今回執筆した作品は「ワイルド・スピード」シリーズの製作陣が贈る、潜水艦アクションで「ハンターキラー 潜航せよ」です。潜水艦を題材にした映画はたびたびありますが近年は少なくなった気がします。筆者がこれまで鑑賞した潜水艦を題材にした映画は主に第2次世界大戦でのドイツの潜水艦Uボートやアメリカとソ連が対立した冷戦時代なものが主でした。本作はその中で現代の2000年代の近代的な潜水艦が舞台でした。近いものだとAmazonプライムビデオで公開されている「沈黙の艦隊」が近いと思いました。

そんな潜水艦映画の中で本作「ハンターキラー」は、米海軍原子力潜水艦ヒューストンの元艦長ジョージ・ウォーレスと、ジャーナリストとしての受賞歴を誇り、ベストセラー小説家でもあるドン・キースが共同執筆した小説「ハンターキラー 潜航せよ」(原題:Firing Point/ハヤカワ文庫)を原作とし、ジェラルド・バトラーを主演にすえたアクション要素が強い潜水艦画映画となっていました。
本作の中で潜水艦をあくまで実践的な戦争の道具であり、潜水艦の舞台である海だけではなく陸や空を舞台にした迫力満点の戦闘シーンが非常に魅力的な映画でした。また数多くの人間が登場し、それぞれの人物が群像劇としての魅力もありました。特にジェラルド・バトラーが演じる冷徹な指揮官役は必見です!
3人の男気あふれるリーダーとその部下たち
本作は群像劇であり、主な舞台であるUSSアーカンソーの他にもさまざまな舞台で登場人物が活躍します。
1.ジョー・グラス艦長と乗組員たち
本作の主人公でありジョーグラス艦長は海軍兵学校出身ではない叩き上げの指揮官です。彼は、沈没したロシアの潜水艦から生存者を救出するという難しい判断を下します。それは規則違反を覚悟した決断であり、この決断が後に、USSアーカンソーの乗組員たちの命を救う行動となり、艦長と乗組員の強い信頼関係を感じました。
2.偵察部隊隊長のビルと新人スナイパーのマルティネリ
部下たちからは「短気・激怒・爆発の3点セット」だと評される偵察部隊隊長のビルですが、特にスナイパーのマルティネリには、厳しい言葉をかけ続けていました。そんな彼が部下のために命を賭ける姿には、胸が熱くなりました。
ロシア大統領のザカリンを救出する任務中、マルティネリがロシア軍からの攻撃で足を負傷し、行動が困難になりました。そのとき、ビルは「必ず戻ってくる」と約束し、一時的に別行動をすることを決めました。任務完遂後、ビルは約束通りマルティネリを救出するために戦地へ引き返し、無事彼を助け出しました。
3.アンドロポフ艦長と駆逐艦の乗組員たち
ロシアの駆逐艦による攻撃が続き、USSアーカンソーが海底で身を隠し続けることが難しくなったとき、アンドロポフ艦長が駆逐艦の乗組員に「攻撃するな」と無線で呼びかけました。駆逐艦の乗組員たちは、かつてアンドロポフの教え子だったため、彼の言葉を聞いて一斉に攻撃するのを止めました。
今作は、単なる戦闘アクションだけでなく、人間ドラマを堪能できる作品です。「信頼」の力が生み出す感動的なシーンが多く、見応えのある映画でした。
潜水艦内の「音」のない緊迫した演出
物語の終盤にUSSアーカンソーの乗組員たちは、救出したアンドロポフ艦長の案内のもと、フィヨルドの奥にあるポリャルヌイ海軍基地へ潜入します。
そこは物を落とす音、会話、呼吸すらもが命取りになる緊張感。限られた空間の中で、乗組員たちの不安な表情が、その緊迫した状況を物語っていました。まるで自分自身が潜水艦の中にいるかのような、息詰まるような体験を味わえるでしょう。

海、陸、空の戦闘アクション
潜水艦の水中戦、偵察部隊の陸上作戦、そしてロシア空軍によるロシアの本部の壊滅など、多くの戦闘シーンを展開し、アクション映画のファンを魅了する作品となってます。
とくに水中戦は、深海の闇の中で身を隠すための「静寂」と敵を倒すための魚雷の「轟音」が織りなすアップダウンの展開が見応えありました。わずかな音に神経を尖らせる緊迫感は忘れられません。さらに、駆逐艦から放たれるミサイルも迫力満点のシーンでした。巨大なミサイルが海面を叩きつけ、深海の潜水艦を狙うシーンは、その迫力に息を飲むことでしょう。
他にも地上戦では偵察部隊の空中からの潜入シーンでそのスピード感に圧倒されてしまいました。
ジョー・グラス艦長とアンドロポフ艦長の国境を越えた信頼関係
ロシアの戦艦から生存者を救出するという規則違反の決断を下したジョー・グラス艦長と、自国の裏切り者による陰謀を伝えられ、協力を決意したアンドロポフ艦長。この二人は敵対関係にありながら、お互いを理解し合う姿に感動しました。
それぞれの国で、本部からの指示に従い、水の中で多くの時間を過ごしてきた2人だからこそ、互いの苦悩や決意を深く理解しあえたのではないでしょうか。「ロシアVSアメリカ」という対立構造を超え、「ロシア×アメリカ」という新たな共闘を描いた今作は、私たちに、国境を越えた友情と協力の大切さを教えてくれます。

総評
潜水艦ならではの重い雰囲気はありますが、水の中を駆け巡る魚雷の迫力は素晴らしいですし、水中戦だけでなく、空中や陸上作戦もとても際立っていました。