母親であるダイアンの異常性はPVやキービジュアルからわかることである。ただそれが鑑賞するにつれ徐々に明らかになってゆく展開は、スリルがありました。 この展開は娘であるクロエが、始まりの精神的監禁状態から物理的監禁状態へと移行する過程で状況に合わせたスリルがあり、観始めたときのゾクゾクと終わりにいたるまでの違ったゾクゾク感が味わえました。
- 原題
- Run
- 公式サイト
- https://run-movie.jp/
- 監督
- 登場人物
- 配給会社
- 制作会社
ここがおすすめ!
- ヒリヒリした緊張感を味わえるサイコスリラー
- 隠された「2つの恐ろしい真実」が衝撃的
- 嘘がいつしか現実になっていく恐ろしさ
あらすじ
郊外の一軒家で暮らすクロエは、生まれつき慢性の病気を患い、車椅子生活を余儀なくされている。ある日、クロエは母親ダイアンに不信感を抱き始める。ダイアンが新しい薬と称して差し出す緑のカプセルは決して人間が服用してはならない薬だった。それには恐ろしい真実が隠されていた。ついにクロエは母親から逃れようと脱出を試みるが……。
RUN | 公式サイト
本作のメインキャラクターでありダイアンの娘であるクロエは、生まれたときから足が不自由といわれており、かつぜんそくや糖尿病など様々な疾患を抱えていますが、大学進学を目指して前向きに頑張っている健気な少女です。そんなクロエを母親であるダイアンは献身的に支えながら、誰よりも娘を信じて応援している。
そんなシャーマン母娘は困難を抱えながらも、支え合って懸命に暮らしているように見える二人です。
これが冒頭での印象です。けれどもそこには、母親の歪んだ愛情が潜んでいました……。
ヒリヒリした緊張感を味わえるサイコ・スリラー
本作の監督は「search サーチ(2018年)」を監督したアニーシュ・チャガンティです。search は全編がパソコンやスマホの画面で進行するというかなりトリッキーな作品で話題を集めました。本作はそんなトリッキーな作品ではなく本格的なサスペンスミステリーであり、サイコスリラーとなっていました。しっかりとしたストーリーが枠組みがあり、約90分の中で話が進み中盤以降は終わりまでスリルの連続です。
母親からいつもどおり薬を受け取りますが、ある日クロエはダイアンから渡される薬に違和感を抱きます。母親が自分に嘘をついている。しかも、命に関わる薬のことで?唯一の家族でありずっと信頼してきた、たった一人の家族を信じられなくなるという不安を鑑賞していると切なくなり怖くも感じずにはいられませんでした。
そして薬について自分で調べ始めるのですが、なんせクロエは足が不自由あり車椅子なので、忍び足でこっそり動き回ることも、高いところにあるものを取るのも難しいのです。しかも、彼女はスマホを持っていません。家のパソコンで調べようとするも、インターネットの調子が悪くて接続できない。薬局に電話するも、ダイアンにバレることを考えるとなかなか聞けない。ここからあれ?という随分と過保護を通りこして、ダイアンの不気味さが出てきます。
これまでの描写では、クロエは自分で薬を塗り、自分で注射をし、しっかりと勉強もして、とても自立しているように見えていました。でも自分で薬について調べようと動き始めた結果、実はすべて母親に管理されていたということにクロエも鑑賞している筆者もはじめて気づいてきました。
そんな状況からどうすればいいのかを冷静に考え、自分の力で薬の正体を突き止めるクロエに対して、その聡明さと行動力に感嘆し、応援せずにはいられなくなります。
そして判明する恐ろしい事実に衝撃を受ける
本作には、恐ろしい事実が隠されています。
ネタバレに当たるので伏せますが、この事実からダイアンは、娘のクロエをずっと自分の側に置いておくべく、クロエの自由を奪っていたのです。これらの事実が明らかになるにつれ、ダイアンはクロエを部屋に閉じ込め、邪魔する人間を排除することも厭いません。娘への異常な執着心にゾッとさせられます。ここから本作がサイコスリラーである描写が前面に出始めます。
これは冒頭、ダイアンは保護者会で、障害を持つ娘が家を出ることへの不安をまったく口にしませんでした。他の保護者が涙を流しながら心配を口にする中で、余裕の笑みを浮かべていました。
しかしダイアンの笑顔がもう不気味であり、笑顔を見せるたびにゾッとして怖く感じてきてしまいます。これは、「娘を心から信頼している良い母親」を演じていたのか、それとも「娘の自由は私が奪っているから離れられるわけがない」と考えていたからなのか?
もしかしたらダイアンは、「自分は障害のある娘を支え、理解し、応援している母親である」という妄想を、どこか事実のように感じていたのかもしれません。あまりにも嘘が当たり前になりすぎて、嘘をついている本人でさえ、嘘であることを忘れてしまっているような状態。
クロエから事情を聞いたドライバーのトムにダイアンが言った言葉を聞いたとき、そう感じました。
「私たちの苦労があなたにわかる?のんきな健常者の助けは逆効果でしかない」
「力になりたいなら母親の言葉を信じて!」
これはトムに自分のことを信じさせるための演技だったのかもしれませんが、私にはダイアンの「本音」であるようにも感じられました。ダイアン自身が娘を障害者にしていながらも、「私は障害のある娘を献身的に支える母である」と、半ば本当に信じていたような気がするのです。自分でついた嘘を、自分で信じ込んでいる……ダイアンの心の闇の深さを見た気がしました。
母の愛とは何なのか?を考えさせられる
ダイアンは、何度もクロエにこう言います。
「ママがしたことは、すべてあなたのためなのよ」。
世の母親の多くが、きっと同じセリフを口にしたことがあるのではないでしょうか。
母と子に限らず、「あなたのため」と思っていても、相手からしたら「全然私のためじゃない」と感じることはよくあります。ダイアンとクロエの例は極端だとしても、「あなたのため」と言いながら本当は自分のためにやっていないか?よく考えて反省したいところです。
ダイアンの背中に大きな傷跡があったことから、彼女もきっと虐待の被害者なのでしょう。普通の親子の愛情を築けず、「本当の愛」だと信じて子を虐待してしまう。
ラストシーン、クロエがダイアンに復讐していることを窺わせる描写がありました。聡明で優しいクロエが、自分が受けた仕打ちを知ったことで人を傷つける選択をしてしまっている。虐待の連鎖を感じて悲しくなってしまいました。
残虐なシーンはほとんどなく、ホラーが苦手な人でも楽しめる作品です。人間の恐ろしさを描いた作品が好きな方、スリリングな緊張感を味わいたい方に特におすすめな作品となっていました。
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このページではAmazon Prime Video Jpで配信中のRUN/ランから執筆しました。
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