原爆の父と言われた科学者の人生 – オッペンハイマー

1か月 ago

3.8

原爆の父と言われたオッペンハイマーの人生の物語。そしてオッペンハイマーを一人としての科学者の物語であり、また仲間の科学者と原子力の可能性を発見して知識を深めていく物語でもありました。 ただそれが人を殺める凶器を作り出してしまうことがある。 知識への探求が生み出してしまった凶器と知らずに派閥争いに巻き込まれた人間ドラマとなっていました。

原題
Oppenheimer
公式サイト
https://www.oppenheimermovie.jp/
監督
登場人物
J・ロバート・オッペンハイマー

Actor: キリアン・マーフィー

アメリカの天才的な理論物理学者。原子爆弾の開発・製造を目的としたマンハッタン計画を主導した。

キャサリン・“キティ”・オッペンハイマー

Actor: エミリー・ブラント

ロバートの妻。生物学者兼植物学者。

レズリー・グローヴス

Actor: マット・デイモン

アメリカ陸軍の将校であり、マンハッタン計画の責任者として極秘プロジェクトを指揮する立場にあった。

ルイス・ストローズ

Actor: ロバート・ダウニー・Jr

アメリカ原子力委員会の委員長。水爆実験を巡ってロバートと対立する。

アーネスト・ローレンス

Actor: ジョシュ・ハートネット

カリフォルニア大学バークレー校の物理学教授でオッペンハイマーの同僚であり友人。

配給会社

ここがおすすめ!

  • 科学者の知識への探求と人間ドラマ
  • 圧倒的スケールで描く映像とノーラン監督ならではの演出
  • 第96回アカデミー賞で7部門をアカデミー賞受賞

あらすじ

一人の天才科学者の創造物は、世界の在り方を変えてしまった。 そしてその世界に、私たちは今も生きている。

映画『オッペンハイマー』公式

今回執筆しました映画『オッペンハイマー』は、第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞など計7部門を受賞した2023年の話題作です。とくに同年には公開された映画「バービー」とコラボして「バーベンハイマー」というミームが生まれました。

本作「オッペンハイマー」は、題材のとおり原子爆弾の開発を主導した科学者ロバート・オッペンハイマーの人生を描いた伝記映画であり、彼の栄光と苦悩に満ちた物語を追う映画となっています。特に特筆すべき点として常にオッペンハイマーという人物の一人称視点で進むんでいきます。

オッペンハイマーは「原爆の父」として知られ、マンハッタン計画を率いて原爆を開発したことで歴史に名を刻みました。本作は、彼がどのようにして科学の最前線に立ち、第二次世界大戦の終結に寄与したのか、そして戦後、原爆の影響に対する葛藤と冷戦下での苦難に直面したかを描いています。

クリストファー・ノーラン監督のこだわりが光る作品

本作を監督したクリストファー・ノーラン監督といえば、SF作品としてのイメージが筆者は強かったです。特に2010年以降だけを見ても、『インセプション』『インターステラー』『TENET テネット』といった、複雑なストーリー構成と独自の映像美を追求した作品を数多く世に送り出してきました。そんな彼が手がけた『オッペンハイマー』は、これまでのSF路線とは異なり、2017年の『ダンケルク』に近いリアリズムを感じさせる作品です。

映画『ダンケルク』は第二次世界大戦を舞台に、戦争の生々しさと人間ドラマを描いており、本作『オッペンハイマー』はそんな第二次世界大戦の戦場ではなく人間ドラマに焦点をあてた作品でした。本作では、原子爆弾の開発に携わったロバート・オッペンハイマーという一人の科学者の視点を通して物語が紡がれます。ノーラン監督にしては珍しい伝記作品です。しかしながら、彼のこだわりが随所に散りばめられています。

それはやはり映像表現でしょう。

『オッペンハイマー』では、世界初となる65ミリカメラ用モノクロフィルムを開発し、IMAXモノクロ・アナログ撮影を実現しました。このフィルム撮影への徹底したこだわりは、デジタルが主流となった現代では極めて希少な手法です。古めかしくも重厚な映像美は、作品全体に時代の古い空気感を観客に感じさせ、1940年時代へ引き込まれました。

そしてノーラン作品特有の「時間」への執着やストーリーの緻密さも健在でした。『インセプション』や『TENET テネット』のような複雑な時間軸の演出は控えめですが、科学者としてのオッペンハイマーの葛藤や決断を一人称視点で追体験できる構成には、ノーラン監督の手腕が光ります。また過去作のシリーズである『バットマン ダークナイト』シリーズに感じられた重厚さや緊張感を彷彿とさせる部分もあり、彼のスタイルを踏襲しながら新たな挑戦をしている印象を受けました。

『オッペンハイマー』の主人公、ロバート・オッペンハイマーを演じるのはキリアン・マーフィー。彼の代表作としては、ノーラン監督の『ダークナイト』シリーズでのスケアクロウ役や、映画『TIME/タイム』での冷徹なタイムキーパー役などが挙げられます。その中でも今回の役柄は、これまでとは一線を画す深みと複雑さを要求されるものだったと感じます。

科学者としてのオッペンハイマー

主人公であるオッペンハイマーは、科学者として知的探究心と人間としての葛藤が交錯する人物として描かれています。彼は歴史上だと原子爆弾の開発を指揮した「マンハッタン計画」の中心人物として歴史に名を残しています。しかし戦後はその兵器の存在がもたらす倫理的問題に悩み、水爆の開発には反対する立場を取ります。原爆を開発しつつ、これを進化させた水爆に対しては反対する矛盾した行動が、彼は戦争を終わらせた英雄なのか国家への反逆者なのかという曖昧な存在を作品の中で、この作品でのオッペンハイマーという人物でした。

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頭の中を映像で表現するノーラン監督の手腕

映画の中盤では、オッペンハイマーの科学者としての思考が映像で鮮やかに表現されていました。それは特に原子の構造や運動、粒子同士の衝突や分裂がVFXを駆使して視覚化され、観客はオッペンハイマーの頭の中を垣間見る感覚を味わうことができます。このシーンは、ノーラン監督が持つ映像表現への情熱とこだわりが顕著に現れている部分でした。それはVFXだけではなく焚き火の揺らめきや太陽フレアを彷彿とさせる映像は、物理的な現象の美しさとその危険性を同時に示唆しています。

その一方で、彼が抱える人間的な苦悩や矛盾も繊細に描かれています。映画後半では、狭い部屋で行われる公聴会のシーンが特に印象的でした。執拗な質問や私生活への攻撃、さらには関係のない不倫問題まで持ち出される様子は、現代の政治や権力構造を想起させるものがあります。これらの圧迫的な場面を通して、科学者オッペンハイマーの孤立と苦悩がリアルに伝わってきました。

壮大なマンハッタン計画の裏側

原爆を開発するマンハッタン計画の壮大さも、本作の魅力の一つでしょう。広大な砂漠にひとつの町を築き、徹底した情報統制のもとで進行した計画です。

この計画を通して浮かび上がるのは、人間の欲望や矛盾が生み出す破壊力です。科学者としてのオッペンハイマーが量子の神秘に魅了され、次々と新たな発見を成し遂げる一方で、その成果が戦争という非情な現実に利用される。崇高な知的探求と、日常的な人間の欲望。この二つが交差した時に生まれるのが、核兵器という現代に残る最大の矛盾だったのかもしれません。

圧巻の演技で描かれる複雑な人物像

キリアン・マーフィーは、そんな複雑な人物像を圧倒的な演技で体現しています。彼の鋭い目つきや繊細な表情の変化が、オッペンハイマーという人物の苦悩と葛藤を見事に映し出していました。この映画を観ることで、物質の矛盾と人間の矛盾、その両方を深く考えさせられるのではないでしょうか。

『オッペンハイマー』は、単なる伝記映画ではありません。ノーラン監督が持つ映像表現へのこだわりや、観客に問いかけるようなストーリーテリングが、映画を特別な体験へと昇華させた作品となっていました。

科学者が生み出した達成と惨劇

原爆を生み出すまでの人間ドラマと科学者としての視点は見ごたえがあります。一方で広島や長崎への原爆投下がもたらした影響を映画があえて深く掘り下げない点には残念でなりません。本編で触れる部分もありますがほんの数分に過ぎませんでした。

これは筆者が日本人だからかもしれません。

本作では科学者としての「達成感」が強調される一方で、それが引き起こした悲劇は凄まじいものです。本作を観たあとは広島原爆資料館のデータベースを閲覧することをオススメします。

科学者が学問として追い求めた先にさるものが、このサイトを見て伝われば幸いです。

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