映画
グレイヴ・エンカウンターズ:低予算POVホラーが描く終わりなき悪夢

Score 2.6

『パラノーマル・アクティビティ』の流れを汲むPOVホラーの一作として、廃精神病院という舞台設定と、心霊番組のヤラセから始まる皮肉な導入部が印象的な作品です。低予算ながら霊の撮り方は巧みで、閉鎖空間での恐怖の積み重ねは効果的。しかし、素人撮影という設定とプロ仕様のカメラワークとの間に生まれる違和感、そして後半の失速が惜しまれます。精神病院という舞台の持つポテンシャルを最大限に活かしきれなかった印象は残るものの、POVホラーファンには一見の価値がある作品です。

原題
Grave Encounters
公式サイト
https://tribecafilm.com/press-center/tribeca-film/films/45

© 2011 Digital Interference Productions Inc. / Twin Engine Films Ltd.

監督
登場人物
ランス・プレストン

Actor: ショーン・ロジャーソン

心霊番組「グレイヴ・エンカウンターズ」のプロデューサー兼司会。ヤラセ的に“らしい”幽霊の反応を演出しているが、廃精神病院を訪れて真実の恐怖に直面していく。

配給会社

ここがおすすめ!

  • 心霊番組のヤラセ描写がリアル
  • 閉鎖空間で高まる恐怖
  • 低予算ながら巧みな霊の演出

あらすじ

心霊番組『グレイヴ・エンカウンターズ』のプロデューサー兼司会者ランス・プレストンは、過去にロボトミー手術が行われ、現在は廃墟となった精神病院「コリングウッド精神病院」に幽霊が出るという噂を聞きつけます。視聴率稼ぎのため、スタッフ数名とともに病院に一晩閉じ込められることを決意したランスたち。しかし、誰も幽霊の存在を信じていなかった彼らは、次第に本物の怪奇現象に見舞われていくのです。

Grave Encounters | Tribeca

ホラー映画『グレイヴ・エンカウンターズ』は、2011年にカナダで製作されたPOV(主観映像)スタイルの作品です。『パラノーマル・アクティビティ』(2007年)の成功以降、低予算で制作されるドキュメンタリータッチのホラー映画が増加しましたが、映画『グレイヴ・エンカウンターズ』もその流れを汲む一本と言えるでしょう。

ヤラセ番組から本物の恐怖へ

映画『グレイヴ・エンカウンターズ』は、冒頭の心霊番組制作の裏側を描いたシーンにあります。主人公ランスは作業員にお金を渡して嘘の幽霊目撃証言をさせたり、偽霊能力者に台本通りのセリフを言わせたりと、ヤラセ丸出しの演出を行います。この描写が妙にリアリティがあって、思わず笑ってしまいました。主人公を含めて誰も霊の存在を信じていないという設定が、後に訪れる本物の恐怖との対比を際立たせています。

精神的に追い詰められる過程

スタッフクルーたちが強気だったのも最初だけで、徐々に恐怖が勝っていきます。幽霊の存在を実感し始めたあたりでは、まだ「視聴率アップが見込める」と喜んでいたくらいなのですが、次第に気弱になっていく流れが面白いですね。この心理変化の描写は丁寧で、観ている側も彼らと一緒に恐怖を体験しているような感覚に陥ります。

精神病院が絶対に逃げられない空間と化し、長時間怪奇現象の最前線で怯え続けなければならないスタッフたちが、精神的にどんどん追い詰められていく流れは映画『グレイヴ・エンカウンターズ』の見どころです。閉鎖空間での恐怖の積み重ねは効果的で、POVホラーならではの没入感があります。

AIで作成したイメージ画像

しかし、そこからは少し失速してしまった印象です。精神病院という舞台設定を活かしてはいるのですが、もう少し全面に押し出してほしかったというのが正直なところ。最終的には幽霊に襲われるシーンを繋ぎ合わせただけの、よくあるPOVホラーになってしまったのが残念ですね。

巧みな恐怖演出と素人撮影という設定の矛盾

映画『グレイヴ・エンカウンターズ』の霊と怪奇現象の撮り方は、低予算作品としては巧みに撮れています。静電気のような映像のノイズ、勝手に開く窓、ドアが突然閉まる演出など、POVホラーの定番を押さえつつも、精神病院という舞台ならではの不気味さが加わっています。

しかし、ここで一つの矛盾が生じています。素人が撮ったドキュメンタリーという設定であるにもかかわらず、カメラワークがあまりにもプロフェッショナルなのです。この違和感は、観ている間ずっと付きまといました。素人のドキュメント映画とプロの映画制作の間で中途半端になってしまった印象は否めません。

パッケージに映っている霊のビジュアルは印象的ですが、劇中ではそれほど多く登場しません。もっと前面に押し出せば、より強烈なインパクトを残せたのではないでしょうか。恐怖の見せ方として「見せない恐怖」を選んだのかもしれませんが、ここは意見が分かれるところでしょう。

精神病院という舞台が持つ可能性と低予算ホラーとしての功績

映画『グレイヴ・エンカウンターズ』の舞台となる「コリングウッド精神病院」は、1893年に開設され、過去にロボトミー手術が行われていたという設定です。劇中では、病院を運営していたアーサー・フリードキン博士が患者を実験台にしていたこと、1948年に脱走した患者によって刺殺されたことが語られます。この歴史的背景は、精神病院ホラーの王道設定と言えます。

物語の構造として興味深いのは、カメラクルーが「患者」になっていく過程が描かれている点です。逃げられない病院の中で、彼らは次第に精神的に追い詰められ、最終的には患者と同じ運命を辿ることになります。この「患者化」のプロセスは、精神病院という舞台設定を活かした演出と言えるでしょう。

AIで作成したイメージ画像

しかし、この設定の持つポテンシャルが最大限に活かされたかと言えば、疑問が残ります。ロボトミー手術や悪魔崇拝といった要素は断片的に描かれますが、深く掘り下げられることはありません。精神病院の持つ歴史的な恐怖、過去に行われた非人道的な治療の記憶、そうした要素をもっと前面に押し出せば、より重厚なホラー作品になったのではないでしょうか。

批判的な点を多く述べてきましたが、低予算ホラーとしての功績は認めなければなりません。限られた予算の中で、精神病院という舞台を最大限に活用し、閉鎖空間での恐怖を描き切った点は評価できます。

特に、建物の構造が変化していくという演出は秀逸でした。何度も同じ場所を通っているはずなのに、いつの間にか違う場所に辿り着いている。この空間の歪みが、精神病院という舞台の持つ狂気を視覚的に表現しています。エッシャーの「だまし絵」を思わせる、終わりのない廊下や階段の演出は印象的でした。

また、時間の経過が観客にも分からなくなっていく演出も効果的です。カメラの録画時間が異常に長くなっていることに気づいたスタッフたちの驚きは、観ている側にも伝わってきます。時間と空間が歪んだ世界に閉じ込められるという恐怖は、精神病院ホラーならではのものと言えるでしょう。

POVホラーの系譜

POVホラーの金字塔と言えば、やはり『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)でしょう。森の中で行方不明になった学生たちの映像という設定は、当時大きな衝撃を与えました。映画『グレイヴ・エンカウンターズ』は、その流れを汲みつつ、舞台を精神病院に移した作品と言えます。

また、『パラノーマル・アクティビティ』(2007年)は、家庭内で起こる超常現象をカメラで捉えるというスタイルで、POVホラーの新たな可能性を示しました。映画『グレイヴ・エンカウンターズ』は、この成功の流れに乗って制作された作品の一つです。

続編『グレイヴ・エンカウンターズ2』(2012年)では、映画『グレイヴ・エンカウンターズ』の映像を観た映画学生が同じ病院を訪れるというメタ構造が採用されています。こうした「映画の中の映画」という設定は、POVホラーというジャンルの可能性を広げる試みとして興味深いものがあります。

まとめ:未完成の恐怖が残す余韻

映画『グレイヴ・エンカウンターズ』は、精神病院という舞台設定と、POVホラーというスタイルの可能性と限界を同時に示した作品です。心霊番組のヤラセから始まる皮肉な導入、閉鎖空間で高まる恐怖、精神的に追い詰められるスタッフたちの描写──これらの要素は確かに魅力的ですが、後半の失速と中途半端な演出が惜しまれます。

素人撮影という設定とプロ仕様のカメラワークとの間に生まれる違和感、精神病院という舞台の持つポテンシャルを活かしきれなかった点、キャラクター造形の浅さ──こうした課題は残るものの、低予算ホラーとしての挑戦は評価に値します。

ホラー映画ファン、特にPOVスタイルが好きな方、精神病院という舞台に惹かれる方には、一度は観ておく価値のある作品と言えるでしょう。ただし、過度な期待は禁物です。低予算ホラーの一作として、気楽に楽しむのが正しい鑑賞法かもしれません。

各サイトのレビュースコア

2011年に突如として現れた本作は、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』以降、飽和状態にあったPOV(主観視点)ホラーというジャンルに、テレビ業界の「やらせ」という皮肉なエッセンスを加え、新たな命を吹き込んだ。低予算ながらも、空間が歪むというシュールな恐怖演出でカルト的な人気を博している。

プラットフォーム別傾向とレビューコメント

IMDb (6.1 / 10)

国際的なホラーファンからは、ジャンルの様式美を抑えた一作として概ね肯定的に捉えられている。

  • 「POVホラーの中では、設定の使い方が非常にスマート」

  • 「中盤からの超常現象のインフレが、映画的な楽しさを生んでいる」

  • 「ジャンプスケア(びっくり系)が多すぎるが、舞台設定は秀逸」

Rotten Tomatoes

  • Critics 63 / 100:「独創性には欠けるが、POVの文法を効果的に使い、確かな恐怖を提供している」との評。

  • Audience 49 / 100:後半の超常現象的な展開が「リアリティを損なっている」と感じる層から厳しい評価を受けている。

映画.com 2.3 / 5 | Filmarks 2.9 / 5(辛口傾向)

国内プラットフォームでは、日本の観客特有の「じわじわくる恐怖」への期待値が高いためか、かなり辛口な結果となっている。

  • 「モキュメンタリーとしては、後半のCG演出が派手すぎて冷めてしまった」

  • 「登場人物の身勝手な行動にイライラして感情移入できない」

  • 「精神病院という舞台設定は怖いが、展開がワンパターン」

総評:観客を「閉鎖病棟」に閉じ込めるエンタメ特化型ホラー

本作の立ち位置は、批評家向けのアートホラーではなく、「アトラクションとしてのホラー」を求める観客向けの作品である。

最大の特徴は、単に幽霊が出るだけでなく、「建物そのものが意志を持って変容する」という異次元的な絶望感だ。時計の針が狂い、出口が壁に変わり、永遠に朝が来ない。このシュールな絶望設定は、海外のホラーファンには「悪夢的」と評価されたが、日本の観客には「リアリティの欠如」として映り、評価の乖離を生んでいる。

モキュメンタリー特有の「嘘っぽさ」を逆手に取った前半のコメディ調から、後半のノンストップな怪奇現象への転換は鮮やかだ。POVホラーの歴史を語る上では、避けては通れない一作と言えるだろう。

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