アメリカで大人気の若者向けファンタジー小説シリーズ『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』。日本でも翻訳版の小説が出版されており、人気を集めています。その映画化作品第2弾が本作『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々:魔の海』です。シリーズ2作目の小説『魔海の冒険』を原作としています。前作も賛否両論の声が上がっていたシリーズですが、本作もまた賛否両論を呼んだ作品となりました。
ギリシャ神話の小ネタ満載の一作
映画『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々:魔の海』は、前作から引き続き、ギリシャ神話を題材として物語が展開しています。前作は比較的王道なギリシャ神話のモチーフが登場していましたが、本作はそれに比べるとコアな要素が多かったように感じました。一番親しみやすいのは、「魔の海」ことバミューダ・トライアングルでしょう。サイクロプスやクロノスであれば、ある程度の人が認知していると思いました。本作の物語の中心となった黄金の毛皮やタレイアの松は、少しマイナーかなと感じました。元となるギリシャ神話を知らなくても、これらがいったいどういったものなのかは劇中で説明されるため、知らなければ映画から完全に置いて行かれてしまうようなことはありません。ですが、知っていた方がより楽しめると思います。ギリシャ神話は日本人にはなじみが薄いので、少しハードルが高いように感じました。
バミューダトライアングル
バミューダ・トライアングル(Bermuda Triangle)は、フロリダ州マイアミ、プエルトリコのサンフアン、バミューダ諸島を結んだ三角形の海域のことで、船や航空機が原因不明のまま消失したとされることで有名です。

このエリアは、古くから多くのミステリアスな逸話が語られており、「魔の三角海域」とも呼ばれています。ただし、科学的な調査では、この地域の事故率が特別に高いわけではないとも言われています。
またヘルメスやケイロンなどといったキャラクターを演じるキャストが変更されている点も、物語を分かりづらくしているように感じました。ギリシャ神話としてのなじみが薄いことともあり前作の公開(2010年公開)からも間が空いてしまっているので、ついていきづらい部分かなと思います。補足の説明はありますが、他にも処理しなければいけない情報があるため、物語への没入を阻害する因子になってしまっているように思います。
海を中心とした迫力の映像美
映画『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々:魔の海』は、映像技術という点では前作を上回る迫力があり、魅力の一つだと感じます。特に今回はタイトルにも「魔の海」が入っていることもあり、海の場面が多く登場します。主人公のパーシーがポセイドンの息子であることを考えれば、自然な舞台設定です。映画によっては、海の戦いシーンだと映像が暗くなりすぎて何が起きているのか分かりづらいことがありますが、本作ではそのようなことがなく、とても見やすくなっていました。海以外にも、キャラクターの表現に使用されるCGや、アクションシーンに登場する特殊な武器で使われているCGが全体的にとても自然で、非常に見やすかったです。

その一方で、前作ではアメリカ国内の有名都市の実際の景色と、CGで造られたファンタジックな世界の融合が楽しめた一方で、本作ではその要素が少なくなりました。前作との差別化、という意味では成功しています。ただ、前作にはロードムービー的な要素がありそれが面白いポイントでもあったので、本作では少し物足りなさがあるようにも感じました。
悩める主人公たちの成長
映画『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々:魔の海』の醍醐味(だいごみ)は、なんといっても主人公パーシーや彼の友人たちの成長です。映画では出演者の年齢に合わせて、原作よりも年齢を引き上げています。そのためティーンドラマとして映画が機能するようになっています。ティーンが抱えがちな悩みや葛藤を描くことで、より共感を得やすい内容になっているのではないでしょうか。特に前作では抜け落ちてしまっていたように思う、パーシーの抱える劣等感が本作では印象付けられていたのは良い点だと思います。異母兄弟との出会い(であい)を通じて自身の存在意義について悩む場面は、誰もが共感できるでしょう。また、一度活躍したきりでその後は目に見えた活躍を遂げられていない、という悩みも誰しもが抱えるもので、共感しやすいのではないかなと思いました。父との関係に悩む姿も、万人受けするストーリーラインだと感じました。
本作から新しく登場した、パーシーの異母兄弟タイソンの存在も良かったと思います。理不尽な扱いを受ける中で自分を信頼してくれたパーシーの気持ちに応えたい、と奮闘する姿には、兄弟の絆を感じました。

しかしながら映画をある程度コンパクトにするためか、全体的なキャラクター描写が浅くなりに感じることが多々ありました。そのためかキャラクターと観客の間でのつながりが作りづらく、クライマックスの盛り上がりに欠けたのではないかなと思いまいた。せっかく年齢をティーンに引き上げたにもかかわらず、対人関係の部分ではそれが生かし切れていなかったようにも感じます。またティーンと呼ぶには年齢が上のキャストも多く、妙な落ち着きが見て取れて、なんだかしっくりこない部分もありました。原作が5部作なため本作も続編ありきの作り方をしてはいますが、それが難しいことは多くの観客に伝わってしまうエンディングだったようにも思いました。
まとめ
映画『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々:魔の海』はさまざまな年齢層が楽しめる、冒険の物語でした。ギリシャ神話とのつながりも面白いですし、海の場面ではパーシーとポセイドンのつながりを感じることもできます。そして、パーシーの抱える悩みは、多くの方が共感できるものが多かったです。子供も安心して見られる作品なので、家族で映画を見たいときにはお勧めの一本でした。