「映画界屈指の映像派」リドリー・スコット監督作品
本作「エクソダス:神と王」は旧約聖書「出エジプト記」を原作とし、「エイリアン」「グラディエーター」で知られる巨匠リドリー・スコット監督です。
神の啓示を受け、ヘブライ人の奴隷解放を実現する為たった一人でエジプト国王に立ち向かった伝説の英雄、モーセの一生を壮大なスケール感と圧倒的な映像美で描き出す、2時間30分にわたる大作です。
しかしながら正直な感想としては、旧約聖書の内容に忠実に映像化しているということもあり、エンターテイメント的な展開は乏しく、純粋なエンタメ映画と比較すればストーリー展開が冗長な感じが否めませんでした。旧約聖書「出エジプト記」の内容を知っている人が見れば、退屈に映ることもあるかもしれません。
ただそれを補うだけの壮大で圧倒される迫力とCG技術を駆使した美しい映像美があるので、アクション映画が好きな人であれば、それだけでも楽しめるかと思います。
この映像の美しさに関しては、リドリー・スコット監督であってこその魅力かもしれません。
「出エジプト記」を扱った過去の名作「十戒」との比較から評価
1956年に本作と同じ「出エジプト記」がテーマの映画「十戒」が公開されています。(監督:セシル・B・デミル)今から60年以上も前の映画ですが、「出エジプト記」扱う映画の中でも高い評価を得ている名作です。
「十戒」は北米での興行収入が約8500万ドル(2020年代基準だと約20億ドル及びます)にもなり、これは当時の年間興行成績第1位となりました。またアカデミー賞(第29回・1957年)では視覚効果賞(Best Visual Effects)を受賞しほか、作品賞(Best Picture)、撮影賞(カラー部門)、美術賞(カラー部門)、衣装デザイン賞(カラー部門)、編集賞、音響録音賞をノミネートされました。
そんな「古典的名作」と評価される中での「エクソダス:神と王」は話のあらすじもちろん同じなわけですが、登場人物のキャラクターの描き方や心情描写などによって作風が変わります。
あらためて描かれた「出エジプト記」
良かった点①迫力と映像美が圧倒的
60年前の映画と比較すれば当たり前のことではありますが、やはり本作の方が映像が圧倒的に綺麗です。単純に画質が良いなどの話だけではなく、スペクタクル映画の醍醐味である大量のエキストラを使用した戦闘シーンの大迫力であったり、古代エジプトの街並みや砂漠の映像の美しさは感動的でした。
これは、旧作「十戒」では味わえない本作の良さと言えます。
気になる点①モーセの出生の秘密に関する描写がない
「出エジプト記」の、モーセの出生に関するエピソードを見てみましょう。「エジプト国王ファラオが、国内で奴隷としていたヘブライ人が増えすぎたことに驚異を感じ、人口を減らすためにヘブライ人の新生児を殺害するという残虐な政策をとります。
当時ヘブライ人の赤ん坊だった主人公モーセは、この政策の犠牲にならないよう母親によって隠しながら育てられていましたが、モーセの存在を隠し切ることに限界を感じた母親は、葦で編まれた籠舟に幼いモーセを乗せてナイル川に流します。
これが、たまたま下流で水遊びをしていた国王ファラオの娘に拾われ、これを見届けていたモーセの姉が機転を利かせたことでモーセは殺されずに済み、再び母親のもとで育てられることになります。
後に成長したモーセは、ファラオの娘のもとへ養子として入ることとなり、国王の息子であり後継ぎのラムセスと兄弟同然に育てられることとなります。」この描写は物語の肝であるモーセの出生を語る上では重要な気がするのですが、
本作「エクソダス:神と王」ではここについての描写はなく、モーセが劇中で訪ねるヘブライ人の長老の口から語られる形で明らかになります。
旧作「十戒」ではこの描写が描かれているので、比較した時にこの描写がないことに不満を感じている方も多いようです。
気になる点②「エクソダス:神と王」はモーゼとラムセスの仲を語る描写が薄い。

前述の通り、エジプト国王ファラオの息子であり後継ぎの「ラムセス」と、本作の主人公「モーセ」は、兄弟のような関係性で育ちます。
ラムセスはモーセの出生の秘密、つまりモーセがヘブライ人の生まれであることを知りませんでしたが、ラムセスが王位を継承したのちに王族内の人間の密告によりラムセスの耳にもモーセの出生の秘密が入ることとなり、モーセは王族から追放されます。
本作では、それまでの2人は単純に仲のいい兄弟のような関係性で描かれていますが、旧作「十戒」では、優秀で周囲の信頼も厚いモーセに対するラムセスの嫉妬心などを描いた人間ドラマがあり、複雑な人間関係が細やかに描かれることで映画を盛り上げています。
本作は他の人間の描写にも同じ印象で、全体的に登場人物同士の関係性についての細かい描写が旧作に比べて少なく、この点でも少し物足りない感じがしました。
まとめ
『エクソダス:神と王』は、現代的な心理ドラマとリアリズムを志向し、信仰というより「人間としてのモーセ」に焦点を当てた作品でした。映像作品として、映像美やスケール感で旧作『十戒』を凌ぐ迫力があります。特に古代エジプトの描写や戦闘シーンは圧巻です。ただモーセの出生やラムセスとの関係性といった重要な人間ドラマの描写が省略・簡略化されており、旧作と比べて物語の深みや感情の厚みに欠ける点が残念です。また、聖書の描写からの逸脱や神の描き方など、宗教的な忠実度はやや低く、解釈に大胆さが見られます。