映画「ファイナル・デッドブラッド」の原案を手がけたジョン・ワッツです。彼は、『スパイダーマン:ホームカミング』『ファー・フロム・ホーム』『ノー・ウェイ・ホーム』というMCU三部作で世界的な成功を収めた監督です。彼が『ファイナル・デスティネーション』のような古典的ホラーに原案提供したことは意外に思えました。
ワッツの映画作りは、常に「観客の期待を裏切りながら満足させる」ことに重点を置いています。『スパイダーマン』シリーズでも、予測可能な展開を避け、観客を驚かせ続けました。その手法は『ファイナル・デッドブラッド』にも色濃く反映されていると思いました。スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームで旧作のスパイダーマンが揃った時は驚きと感動しました。

すべてをリアルタイムに観ていました。それぞれのスパイダーマンでは悲しい物語があり、それがいつからでもやり直せる。これを今作を観ながら感じて「ありがとう」という思いを旨に心が温かくなりました。
また脚本を担当したガイ・ブジックは、近年のホラー映画界で最も注目される脚本家の一人です。『レディ・オア・ノット』『スクリーム』(2022)、『スクリーム VI』(2023)、そして『アビゲイル』と、次々とヒット作を生み出してきました。
ブジックの脚本の特徴は、ホラーの文法を熟知しながらも、決してそれに甘んじない点にあります。観客が「こうなるだろう」と予測する展開を意図的に外し、しかし最終的には満足感を与える。この高度なバランス感覚が、彼の作品を際立たせています。
監督を務めたザック・リポフスキーとアダム・B・スタインは、カナダ出身の映画監督デュオです。代表作には『フリークス 能力者を保護せよ』などがありますが、メジャー作品の監督は本作が初めてとなります。
彼らの演出は堅実で、派手さはありませんが確実に観客を楽しませる技術を持っていると感じました。特にアクションシーンの構成力は見事で、限られた予算内で最大限の効果を生み出すことに長けているという印象を受けました。
衝撃のオープニング、1968年のスカイビュータワー惨劇
映画冒頭の1968年シークエンスは、間違いなくシリーズ史上最高レベルの映像体験でしょう。ガラス張りの展望タワーで開催されるダンスパーティーという設定そのものが、既に不穏な空気を漂わせています。
パーティー参加者たちが「シャウト」の曲に合わせて飛び跳ねるたび、床のガラスに細かい亀裂が走ります。監督たちは観客に対して丁寧に「危険の予兆」を示していきます。工事が5ヶ月も前倒しで完成したという会話、きしむエレベーター、そして悪ガキが展望台から投げ捨てるペニー硬貨。これらすべてが後の惨劇への伏線となっています。
特に印象的なのは、投げ捨てられたペニーが換気扇に詰まり、ガス漏れを引き起こすという連鎖です。まさに『ファイナル・デスティネーション』シリーズの真骨頂である「死のピタゴラスイッチ」が、ここでは壮大なスケールで展開されます。
ガラスの床が崩れ落ちる瞬間の映像は圧巻です。人々が次々と落下し、血しぶきが舞い、ガスに引火した老婦人が炎に包まれながら走り回ります。そして極めつけは、バランスを失ったグランドピアノが落下し、助けを求める女性を押しつぶす場面です。CGIと実物効果の完璧な融合により、この惨劇は恐ろしいほどリアルに描写されていました。
三世代に渡る死の連鎖、コロンブスの卵的発想
映画『ファイナル・デッドブラッド』が過去作と決定的に異なるのは、単発の事故からの生還者を描くのではなく、世代を超えた家系全体の物語として構築されている点です。
これまでのシリーズでは「死を回避した人々が順番に命を落としていく」という基本フォーマットが繰り返されてきました。
本作は生き残った人が子供を作ったら、その子供も死の対象になるのか?という疑問に対してその答えを明確に提示しています。
冒頭のアイリスはスカイビューで多くの人々を救いました。けれども救われた人々は、その後の人生で次々と不可解な死を遂げました。そして彼らの子供たち、さらにその孫たちにまで、死の呪いは受け継がれていきます。アイリスの娘である母親世代、そして孫娘ステファニーの世代へと、時を経て死神は執拗に追いかけてくるのです。
この「三世代構造」により、物語は単なるホラーを超えた重層性を獲得しています。ステファニーが家族の歴史を辿り、祖母アイリスが生涯をかけて戦ってきた見えない敵の正体を知る過程は、世代間のトラウマや家族の絆というテーマとも結びついていると感じました。
さらに巧妙なのは、年齢順に死んでいくという新ルールの導入です。まず伯父が死に、次にその息子たち、そして母親、最後にステファニーと弟へと順番が回ってきます。この設定により、観客は「次は誰が死ぬのか」を予測しながら観ることができ、緊張感が持続します。
創意工夫に満ちた死のシーンと予想を裏切る展開
映画『ファイナル・デスティネーション』シリーズの醍醐味は、何と言っても精巧に組み立てられた「死のピタゴラスイッチ」です。本作もその伝統を受け継ぎながら、さらに進化させています。
観客は常に「誰がどう死ぬのか」を予測しようとしますが、監督たちは巧妙に期待を裏切ります。一見すると危険そうな要素が無害に終わり、まったく別の方向から死が訪れる。この予測不可能性が、シリーズの大きな魅力となっています。
本作の脚本は非常に巧妙です。観客が「こうなるだろう」と予測すると、必ずその期待を裏切ってきます。特に中盤以降の展開は、シリーズを熟知したファンであっても予想できない驚きに満ちていました。
「一度死んで蘇生すれば順番をリセットできる」というアイデアは、過去作からの継承です。しかし本作ではこのルールにも新たな解釈が加えられ、観客を混乱させます。何が正解なのか、どうすれば死から逃れられるのか、最後まで答えは明かされません。
そして訪れる絶望の結末。すべての努力が無駄に終わる瞬間、観客は改めて現代の「ファイナル・デスティネーション(Final Destination)」というタイトルの意味を理解します。死は最終目的地であり、誰も逃れることはできないのです。
エンドクレジットでは、赤い糸で結ばれた犠牲者たちの相関図の上を、あのペニー硬貨が転がっていきます。1960年代から2020年代まで、三世代に渡る死の連鎖。すべての始まりとなった一枚の硬貨。この演出が、物語全体に深い余韻を残します。

本作は『ファイナル・デスティネーション』シリーズ第6作目という位置づけですが、実質的には新たな始まりとして機能しています。過去作との直接的な繋がりは最小限に抑えられており、今作から観始めても十分に楽しめる作りになっています。ただし、シリーズファンであれば随所に散りばめられたオマージュや伏線に気づき、より深く楽しむことができるでしょう。
トニー・トッドの遺作出演、そして新たな始まりへ
シリーズのレギュラーキャラクターとして親しまれてきたウィリアム・ブラッドワース役のトニー・トッドが、本作で最後の出演を果たしました。彼の登場シーンは非常に限られていますが、その存在感は圧倒的です。
病院で余命僅かな状態のブラッドワースが、ステファニーたちに語る言葉は、まるでトッド自身が観客へ向けて残したメッセージのように響きます。「死から逃れる方法は二つ。誰かの命を奪って時間を盗むか、一度死んで蘇生するか」という台詞は、シリーズ全体のテーマを象徴していると感じました。
トッドは本作の撮影後まもなく2024年に亡くなりました。制作陣は彼の体調が芳しくないことを察していたのか、このシーンは明らかに彼への追悼として撮影されています。シリーズを支え続けた偉大な俳優への、最大限の敬意が込められた場面となっています。
エンドクレジットには「In Memory of Tony Todd」の献辞が表示されます。彼の死は『ファイナル・デスティネーション』シリーズにとって大きな損失ですが、同時に新しい世代へバトンを渡す象徴的な瞬間でもありました。
演技に若干の硬さと物理法則を無視する展開が気になるが創意工夫に満ちた死の演出
正直なところ主演のブレック・バシンガー(ステファニー役)の演技は、やや硬さが目立つという印象を受けました。感情表現が表面的で、観客が彼女に感情移入するのは難しいと感じる瞬間がありました。母親役の女優も、シーンによって演技のトーンが安定せず、違和感を覚えることがありました。
ただ刺青師エリック役のリチャード・ハーモンは、シリーズ屈指の魅力的なキャラクターを演じきっていました。彼の存在感が、他のキャストの弱さを補っていたと思いましたね。
また脚本面でも、いくつか疑問符がつく部分があります。特にクライマックスでの爆発シーンは、ガス漏れが始まってからわずか数秒で家全体が爆発するという物理的に不自然な展開でした。また、MRI装置が単なる電話の衝撃で研究モードに切り替わるという設定も、やや強引に感じられました。
ただこれらは、『ファイナル・デスティネーション』という作品の本質を考えれば些末な問題だと思います。このシリーズが求めているのは、創意工夫に満ちた「死のピタゴラスイッチ」であり、容赦ないグロテスク描写であり、予測不可能な展開なのです。
まとめ:死のピタゴラスイッチは永遠に不滅
映画『ファイナル・デッドブラッド』は、ファイナル・デッドブリッジ(2011)から14年の沈黙を破って復活したホラーフランチャイズの新たな傑作でした。
「三世代に渡る死の連鎖」という革新的なアイデア、容赦ないグロテスク描写、予測不可能な展開、そして潤沢な予算による高い映像クオリティ。すべてが合わさって、シリーズ史上最高の完成度を実現していると思いました。
トニー・トッドの遺作出演という感動的な要素も加わり、本作はシリーズファンにとって特別な意味を持つ作品となりました。彼が残した「死からは逃れられない」というメッセージは、これからも観客の心に響き続けるでしょう。
Rotten Tomatoesで93%という批評家支持率を獲得し、興行的にも成功を収めた本作は、ホラー映画が単なるB級娯楽ではなく、大手スタジオが本気で取り組むべきジャンルであることを証明しました。
あなたの足元ににペニー硬貨が落ちていないでしょうか?





