ウォルト・ディズニー生誕110周年記念作品として2012年に公開されたのが、本作である『ジョン・カーター』です。世界中で長きに渡って愛されてきたエドガー・ライス・バローズの小説『火星のプリンセス』を原作とした、スペースオペラ作品となり、1917年の出版以降、『火星のプリンセス』の映像化企画は複数計画されてきましたが、立ち上がってはとん挫し、を約100年近く繰り返し、ようやく映画として公開されたのが『ジョン・カーター』でした。
アニバーサリーの記念作品ということもあり注目を集めていたのですが、世界興行では成功したもののアメリカ国内での興行に失敗し、赤字損害最高額を叩き出した作品という不名誉な形で歴史に名を残すこととなってしまいました。そんな『ジョン・カーター』ですが、作品としての質が低いわけでは決してありません。批評家からも賛否両論が巻き起こった作品となります。
圧倒される壮大な世界観
本作の一番の魅力は、火星を舞台とした壮大な世界観にあるといえます。映画では海が干上がり破滅の道を突き進んでいるものの、地球と比較して圧倒的に科学技術が発達している星として火星が描かれています。この発想がとても斬新で、今から100年以上も昔に作られた話だというから驚きます。本作がSF作品として後に多くの作品に影響を与えたというのもうなずけます。
ただこの壮大かつ先進的すぎる世界観が、『ジョン・カーター』という映画作品には不利に働いているように感じました。長年にわたって映像化が試みられてきたにもかかわらず、それが実現できなかったのは、ひとえに映画技術が原作小説を映像化できるほどに進化できていなかったことが考えられます。そんな中、この原作小説に影響を受けた作品が世の中にたくさん登場しており、そこには複数の映画も含まれます。
例えば、スペースオペラといえばまず思い浮かべるであろう「スター・ウォーズ」シリーズは、「バローズの小説風な作品を作りたい」というジョージ・ルーカス監督の構想から誕生しています。また、歴代興行収入1位を誇る映画『アバター』もまた「バローズの伝説的な小説のような映画をやろう」という思いから作った、とジェームズ・キャメロン監督が語っています。
これらの作品が先に映像として世に出てしまったがために、『ジョン・カーター』は二番煎じ感を随所で感じざるを得ず、観客を引き込む力に欠けてしまったのかな、と感じさせられました。しかし、逆を言えば本作はそれらのオリジンストーリーのようなもの。これらの映画の段の方は楽しめること間違いなしです。
圧倒的なCG技術
映画『ジョン・カーター』で描かれる壮大な世界観を力強く支えているのが、巧みなCG技術です。火星という未知の惑星を舞台にした、科学技術の発展した世界を映像化するのは、容易なことではないはずです。特に、メインとなる砂漠の描写のリアルさには驚かされました。それを見事に実現させたのは、アンドリュー・スタントン監督が率いる製作チームです。

スタントン監督は映画『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』などでおなじみのピクサー・アニメション・スタジオに所属しています。CGアニメ界に多大なる貢献を果たしたピクサーにおいて、大人気ヒット作の脚本を複数手掛けており、CGを使う現場における脚本の書き方や扱い方を熟知しています。その経験が本作に生きているように感じました。
ただ、ここでも難しいのが前述したような、既存の人気SF映画たちです。「スター・ウォーズ」シリーズにおける砂漠や惑星の表現、「ハムナプトラ」シリーズや「インディ・ジョーンズ」シリーズ、『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』といった砂漠を舞台とした作品と、どうしても比較できてしまうため、オリジナリティに欠けるように感じられてしまうのです。音楽もどことなく「スター・ウォーズ」シリーズなどを手掛けている映画音楽界の巨匠ジョン・ウィリアムズを想起させるところがあり、既視感を拭いきれなかったように思います。
長年愛される物語としての力
映画『ジョン・カーター』は、長年愛される小説を原作としているだけあり、物語の力強さも感じることができました。原作は11巻まで発売されているシリーズ物であり、特に最初の3作は3部作として構想されていたといいます。映画も3部作として構想されていたため、その分の物語の奥行きが表現されていました。

映画という性質上、途中で少し物語に性急さが見られてプロットが雑に見えてしまう部分もありましたが、一人称物語かつ日誌ものということで、18世紀から続く冒険ものの伝統的なスタイルを取っていて、入れ子構造にもなっているプロットが、映画としてもとても良い味を出していたと思います。
一人称の冒険ものかつ主人公がいきなり未知の世界に文字通り飛ばされてしまう、というストーリー展開は、近年流行している異世界転移ものとも共通していて、現代の若者でも簡単に世界観に没入できるし、共感もできるのではないでしょうか。
しかしながら主人公と王女とのラブロマンスに煮え切らないものであり、ディズニーには似合わない火星のエイリアンが多く登場し、どちらかというとスター・ウォーズに登場しそうです。またディズニーアニメなら笑える展開だが実写映画となると悪いシナリオにしか見えない場所など全体が中途半端にしか見えないシーンが多い印象でした。こういったことから『ジョン・カーター』は、アメリカでの興行成績や評判がいまいちです。
ただ100年以上愛されてきた小説を原作としているので、幅広い年齢層の方々に楽しんでいただける作品だと思います。2時間越えの作品なので、時間に余裕がある時にぜひ。