どんなふうに生きたかを考える – PLAN 75

1か月 ago

3.2

可もなく不可も無く予想を裏切るような展開はありませんでした。 ただ静かに「どんなふうに亡くなるのか?」をひたすら見せられ、考えさせられう映画となっていました。 そしてこれが怖いのが、今後こんな社会はこないとは言い切れないことでしょう。

原題
PLAN 75
公式サイト
https://happinet-phantom.com/plan75/
監督
登場人物
角谷ミチ

Actor: 倍賞千恵子

ホテルの客室清掃員。高齢を理由に解雇され、次の定職を見つけられず、プラン75を申請した。

岡部ヒロム

Actor: 磯村勇斗

市役所職員。「PLAN 75」の申請窓口を担当。20年間も音沙汰なかった叔父である幸夫がPLAN75を申し込み担当者となる。

配給会社

ここがおすすめ!

  • 日本社会に渦巻く問題をリアルに映し出している
  • セリフが少なく映像で見せることで、視聴者に考えさせる
  • 役者陣の演技でテーマを見せる素晴らしさ

あらすじ

夫と死別してひとりで慎ましく暮らす、角谷ミチ(倍賞千恵子)は78歳。ある日、高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇される。住む場所をも失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める。

映画『PLAN 75』公式サイト

日本の社会問題をリアルに映し出す作品

75歳以上は自ら死を選べる制度『PLAN75』。

これは本作に出てくる架空の制度でありメインテーマとなっています。この制度は定年がどんどん引き上げられ、年金の受給額や条件も厳しくなっている日本では、あながちまったくの絵空事ではないかもしれません。それが本作が怖いところでもあります。

冒頭は、とある施設で殺人事件が起こっていることをうかがわせる映像から始まります。犯人は言います。「老人たちが国家の財政を圧迫し、若者がしわ寄せを受けている。この国の未来のために事件を起こした」と。

この言葉は2016年「津久井やまゆり園」で起こった相模原障害者施設殺傷事件を思わせる言葉です。「PLAN75」は、高齢者や障害者といった社会的弱者を社会の「お荷物」と考え、排除すべきという思想が社会に蔓延した結果、生まれた制度といえそうです。

倍賞千恵子演じる78歳のミチは、年齢を理由に仕事を解雇され、再就職したくてもどこも雇ってくれません。年齢や無職であることを理由に、物件への入居も断られます。こうして選択肢がなくなっていき、PLAN75を選択してしまうのです。これは2024年現在でも家賃が払えなくなるリスク、火の不始末による火災、孤独死のリスクなどの原因で、65歳以上の入居拒否4人に1人という問題があります。

効率や生産性ばかりを追い求め、リスクをできる限り回避する社会。それは利益を生み出すためにはある意味当然かもしれません。この映画を鑑賞した人は、「もっと寛容になるべき」と感じるかもしれません。しかしながら自分が不利益を被るかもしれない立場になったらどうでしょうか?

高齢の人を雇って、すぐに身体を痛めて働けなくなったら?一人暮らしの高齢者を入居させて、孤独死でもされたら?どこまで許容できるでしょうか。誰がその責任を引き受けるのでしょうか。「リスク回避」と「寛容」、その妥協点はどこだろうかと、考えずにはいられません。

このような、社会に渦巻く問題をリアルに切り取った作品が本作「PLAN 75」です。

本作は全編を通してセリフが少なく、淡々と映像で語られていきます。説明が少ないため、「何が言いたいのかわからない」と感じる人もいるかもしれません。しかしそこは、私たちが存分に考えるための余白だと受け止めたいところ。俳優陣のお芝居が素晴らしく、「自分ごと」として考えさせられます。

「社会の不要物」にされる老人たち

この作品でもっとも空恐ろしさを感じたのが、このPLAN75の「いびつさ」。

「国家の未来のための素晴らしい選択!」と持ち上げておきながら、実情はひどいものです。彼らの遺体は廃棄物扱いであり、「先生」と呼ばれるコールセンターの職員は若いアルバイトで、遺品整理は外国人労働者に頼っている。どう考えても、利用者は「社会の不要物」としてぞんざいに扱われています。

AIで作成したイメージ画像

磯村勇人演じる市役所職員のヒロムが、PLAN75の申請に来た人に対して「支度金10万円を、葬儀代に使われる方もいますよ」と、淡々と説明しているのにも恐ろしさを感じました。炊き出しが行われている場所でPLAN75の宣伝をするのも、まるで自ら死を選ぶことが美徳とでもいうようなキャンペーン動画が流れているのもとても恐いです。

「78歳女性」ではなく「角谷ミチ」

ミチは仲の良かった友人が孤独死し、子ども話ができません。そして自立した生活をしようと頑張ったけれど上手くいかず、PLAN75を選択するミチを見ていると心が痛みます。

人生の最後が、こんなに寂しくていいはずがありません。本当はもっと生きたいのに、「あきらめて選ぶ死」なんて悲しすぎました。なぜもっと、みんなが楽しく自由に生きられないんだろうか……そんなやり場のない怒りと悲しみがこみ上げてきてしまいました。

就職や入居など、社会生活を営む際の判断材料は、その人の年齢などの「属性」だけ。ミチも「78歳女性」という属性だけで判断されてしまうけれど、彼女はたった一人しかいない「角谷ミチ」という人間です。それぞれに人生や想いがあるという、当たり前のことが忘れられてしまったり、見て見ぬふりされてしまう社会が、幸せな社会であるはずがありません。

ミチだけではなく河合優実演じるコールセンタースタッフの瑤子は、ミチと会ったことで情が湧いてしまいます。同じくPLAN75の担当者であるヒロムも、叔父の幸夫がPLAN75の申請に来たことで、この制度に疑問を抱き始めます。

「属性」で見るとバッサリ切り捨てられるのに、ひとたび「個人」として見ると死んでほしくないと感じ始めるのが皮肉でもあり、救いのようにも思えます。

「突然の死」と「用意された死」どちらがいいのか

話の最後でPLAN75の施設に向かう日。朝、ミチが景色を眺めたり、外で遊ぶ子供を愛おしそうに見つめるのが印象的でした。

「今日死ぬ」ってどんな気持ちなんだろう。

自分でPLAN75を選んで、自分の足で死にに行く気持ちなんて、とても想像できません。もし、自分の身内がPLAN75を選択したとして、見送る側になったとしたら?

これは滝田洋二郎監督作品である映画「おくりびと」とは違った印象となっていました。そして「おくりびと」とは違う印象です。。あんなにたくさんの高齢者をPLAN75へと送っていたヒロムでさえ、身内となるとやはり心の整理がついていませんでした。

そう考えると、やっぱり死というものは、突然、暴力的に襲いかかってくるものである方がいいのかもしれません。もちろんそれは辛いし悲しいんだけれど、「自ら死にに行く」という行為は、なんだかそれ以上に悲しいというか、虚しいような気がするのです。

「苦しまずに、死にたいときに死ねる社会」も考えようによっては悪くないのかもしれないけど、「死にたくない人が死を選ばなくてもいい社会」の方が、もっといいのではないでしょうか。

作中では、誰も、制度に反対する声を挙げません。これからもきっと、この世界ではPLAN75が粛々と実行されていくのでしょう。ヒロムや瑤子といった若者が感じた葛藤だけが、希望の光です。彼らが感じた「違和感」が、この社会全体の当たり前となるように願います。

ラストシーン、ミチはなぜ生きることを決めたのでしょうか?隣のベッドで死にゆく幸夫を見て、驚いていたように見えました。

AIで作成したイメージ画像

たとえば「亡くなった旦那さんに似ていた」とかだったら素敵だなと思います。でも案外、怖い!私はこうなりたくない!と感じただけかもしれません。生きる決意をした彼女を、どうか社会が受け入れてくれますように。そう願わずにはいられないラストシーンでした。

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このページではAmazon Prime Video Jpで配信中のPLAN 75から執筆しました。

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これまではどう生きて、どう終わるかを問いかける。