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MEN 同じ顔の男たち:愛という名の呪縛が生む究極の恐怖体験

Score 2.5

アレックス・ガーランド監督の『MEN 同じ顔の男たち』は、従来のホラー映画の枠を大胆に超越した、極めて野心的な作品です。『エクス・マキナ』『アナイアレーション』で知られる鬼才が、今回挑んだのは英国の田園を舞台にしたフォークホラー。しかし、その実態は単なる恐怖映画ではなく、現代社会における男性性の暴力と女性の trauma(トラウマ)を真正面から描いた、深遠な社会派作品となっています。物語は、夫の死を目撃したハーパー(ジェシー・バックリー)が、心の傷を癒すため英国の田舎町を訪れるところから始まります。しかし、その村で出会う男たちは、なぜか全員同じ顔をしているのです。管理人、警官、神父、少年——すべてロリー・キニアが演じるこの異様な設定が、やがて観客を前代未聞の恐怖体験へと導いていきます。

原題
Men
公式サイト
https://a24films.com/films/men

©2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

監督
登場人物
ハーパー・マーロウ

Actor: ジェシー・バックリー

夫の死を目撃した未亡人。心の傷を癒すため田舎へ行くが、奇怪な現象に囚われる。

ジェフリー/他多数(村の男たち)

Actor: ロリー・キニア

カントリーハウスの管理人。

配給会社
制作会社

ここがおすすめ!

  • 圧倒的な映像美と象徴的な演出
  • ロリー・キニアによる「同じ顔の男たち」の怪演
  • 衝撃的なクライマックスと知的メタファー

あらすじ

夫の死を目の前で目撃してしまったハーパー(ジェシー・バックリー)は心の傷を癒すため、イギリスの田舎街を訪れる。 そこで待っていたのは豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリー(ロリー・キニア)。 ハーパーが街へ出かけると少年、牧師、そして警察官など出会う男たちが管理人のジェフリーと全く同じ顔であることに気づく。 街に住む同じ顔の男たち、廃トンネルからついてくる謎の影、木から大量に落ちるりんご、そしてフラッシュバックする夫の死。 不穏な出来事が連鎖し、“得体の知れない恐怖”が徐々に正体を現し始めるー。

映画『MEN 同じ顔の男たち』オフィシャルサイト

映画『MEN 同じ顔の男たち』でまず目を奪われるのは、その圧倒的な映像美でしょう。イギリスの田園風景は、まるでターナーの絵画のような美しさで描かれます。苔むした石壁、雨に濡れた木々、朝靄に包まれた草原があり、これらの自然描写は、単なる背景ではありません。それはむしろ、主人公ハーパーの内面を映し出す鏡として機能しているのです。

特に印象的なのは、トンネルでのエコーシーンです。ハーパーが声を響かせると、その反響音が幾重にも重なり、やがて不協和音となって返ってきます。この場面は、彼女の内なる叫びが、男性社会という巨大な壁に跳ね返される様子を見事に象徴しています。美しい自然の中に、じわじわと不穏な空気が立ち込めていく演出は、まさにガーランド監督の真骨頂と言えるでしょう。

ロリー・キニアの怪演が生む、不気味な違和感

映画『MEN 同じ顔の男たち』の特徴は、ロリー・キニアが村の男性全員を演じるという大胆な演出です。しかし、これは単なる奇抜なアイデアではありません。管理人として現れた彼は、最初は人当たりの良い紳士として振る舞います。「禁断の果実ですね」と冗談めかしてリンゴを指さす場面は、一見無害に見えますが、その裏に潜む支配欲を暗示しています。

神父として現れた時は、ハーパーの苦悩に耳を傾けるふりをしながら、結局は彼女に罪悪感を植え付けます。警官として登場すれば、彼女の訴えを軽視し、少年の姿では下品な言葉で威嚇します。キニアは、それぞれの役で微妙に演技を変えながらも、根底に流れる「男性的な暴力性」を一貫して表現しているのです。

特筆すべきは、彼らがすべて「善意」の仮面を被っていることです。助けようとする、守ろうとする、導こうとする——しかし、その裏には常に支配欲が潜んでいます。この二面性こそが、映画『MEN 同じ顔の男たち』の恐怖の核心なのです。

画像出典(Men | Official Trailer HD | A24 Youtube)

静かなる抵抗と、究極のボディホラー

主演のジェシー・バックリーの演技は、まさに圧巻の一言でした。多くのホラー映画のヒロインが悲鳴を上げて逃げ惑うのに対し、彼女のハーパーはほとんど叫びません。代わりに、表情と身体言語で恐怖と怒り、そして最終的には諦念を表現するのです。

夫との回想シーンは特に印象です。「離婚したら死んでやる」と脅す夫に対し、彼女は疲れ切った表情で「勝手にすれば」と返します。この場面での彼女の演技は、感情的な虐待に耐え続けた女性の疲労感を、痛いほどリアルに表現しています。

そして、この静かな抵抗が爆発するのが、クライマックスの「男性の出産」シーンです。裸の男が次々と自分自身を産み落としていく様子は、映画史に残る衝撃的な映像です。グロテスクでありながら、奇妙な美しさすら感じさせるこの場面は、単なるショック演出ではありません。男性社会が延々と自己複製を繰り返す様子を視覚化した、極めて知的なメタファーなのです。ハーパーがこの異様な光景を前にして見せる、恐怖と諦観が入り混じった表情は、彼女がついに男性性の本質を目の当たりにした瞬間を物語っています。

神話的象徴が紡ぐ、多層的な現代寓話

映画『MEN 同じ顔の男たち』には、重要なモチーフが散りばめられています。教会で登場するグリーン・マン(緑の男)とシーラ・ナ・ギグ(女性器を露出した女性像)の石像は、実際にイギリス各地の教会に存在する、キリスト教以前の異教的シンボルです。自然の再生を司るグリーン・マンと、豊穣と魔除けの象徴であるシーラ・ナ・ギグ——この二つの対比が、男性性と女性性の原初的な対立を表現しています。

AIで作成したイメージ画像

この神話的要素は、映画全体の解釈に多様性をもたらします。すべての男が同じ顔なのは、ハーパーの心理的投影なのか、それとも実際の超自然現象なのか。映画は明確な答えを提示しません。ある見方では、これはPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ女性の内的体験を視覚化した作品と読めます。別の見方では、家父長制社会の構造的暴力を寓話的に描いた社会派ホラーとも解釈できます。

#MeToo運動以降、ジェンダーをめぐる議論が活発化する現代において、映画『MEN 同じ顔の男たち』は極めてタイムリーな作品です。ガーランドは、これらの古代のシンボルを現代的な文脈で再解釈することで、男性による女性の支配が人類の歴史に深く根ざした構造的な問題であることを示唆しています。この多義性と時代性こそが、映画『MEN 同じ顔の男たち』を単なるホラー映画から芸術作品へと昇華させているのです。

まとめ:恐怖の先にある、深遠なる問いかけ

映画『MEN 同じ顔の男たち』は、ホラー映画の形式を借りながら、現代社会の最も根深い問題に切り込んだ意欲作です。R15指定ながら、その過激な映像表現は決して悪趣味ではなく、テーマを深化させるために必要不可欠な要素として機能しています。

そして本作は万人向けの作品ではありません。正直なところ曖昧な結末を好まない観客や、グロテスクな表現が苦手な方には勧められません。しかし、映画という表現形式の可能性を信じ、新しい体験を求める観客にとって、これは必見の作品です。

アレックス・ガーランドは映画『MEN 同じ顔の男たち』で、ホラーというジャンルが持つ可能性を極限まで押し広げました。それは単に恐怖を与えるだけでなく、観客に深い思考を促し、社会の闇を照らし出す鏡となり得ることを証明したようなホラーサスペンス映画でした。

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批評家評価と観客評価の乖離

アレックス・ガーランド監督による『MEN 同じ顔の男たち』は、批評家と観客の間で大きな評価の乖離を見せた作品である。
Rotten Tomatoesでは批評家スコアが 69/100 と比較的高い一方、観客スコアは 40/100 と低迷している。批評家は作品の映像美、寓話的構造、グリーン・マンやシーラ・ナ・ギグといった象徴の使い方を高く評価したが、観客からは「難解すぎる」「寓意が押し付けがましい」といった反応が目立った。
アート性が強い作品にありがちなパターンであり、娯楽的満足よりも哲学的・神話的解釈を要求する映画であることが、この差を生んでいる。

プラットフォームごとの評価傾向

IMDb(6.0/10)

国際的ユーザーが集まるIMDbでは平均的な評価に収束している。

  • “映像は圧倒的だが、物語は繰り返しが多く長すぎる。(The visuals are stunning, but the narrative feels repetitive and overlong.)”
  • “ガーランドは恐怖の雰囲気を醸し出すが、結末は観客の意見が分かれるだろう。(Garland creates an atmosphere of dread, though the ending will divide audiences.)”

評価は中庸であり、ホラー的緊張感と寓話性を肯定する声と、冗長さを指摘する声がバランスしている。

Filmarks(3.2/5)

  • 「映像は美しいけれど、グロテスクさが前に出すぎてメッセージが伝わりにくい」
  • 「教会のシーンの神秘性は圧巻。ただ観客を置き去りにする感じも」

Rotten Tomatoes(Critics: 69 / Audience: 40)

批評家は高評価だが観客は厳しい。

  • Critics: “男性優位についての、大胆で挑発的な寓話。(A bold, provocative allegory about toxic masculinity.)”
  • Audience: “イライラするだけで、怖くも面白くもない。(Pretentious and frustrating, not scary or engaging.)”

典型的な「批評家寄りのアート映画」としての立ち位置が明確に表れている。

映画.com(2.9/5)

  • 「ガーランドらしい難解さ。最後までついていけなかった」
  • 「不気味で緊張感はあるけれど、娯楽映画としては消化不良」

ホラー演出よりも寓意やメタファーが前面に出るため、観客が期待する「わかりやすい恐怖」とはズレがあった。

総合評価と立ち位置

『MEN 同じ顔の男たち』は、批評家向けのアート・ホラー映画としての立ち位置が明確な作品だ。寓話的表現と象徴性の強さは、映画評論や研究の対象として魅力的である一方、観客の多くには難解さと閉塞感が強調され、評価が割れる結果となった。
国際的には「映像美と寓意を味わう映画」として一定の評価を獲得したが、日本国内の観客レビューを見る限り、娯楽性の不足が辛口評価へと直結している。

結論:ガーランド監督のフィルモグラフィにおける実験的作品であり、ホラー映画の形式を借りた寓話として、批評家や映画研究者に愛されるタイプの作品である。観客の娯楽的満足度は低いが、アート映画としては確固たる位置を占めている。

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