「猿の惑星」は1968年の初作公開以降、幅広い層に支持される伝説的な気映画シリーズです。そしてそのリブートシリーズとして2011年に公開された映画「猿の惑星:創世記」から、新たなシリーズが始まりました。その続編として公開されたのが映画「猿の惑星:新世紀」です。シリーズ1作目を超える興行収入を記録した本作は、批評家からも前作を超える高い評価を獲得しています。
興行収入
- 猿の惑星:創世記
- 予算: 9300万ドル
- 世界興行収入: 4.8億ドル
- 猿の惑星:新世紀
- 予算: 1.7億ドル
- 世界興行収入: 7.1億ドル
丁寧に描かれる繊細な心の動き
映画「猿の惑星:新世紀」で特筆すべきなのは、やはり繊細な心の動きが丁寧に描写されていることでしょう。大作映画ではついつい派手なアクションや派手なCG使用した特殊効果に目を奪われがちですが、そんな中で本作は心理描写への注力が伝わってきます。これを可能にした脚本は、世界中から高く評価されています。脚本家は前作の「猿の惑星:新世紀」と同じくリック・ジャッファ&アマンダ・シルヴァーとトータル・リコール2012で有名な マーク・ボンバック になります。
本作で描かれているのは、前作から約10年後の世界です。エイプたちのリーダーとなったシーザーが、エイプの生き残りと人間との共存という難題に悩む姿が語られていきます。シーザーという名前からどうしても連想せざるを得ないのが、古代ローマの政治家であるガイウス・ユリウス・カエサルです。シーザーはカエサルの英語読みで、英国の劇作家ウィリアム・シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」でも広く知られています。この劇は題名こそシーザーから取られているものの、物語のわりと序盤で本人は暗殺されてしまうため、彼について多くが語られているわけではありません。この劇の主人公は、シーザーを暗殺したブルータスです。

「猿の惑星:新世紀」自体は、「ジュリアス・シーザー」との直接的な関係性はあまり見られませんが、リーダーとして葛藤していくシーザーの様子は、シェイクスピア的であるとも評価されていて、まさに適切な評価だと思います。どんなに優秀なリーダーであったとしても、必ずしも仲間たちを適切に導けるというわけではありません。どれだけ素晴らしい倫理観や道徳観、正義感を持っていたとしても、リーダーという立場である以上、自分の考えのみに基づいて行動することもできません。この内面の葛藤と、彼を追い込んでいく周囲の状況がとても丁寧に描かれていたと思います。
前作からよりスケールアップした技術
映画『猿の惑星:新世紀』を語る上で外せないのが、素晴らしい映像技術、特にCGです。前作でもこれらの映像技術は抜きんでていましたが、本作ではより豊かな表現力を持っていたと言えるのではないでした。本作には派手なアクションもある反面、静かな心理描写も多くありました。特にカギとなっているのが、エイプたちの心理描写です。主にCGで造形される彼らのビジュアルがリアルさに欠けると、観客が彼らに感情移入することは難しいでしょう。けれども本作では前作以上にリアルにエイプたちの姿が映し出されており、自然と感情移入することができました。

エイプたちは服を着ていませんし、毛の色も基本的には茶色のため、見た目だけでどのキャラクターかを判別するのは、なかなかに困難です。それでも見分けがつくのは、やはりそれぞれの表情が異なっているからでしょう。モーションキャプチャーで作り上げられるそれぞれのリアルな表情は、人間と実際の猿の両者から要素を取っているように感じられます。もちろん、主人公たちを演じたアンディー・サーキスをはじめとした役者さんたちの演技も素晴らしいですが、これを可能にした技術の進化にも舌を巻かずにいられません。
なぜ戦争に向かうのか
映画では前作のラストでパンデミックにより大きく数を減らした人類が、数を減らした後の世界が描かれています。数少ない生き残りがエネルギー源を求めて、エイプたちの領域へと侵入し、そして最終的には人間とエイプが戦争へと身を投じていくことになります。
「猿の惑星」シリーズは長い間、人種問題について語り続ける作品です。恐怖や不安、憎悪や暴力、自分たちを正当化して戦争に突き進んでいく様は、まさに人類の歴史であり未来になりかねない描写だったと感じました。人間とエイプの物語なのに、どこか人がたどってきた道を映している気がしてならない。
そんな深く普遍的なテーマがあるからだと思う.今作はそれを丁寧に描きながら,同時に娯楽アクション大作としても成り立つ絶妙な展開で,傑作に仕上がっていました。そしてラストのシーザーの眼力は、望んだわけではないが愛する者達を守り導くため、強さと悲しみにみちていて次回作への期待が高まりました。
映画『猿の惑星:新世紀』は新たな「猿の惑星」シリーズにおいて、非常に評価の高い作品です。巧みなCG技術とキャラクターの内面の葛藤を描いた脚本が光る大作であると同時に、パンデミックを経て多くの戦争が起こっている現在に見ると、より強く感じるものがあるのではないでしょうか。本編が時間以上と少し長い作品ですが、私たちの置かれている状況について考えるためにも、腰を落ち着けて鑑賞することをお勧めな作品となっていました。