が飽和状態にある現代において、逆に「ありふれた」印象を与えてしまっているのが皮肉です。

一方で、シリーズを知らない視聴者にとって、本作は良い入門編になります。複雑な設定や前提知識を必要とせず、シンプルなアクション映画として楽しめる構造になっています。ただし、士郎正宗の世界観を深く愛する視聴者にとっては、物足りなさを感じる部分もあるでしょう。

キャラクター描写についても触れておく必要があります。原作やアニメ版では、デュナンは自立した強い女性戦士として描かれていましたが、本作では時折「守られる存在」になってしまうシーンが目立ちます。特に戦闘服のデザインについては疑問が残ります。胴体と腹部が露出したデザインは、実際の戦闘では致命的な弱点となるはずです。もちろん、これはアニメーション作品であり、ある程度の様式美は許容されるべきですが、デュナンというキャラクターの本質を考えると、もう少し配慮があっても良かったのではないでしょうか。

まとめ:映像美と物語性のバランスを問う作品

『アップルシード アルファ』は、CGI技術の進化を体感できる視覚的な饗宴であり、デュナンとブリアレオスの絆を描いた心温まる物語でもあります。しかし同時に、ストーリーの既視感や、実写映画を目指したことによる「アニメーションならではの表現」の欠如という課題も抱えています。

本作を観て考えさせられるのは、「映像技術の進化は、必ずしも作品の深みを保証しない」という事実です。美しいCGIに魂を吹き込むには、やはり物語の力が不可欠に感じてしまいました。

それでも、本作には確かな価値があります。荒廃した世界で希望を失わずに生きる二人の姿は、現代を生きる私たちにも通じるメッセージを持っています。ラストシーンでヒトミが語る「彼らはリンゴの種のようだ。どこへ行っても希望が芽吹く」という言葉は、技術的な完璧さよりも、人間性こそが真の希望をもたらすという普遍的なテーマを示しています。

アップルシードシリーズのファンには、過去作品との比較を楽しみながら。そして初めて触れる方には、士郎正宗が創造した壮大な世界への入口として楽しめる作品でした。

各サイトのレビュースコア

観客評価:

  • 日本の観客レビューサイトでは辛口傾向:
  • 海外(英語圏)観客レビューでは「映像はすごいが、物語が物足りない」という声も。たとえば IMDb のレビューページでは「アニメーションは映画のよう」「ストーリーは粗さがある」などのコメントあり。 oai_citation:2‡IMDb
  • ただし、観客側で「映像だけでも観て良かった」という好意的な意見も見られます。例:「The animation is so brilliant…」 oai_citation:3‡IMDb

乖離の考察

観客からの評価が「可もなく不可もなく」という中庸~やや低め(日本では2.9〜3.2/5)である一方、批評家/専門系レビューでは「視覚・CG表現」に関して高い評価が目立ちます。
その結果、「映像技術=高評価/物語構成=やや不満」という構図が浮かび上がり、批評家と観客の評価がややずれていると言えます。特に、観客のなかには「ストーリーが薄い」「前提知識(シリーズ/原作)ありき」で分かりにくかった」という声があります。

この乖離が起こる理由としては、次のような要因が考えられます:

  • 観客は「話としての満足感」「キャラクターとの共感」「テンポ・盛り上がり」を重視しがちですが、本作では映像に比してその部分が弱かったとの指摘あり。
  • 一方で批評家(映像表現・アニメーション美・技術的挑戦)を評価する立場からは、その点で「進化」を感じており、視覚的インパクトに価値を見出している。
  • また、シリーズ既存ファン/原作ファンかどうかで期待値が異なるため、観客評価にバラツキが出やすい。

プラットフォームごとの評価傾向

以下、各プラットフォームのスコア/レビューコメントを整理しつつ、傾向を分析します。

IMDb

  • IMDb本ページでは公式平均スコアとして「6.5/10」が提示されています。
    (提示データ:6.5/10)
  • コメント例:

    “The animation is so brilliant that sometimes it looks like a filmed movie. … The storyline would have greatly benefited from a multi-episode arc instead of being crunched down to 90 minutes.”
    “The animation is the film’s saving grace … The story and dialogue are particularly weak and unoriginal.”

  • 傾向として:映像・アクションを高く評価する一方、脚本/キャラクター描写に対しては辛め。国際的なユーザー層ゆえに「アニメ/SF好き」も多く、ある程度良評価に傾きつつも“物語的満足”を求める声も強い。

Filmarks(日本)

  • スコア:3.2/5。
  • 内訳(ユーザー投稿892件):「4.1-5.0 評価」7%、「3.1-4.0」47%、「2.1-3.0」38%、「1.0-2.0」8%。
  • コメント傾向:「デザインもアートも良い」「未見の過去作も見てみよう」という前向きな声もあれば、「ゲームのムービーを延々眺めているようだ」「キャラの表情が固い」という批判も。
  • 傾向として:日本観客は「話の中身/キャラクターの掘り下げ」「情緒的な満足」に敏感で、その点で本作はやや評価が低めになっている。

映画.com(日本)

  • スコア:2.9/5。
  • “日本の観客レビュー”として比較的辛めのライン。観客として「劇場映画として期待した構成」「シリーズ・原作との整合性」「キャラクターの魅力」という視点を持っている人が多いため、技術的な美しさだけでは高評価に結び付きにくい。

Rotten Tomatoes(批評家/観客スコア)

  • 本作のページでは「Tomatometer(批評家スコア)」のレビュー数が0、かつ「Audience Score(観客スコア)」の登録も少数。
  • したがって、批評家‐観客の明確な数値的乖離を示すデータは得づらいものの、レビュー数が少ないこと自体が“声が小さい/万人受けではない”という印象を与えます。
  • 傾向として、「極端に振れやすい/大きな話題にならない」プラットフォーム特性があると一般論で言えますが、本作ではデータ数が少ないため評価の信頼度が低めです。

総合的に見た映画の立ち位置

  • 観客向け/批評家向け:
    映像・技術的チャレンジ(3D・フルCG・サイバーパンク演出)においては“批評家寄り”の評価を受けうる作品です。一方で、物語の深みやキャラクターの魅力、シリーズ未経験者への敷居などでは“観客向け”に完全には達しておらず、むしろ観客を限定するタイプの作品と言えます。
  • 国際的かローカルか:
    製作が日米合作的で、英語音声版も用意されており、国際的な展開を意図しています。とはいえ、日本国内の観客評価が控えめという点から“ローカル”なファン層・シリーズファン向けのサブカルチャー作品という側面も強いです。
  • 位置づけまとめ:
    → 「ハードSF/サイバーパンク好き向け、アニメーション表現を重視する鑑賞スタイル向けの作品」
    → 「グローバル市場を意識した映像作品だが、一般大衆の“感情的満足”や“キャラの共感”にはやや届きにくい」

結論

『アップルシード アルファ』は、CGアニメーションという“見せ場”を前面に押し出した意欲作です。映像・世界観構築(特に荒廃した都市/サイボーグ兵器)などは一定の水準を超えており、映像表現を重視する批評的視点からは高く評価されうると言えます。

しかしながら、ストーリーの構成、キャラクターの魅力・掘り下げ、シリーズ未経験者への配慮という観点では、観客一般が求める“物語に没入する”という期待には部分的に応えきれておらず、その結果として観客スコアがやや低めに留まっていると考えられます。

アニメ・SF・サイバーパンクの文脈で「技術/映像体験」を味わいたい人には強く薦められます。逆に、キャラクターの心情劇やドラマ性を重視する人にはちょっと物足りないかもしれません。

本ページの情報は 時点のものです。
各サイトの最新スコアは各々のサイトにてご確認ください。

このページではで配信中のアップルシード アルファから執筆しました。

で配信されている「アップルシード アルファ」のあらすじ、感想、評価を紹介しました。気になる方は、ぜひ下記URLのからチェックしてみてください!

 アップルシード アルファ アップルシード アルファ

このページは 時点のものです。
最新の配信状況は サイトにてご確認ください。

Categories

VOD