1979年に劇場公開されるやたちまち世界中で大ヒットを博した映画『エイリアン』。この作品が公開されSFホラー映画の古典であり金字塔となり、日本ではこの映画のヒットがきっかけとなって異星人を「エイリアン」と呼ぶことが定着しました。
映画「エイリアン」はシリーズとして4まで制作され、またさまざまな続編やスピンオフが製作され、「エイリアン」シリーズは一大フランチャイズとなりました。けれども、初作の監督だったリドリー・スコット監督は、以降の作品ではメガホンを取りませんでした。
そんなスコット監督が再び「エイリアン」シリーズに帰還したのが、映画『プロメテウス』です。
リドリー・スコットが描く『エイリアン』の前日譚
映画『プロメテウス』は、リドリー・スコットが約30年ぶりに「エイリアン」シリーズに監督として復帰した作品です。企画当初は、シリーズ1作目の『エイリアン』の前日譚となることが大きく謳われていましたが、物語が「エイリアン」シリーズとは少し異なった方向に進んだことから、現在では「原点」という少し濁した表現に変わっています。
実際に本編を見てみると、確かに空気感は「エイリアン」シリーズを彷彿とはさせるものの、少し毛色が異なる作品であることが分かります。「エイリアン」シリーズに登場するキャラクターも出てきませんし、シリーズの前知識がなくても『プロメテウス』単体で楽しむことができます。なので、「エイリアン」シリーズを見ていない人はこの作品からシリーズに入っていくこともできます。
本作は基本的には世界観は「エイリアン」シリーズと同じです。しかしながらシリーズとして考えると矛盾する部分もあります。中でも大きな矛盾となりそうなのが、技術革新の進度です。『エイリアン』の設定が2122年なのに対して、『プロメテウス』の設定は2089年です。これは、前日譚という位置づけを考慮すれば当然のことです。にもかかわらず、『プロメテウス』に登場する人間の技術は、『エイリアン』に登場するものよりも進んでいるように見えます。「スター・ウォーズ」シリーズなどでも共通しますが、このようなSF作品における前日譚物においては、この技術革新についての考慮が鬼門になりがちだな、と感じました。

美しい映像とマイケル・ファスベンダーの演技力
本作でで目を引くのは、やはり映画に登場する景観美とアンドロイドのデヴィッドを演じるマイケル・ファスベンダーの演技でしょう。
「エイリアン」シリーズは作風の都合上、閉塞感のある宇宙船の船内が多く、どうしても画面全体が暗くなりがちです。それは『プロメテウス』でも同じなのですが、冒頭に登場する自然の映像の美しさに目を奪われます。それはスコットランドでの遺跡発見につながる場面までの自然の美しさは、新たな物語の始まりを予感させるような映像美だったと思います。また、宇宙船プロメテウス号内の科学技術のCGも素晴らしく、惑星LV-223ですらも立体的な空間で映像としての美しさが際立っていたのではないでしょうか。
このシーン以外にも全体的に暗い画面が続くにもかかわらず、一人一人の表情がしっかり見えたり、何が起こっているのかがよく分かるようになっていたりして、そこにも技術の革新や画作りのこだわりを感じました。この映像の美しさは『プロメテウス』の大きな特徴の一つではないかと思います。
そしてもう一つ本作を特徴づけているのが、ファスベンダーの演技です。人間に非常に近いながらも魂を持たないアンドロイドというキャラクターを見事に演じています。アンドロイドはエイリアンシリーズに欠かせないキャラクターであり、初代『エイリアン』にも登場しノストロモ号の科学担当官として乗船していましたが、実はウェイランド・ユタニ社の秘密工作員でした。
本作でのアンドロイドであるデヴィッドは、人間らしさと機械らしさのあんばいが絶妙であり、本作においてヒーローともヴィランとも取れる非常に難しい立ち位置のキャラクターです。そんな時に冷たく、時に頼りになるアンドロイドを、グラデーションをつけることのない静かで無機質な演技で、ファスベンダーは巧みに表現していると感じました。登場人物それぞれのキャラクター描写が割合希薄な本作において、ファスベンダー演じるデヴィッドが最も人々の印象に残ったキャラクターとなったことでしょう。

人類のこれまでとこれから
映画『プロメテウス』という作品自体は、非常に余白の多い映画です。続編を制作することを念頭に置いて作られた映画だということは、本編を見れば誰もが容易に想像できました。本作を鑑賞では解明されない謎が非常に多く、そこにフラストレーションを抱く人も多いでしょう。
さらに、本作で扱っているテーマは、非常に複雑で難しいものです。主題として「人類の起源」が扱われており、加えて生命の創造や神話などといったテーマが盛り込まれています。タイトルにある「プロメテウス」やアンドロイドの名前がダビデ王の英語読み「デヴィッド」であることなどからも、神話が大きな影響を与えていることは明白です。これらの神話や哲学的な考えは、日本人にはなじみの薄いものが多かったように思うので、日本人にとってはより理解が難しいかもしれません。余白とテーマが相まって、難解な映画になっていると認めざるを得ません。
プロメーテウスはギリシャ神話に登場する、男神です。主に有名な話として 人間の創造: 一部の伝承では、プロメーテウスが人間を粘土で作ったとされています。 火の贈与: 最も有名な神話では、プロメーテウスがゼウスの反対を押し切り、天界の火を盗んで人類に与えたとされています。この行為は人類に文明をもたらす象徴的な出来事として描かれています。
難解な映画ではありますが、SFホラーとしての役割もきちんと果たそうとして、この手のジャンルあるあるな展開も複数登場します。その容易さと難解さのギャップは大きく、バランスが悪いと感じる部分もありました。この評価をしづらい独特の線を行くのが、なんとなくスコット監督作品らしいな、とも感じました。
「エイリアン」シリーズの一作ではありながらも、『プロメテウス』は前日譚に位置付けられているため、シリーズを見ていない人でも楽しめる一作です。シリーズの他作品にはない映像美であったり、ファスベンダーの演技だったり見どころは多く、なおかつさまざまなことを考えさせてくれる作品です。
しかしながらマーケティングでポスターに人類の起源を謳いかなり過大に宣伝されているが、正直展開がB級パニック感があります。未知の惑星に降り立つ子供じみた科学者が「未知の何か」に襲われる。この「未知の何か」の出番が全くなく。何を恐れてパニックになるのかよくわかりませんでした。