映画『ジョン・ウィック:チャプター2』は、その冒頭から観る者を引き込む仕掛けが施されています。スクリーンに映し出されるのは、サイレント映画時代の伝説的なスタントマン、バスター・キートンの白黒フィルム。建物の壁面に投影されたこの映像は、本作が「スタント愛好家への贈り物」であることを宣言しているかのようです。バスター・キートンは映画史上最高のスタントマンの一人として知られており、CGのない時代に命がけのスタントを数多く成功させた伝説的存在です。このオマージュは、映画『ジョン・ウィック:チャプター2』が現代においてもCGIに頼らない「生身のスタントワーク」にこだわり抜いた作品であることを象徴しています。
この精神を体現するのが、他でもないキアヌ・リーヴスです。彼はもはや「国宝級」と呼ぶべき存在であり、アクション俳優として完全復活を遂げた姿は圧巻です。本作のアクションシーンの95%を自ら演じており、プリプロダクション期間中にAaron Cohenのもとで3週間以上にわたる戦術的銃器訓練を積んだほか、世界チャンピオンシューターのTaran Butlerによる3ガントレーニングも行いました。
YouTubeで公開されたトレーニング映像は合わせて2,000万回以上再生され、その献身ぶりが世界中で話題となりました。映像は2本あり、いずれも権利者本人が投稿した公式コンテンツです。John Wick 2 Firearms Training with Keanu Reeves & Taran Tacticalは、ジョン・ウィック2の衣装スポンサーを務めたタクティカルギアブランド「5.11 Tactical」の公式チャンネルが投稿したプロモーション映像で、ライフルからハンドガンへの素早い切り替えや戦術的な銃器操作の訓練を収めています。
Keanu shredding with Taran Butlerは、キアヌ本人をトレーニングした世界チャンピオンシューター、Taran Butlerの公式チャンネル「Taran Tactical」が投稿したもので、3ガンコースを疾走しながらターゲットを次々と撃ち抜く「シュレッディング」の様子が収められています。実際の射撃訓練、格闘技のトレーニング、カースタントの練習——すべてを本人がこなしているのです。
また、キアヌ・リーヴスは自身で『ファイティング・タイガー』というアクション映画を監督するほどの武芸オタクでもあります。この情熱と経験が、ジョン・ウィックというキャラクターに揺るぎない説得力を与えています。普段は穏やかな表情を浮かべながらも、戦闘モードに入った瞬間の豹変ぶりは圧巻で、飄々とした雰囲気と鋭い眼光の使い分けは見事というほかありません。「俺は考えている……俺は戻ってきたんだと(I’m thinking… I’m back)」というシンプルな台詞を、重厚な存在感で語る姿に、キアヌ・リーヴスでなければ成立しないフランチャイズだと改めて実感させられます。
殺し屋ユニバースとガンフー──世界観と暴力の美学
拡張された裏社会のルールと美学
前作『ジョン・ウィック』で最も魅力的だった要素の一つが、殺し屋たちが独自の規律で統治する裏社会の存在でした。特に「コンチネンタル・ホテル」という聖域では、いかなる「仕事」も禁じられており、その掟を破った者には厳しい制裁が待っています。映画『ジョン・ウィック:チャプター2』は、この殺し屋ユニバースをさらに拡張し、詳細なルールや組織構造を明らかにしていきます。
冒頭で登場する「血の誓約(Blood Oath)」という概念は、殺し屋社会における絶対的な契約であり、これを破ることは死を意味します。ジョン・ウィックは、この掟に縛られ、再び殺しの世界へと引き戻されるのです。また、本作では「武器ソムリエ」という調達の専門家が登場します。このキャラクターは、まるで高級ワインを選ぶかのように、ジョンに最適な銃器を提案します。この「武器ソムリエ」という発想は、殺し屋ユニバースの洗練された美学を体現しており、思わずニヤリとさせられる見事な演出です。

さらに、賞金をかける際のオペレーターのシーンも印象的です。レトロな電話交換機を使った古風なシステムは、この裏社会が伝統と格式を重んじる組織であることを視覚的に示しています。こうした細部へのこだわりが、映画『ジョン・ウィック:チャプター2』の世界観に深みと説得力を与えているのです。
銃と格闘技が融合した美しき暴力、ガンフー
映画『ジョン・ウィック:チャプター2』のアクションシーンは、「ガンフー(Gun-Fu)」と呼ばれる、銃撃戦とカンフーを融合させたスタイルで統一されています。しかし厳密に言えば、本作のアクションは投げ技や関節技が中心となっており、むしろ「銃(柔)道」と呼ぶべき独特のスタイルです。
ジョン・ウィックの戦闘スタイルは、まるでダンスのように流麗で、一つ一つの動きが計算され尽くされています。敵を倒す際の動線、銃のリロードのタイミング、近接格闘への切り替え——すべてが美しく choreographされており、観ているだけでうっとりするような完成度です。特に印象的なのは、ジョンが弾切れになった際の対処法です。彼は躊躇なく銃を投げ捨て、素手での格闘戦に移行します。そして、敵から銃を奪い取り、再び射撃戦へと戻る——この一連の流れが、まるで一つの舞踏のように滑らかに展開されるのです。

また、前作で伏線として語られていた「ペンシル」を使った殺しのシーンも、ついに映像化されています。この残虐なシーンは、ジョン・ウィックが「手に持ったものすべてを武器にできる」という恐ろしい能力を持つことを示しており、強烈な印象を残します。痛々しさゆえに苦手な方もいるかもしれませんが、アクション映画ファンにとっては忘れられない名シーンとなるでしょう。
ローマが舞台の美しき死闘──完璧なロケーション選び
映画『ジョン・ウィック:チャプター2』は、ニューヨークからローマへと舞台を移し、より壮大なスケールでアクションを展開します。特に注目すべきは、ロケーション選びの完璧さです。
ジョンが任務のために訪れるローマでは、まず「武器ソムリエ」のシーンで観る者を楽しませます。そして、防弾素材を裏地に使用したオーダーメイドのダークスーツを仕立てるシーン。このスーツは、後の戦闘で実際に銃弾を防ぐ盾として機能し、ジョンの命を救います。こうした「準備シーン」の丁寧な描写が、後のアクションシーンの説得力を高めているのです。
ローマの古代地下道でのアクションシーンは、狭い空間での緊迫感と、歴史的建造物の美しさが見事に融合しています。暗闇の中で響く銃声、石壁に反射する銃弾の火花——すべてが映画的な美しさを持っています。コモン演じるライバル殺し屋カシアンとの対決が繰り広げられる噴水広場のシーンでは、西部劇的な静的緊張感が演出されます。二人の殺し屋が互いに銃を向け合い、動けない状態で睨み合う——この静と動のコントラストが、アクションシーンに深みを与えています。
さらに、地下鉄でのアクションシーンも秀逸です。一般市民が行き交う公共空間で、サイレンサー付きの銃を使い、静かに殺し合う二人の殺し屋。周囲の人々は何も気づかない——この非現実的でありながら映画的な美しさを持つシーンは、映画『ジョン・ウィック:チャプター2』のスタイリッシュな世界観を象徴しています。
前作との比較──失われた純粋な動機と終盤の課題
映画『ジョン・ウィック:チャプター2』には、前作と比較して物足りなさを感じる部分もあります。最も大きな違いは、ジョン・ウィックが戦う「動機」の強さです。前作では、亡き妻が遺した愛犬が殺され、思い出の愛車が盗まれるという、非常に明確で感情的な動機がありました。この一見すると些細な理由が、実は深い愛情と喪失の物語であり、心からジョンを応援できたのです。
一方、映画『ジョン・ウィック:チャプター2』では、ジョンは「血の誓約」という掟に縛られ、仕方なく殺しの世界に戻ります。この「受動的な動機」は、前作のような純粋な感情の爆発を生み出しません。映画においてキャラクターの魅力は「彼らが下す選択」によって決まります。前作のジョンは自らの意志で復讐の道を選びましたが、本作では選択の余地がほとんどない——この違いが、感情移入の度合いに影響を与えているのです。
また、ジョンの首に莫大な賞金がかけられた後、ニューヨーク中の殺し屋が彼を狙い始める終盤の展開については、「いくらなんでも殺し屋が多すぎる」という疑問が頭をよぎります。それまで築き上げてきた緊張感が一気に崩れてしまう感覚は否定できません。もっとも、ジョン・ウィック自体が「100%命中のエイムボット」のような超人的能力を持つキャラクターですので、あまり深刻に受け止めるべきではないのかもしれません。しかし前作までが一定のリアリティラインを保っていただけに、この点は賛否が分かれるところでしょう。
まとめ──CGIに頼らないスタントワークが示す、アクション映画の新しい誠実さ
映画『ジョン・ウィック:チャプター2』は、前作のサプライズ要因や純粋な動機という強みを一部失いながらも、アクション映画としての完成度において新たな高みに到達した作品です。
キアヌ・リーヴスという俳優が95%のスタントを自ら演じ、美しいアクションシーンを繰り広げる。バスター・キートンへの敬意から始まり、ローマの美しいロケーションを舞台に、銃(柔)道とも呼ぶべきガンフーアクションが展開される。そして、殺し屋ユニバースという独特の世界観がさらに深く掘り下げられる。ヘリコプターからぶら下がることもなく、ビルからビルへ飛び移ることもなく、超音速で飛ぶこともない——ただ地上で、人間が到達できる範囲の身体能力を極限まで高めたアクションを見せる。この「生身のスタントワーク」への誠実なこだわりこそが、映画『ジョン・ウィック:チャプター2』の最大の功績です。
さらに、ローレンス・フィッシュバーンが地下世界のボス、バワリー・キングとして登場するのも見どころの一つです。『マトリックス』でモーフィアスを演じた彼とキアヌ・リーヴスが殺し屋ユニバースで再会するという粋な配役に、思わず「キアヌ、また救世主になっちゃうよ」と笑みがこぼれます。こうした遊び心ある演出も、映画『ジョン・ウィック:チャプター2』の魅力の一つと言えるでしょう。
動機の弱さや終盤の現実離れという弱点はありますが、それらを補って余りある魅力が詰まっています。前作を楽しんだ方なら、本作も間違いなく楽しめるでしょう。そして、観終わった後、きっと次回作を心待ちにするはずです。






