2010年代にハリウッド映画をけん引してきた、アメリカのマーベル社発刊コミックスの実写シリーズ「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)。その第一弾となったヒーローは、アイアンマンでした。多数の映画を費やして語られフェーズ3の集大成である「エンドゲーム」まで主役の一人でもあったアイアンマン。そんな彼にとっての単独映画で最後となる映画が『アイアンマン3』です。
「アイアンマン」シリーズの完結編
映画『アイアンマン3』は、2013年に劇場公開された、「アイアンマン」シリーズの完結編となる作品です。アイアンマンことトニー・スタークは「インフィニティ・サーガ」における主役の一人として強い存在感を放っています。そのため、彼を主人公とした単独映画が本作で最後というのは意外な印象でした。MCU独自の区切り方「フェイズ」で見てみても、本作はフェイズ2の最初の作品で、サーガ全体でも非常に早い段階であることが分かります。
しかしながら、本編の内容としては三部作の完結編としてきちんと機能していることが分かります。トニーがヒーローのアイアンマンとして成長していく姿は象徴的に描かれていますし、1作目からトニーと因縁のあった「テン・リングス」との直接対決も組み込まれています。過去の出来事についても描かれているので、シリーズ1作目や2作目で登場していた細かなセリフも伏線として回収できていました。ペッパーとのロマンスも強固なものとなりましたし、何といってもアイアンマンの象徴だったアーク・リアクター胸から外し、ミサイルの破片を取り除く心臓手術を成功させたのは、ヒーロー「アイアンマン」としての一定の終着点を表していて、物語が上手に帰結したように思います。もちろん、シリーズの持ち味であるアイアンマンのアーマーや迫力のアクションシーンも、最終作らしくアップデートされていました。

トニー自身の冒険はその後も「アベンジャーズ」シリーズを通して描かれますが、本作まででも三部作としてきちんと見ごたえのある作り方になっていたと思います。
メンタルヘルスと向き合うヒーロー映画
映画『アイアンマン3』では、これまで以上にトニーの抱えるメンタルヘルスと向き合う内容になっていたようにも感じました。現代社会で非常に重要視されているメンタルヘルスですが、MCUではこの問題に向き合う姿勢を見せている作品が多いと思います。映画『サンダーボルツ*』はこれを最も大きな主題とした映画だ、と各所から称賛されていますが、その方向性に向かう片鱗が(へんりん)本作で見られたのかな、と思います。
よく「自分の一番の敵は自分だ」という言葉を耳にしますが、トニーは常に自分のトラウマと向き合い続ける主人公だったといえるでしょう。キャプテン・アメリカのように強靭(きょうじん)かつ崇高なメンタルを持っているわけでもなく、ソーのように大らかかつ繊細なダイナミックさを持っているわけでもない、ナルシスティックなものの過去のトラウマをどうにかやり過ごしながら前に進もうとするトニーの姿は、どこか人間臭さを感じます。だからこそ、多くの人から支持を集めるキャラクターなのだろうな、と本作で改めて感じさせられました。
そして本作ではMCUだと珍しい10歳くらいのハーレーが登場します。トニーとハーレーの二人の交流がとても和むものとなっていました。ハーレーはトニーと同じように両親がおらず、科学や物づくりが好きそうな好奇心いっぱいの子供です。そしてハーレーはトニーがパニック障害の発作が出た時にも、冷静に対応しようとします。何か必要なものはあるか、深呼吸してみたらどうか、そして「おじさんメカニックなんでしょ? じゃあ何か作ってみれば?(You are mechanic, right?」「Why don’t you build something)」という言葉がもっともトニー・スタークを落ち着かせてみせました。
そしてこの言葉がスーツの最初であり原点でもアフガニスタンで「パワードスーツ MARK1」を開発したことを思い出し、自分の持つ頭脳と指先と魂がヒーローたらしめていると気づきます。彼はそのことを再発見して、そして何者でもない自分こそが「私がアイアンマンだ。(I am Iron Man.)」なんだって気づきメンタルヘルスから克服した瞬間だっと思います。

後発作への意外なつながり
映画『アイアンマン3』は、「アイアンマン」シリーズとしては最終作品ですが、意外な形でMCUの他作品とのつながりを持っています。
トニーおよびアイアンマンが出演する作品として、「アベンジャーズ」シリーズの作品とのつながりが強いのは、明白です。特に『アベンジャーズ/エンドゲーム』は実質的にトニーの物語の完結編となっています。他にも、ゲスト出演している『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』や『スパイダーマン:ホームカミング』でも彼の物語の続きを見ることができるのは、分かりやすい例です。また、彼自身が出演していなくても『アベンジャーズ/エンドゲームスパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』をはじめとした複数の作品においてトニーがヴィラン誕生のきっかけを作っていることが多く、MCU全体への彼の影響の強さを物語っています。
これらの作品に対して、本作『アイアンマン3』との意外なつながりを見せたのが、2021年に劇場公開された『シャン・チー/テン・リングスの伝説』ではないでしょうか。この作品には、「アイアンマン」シリーズ全体で影をちらつかせていたテン・リングスやマンダリンについての物語が展開されています。『アイアンマン3』には、実は『王は俺だ』という短編映画が番外編として製作されているのですが、この番外編と本編、両方をチェックしていないと『シャン・チー/テン・リングスの伝説』では話が分かりにくい部分があり、年月をこえたつながりに多くのファンを湧き立たせました。このような仕掛けが可能なのも、MCUの大きな魅力であり、加えて「アイアンマン」シリーズの存在感の大きさを感じさせられます。
まとめ:トニー・スタークの物語の完結
映画『アイアンマン3』は、MCUの最初のヒーローであるアイアンマンことトニー・スタークの単独作品完結作です。アベンジャーズとしてのトニーの物語はこれ以降も続きますが、彼の単独の物語として、きちんと終着点が描かれています。本作はメンタルヘルスにも向き合う映画としても作られていて、トニーの人間らしさが人々を惹きつけていました。そして、シリーズ自体は『アイアンマン3』で完結していますが、「アベンジャーズ」シリーズなど、トニーの物語は多くのMCU作品に影響を与え続けた作品となっていました。