1977年に初作が劇場公開を迎えてから、長きに渡って世界中で愛され続ける「スター・ウォーズ」シリーズ。映画の世界に留まらず、アニメやマンガ、小説にゲームなどマルチメディアに展開している本作は、さまざまな国のさまざまな世代から熱い支持を獲得し続けています。そんな本シリーズの中でも人気なキャラクターの一人が、ハン・ソロという無法者です。人気があるにもかかわらず、それまでソロを主人公とした映画は作られてきませんでしたが、2018年に若き日の彼を主人公とした映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』が誕生しました。
ハン・ソロってどんなキャラ?
ハン・ソロは、皮肉屋で金にうるさい性格ですが、ピンチの時には仲間を見捨てない、義理と情のあるアウトロー。ハン・ソロの初登場は、1977年公開の映画『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』です。レイア姫を救いにいくルーク・スカイウォーカーとオビ=ワン・ケノービが宇宙船のパイロットを探して訪れたモス・アイズリーの酒場で、ハンとチューバッカが登場します。ここで彼らは報酬と引き換えに、ミレニアム・ファルコンでルークたちを惑星オルデランへ送り届ける任務を引き受けます。
当初は報酬目的で動いていたものの、物語が進むにつれて、反乱軍の戦いに身を投じ、仲間を助けるために命をかけるようになります。
エピソード6の終盤になるとハンはレイア・オーガナ(旧レイア姫)と心を通わせ、やがてふたりは愛し合うようになります。そしてひとり息子「ベン・ソロ」をもうけます。しかし、このベンはフォースの力に翻弄され、ダークサイドに落ちてカイロ・レンとなってしまいます。

ハン・ソロのオリジンに迫る映画
映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は、ソロの若き日を描き、彼のオリジンに迫る作品になっています。例えば、どうして彼は「ハン・ソロ」と名乗るようになったのか、どこで彼は操縦を学んだのか、彼が宇宙船に飾るサイコロのチャームは何なのか、そしてファンの間で度々議論に上がる「ハンが先に撃った」など、ソロ像にまつわるさまざまな事象が本作では取り上げられています。音楽や演出、画角など、オリジナルのソロ像を意識した描写も多く、リスペクトを感じられるようになっています。
ハンが先に撃った(Han Shot First)
1977年公開の『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』の中の、ハン・ソロと賞金稼ぎグリードとのやり取りに由来します。モス・アイズリーの酒場で、ハン・ソロはジャバ・ザ・ハットに借金をしており、その借金の回収に来た賞金稼ぎグリードに銃口を向けられます。
- オリジナル版(1977年)では、ハンが一方的に先にグリードを撃って倒します。
- しかし、1997年の特別編(リマスター)では、グリードが先に撃ち、ハンが撃ち返す形に改変されました。
これに対して多くのファンが不満を表明し、「Han shot first(ハンが先に撃った)」というフレーズがファンの間で広まりました。
今回の脚本を担当したジョナサン・カスダンは、共に脚本を担当しシリーズの脚本もしている父ローレンス・カスダンと共に悩んだと語っています。
その一方で、本作は必ずしもファンに受け入れられやすい作品というわけではありません。「スター・ウォーズ」シリーズは長年にわたり、さまざまなジャンルにおいて多くのファンに支持される作品です。これまで詳しく語られてこなかったハンについては、それぞれのファンが独自のハン像を抱いていた部分もあり、そのギャップを良い意味で埋めきれない部分もありました。また、シリーズの生みの親であるジョージ・ルーカスが語ってきたハンのエピソードとのズレや、「スター・ウォーズ レジェンズ」と呼ばれる、公式公認のフィクション群での設定とのズレがあるなど、人気ゆえの難しさも含んだ受け取られ方だったと思います。
現代の多様性を反映した既存キャラクター
映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』では、これまでシリーズに登場したキャラクターなどが、現代の価値観を反映してアップデートされた描かれ方をしていたのも興味深い点です。
例えば、ソロといえば多くの人が思い浮かべるのは、彼の隣に立つ巨大な茶色いウーキー族のチューバッカでしょう。彼は長年、ソロの相棒として親しまれてきました。しかしながら、映画本編で描かれるチューバッカは、相棒というよりかは子分と呼ぶ方が近いような描かれ方をしている部分があります。というのも、ルーカスが明かした設定によれば、捕らわれのウーキー族をソロが開放したことにより、チューバッカはソロに忠誠を誓うことになったようで、この設定だと対等な相棒ではなく明確な上下関係が生まれてしまいます。
一方で本作においてチューバッカは明確にソロと対等な相棒として描かれています。ソロが一方的にチューバッカを救ったのではなく、二人で協力して脱走し、チューバッカ自身が捕らわれたウーキー族を解放し、自らの意思でソロと行動をともにするようになったからです。このような変更は、現代社会における価値観を反映したものでしょう。
またソロの友人であるランドーの描き方にも変化が見られます。これまでの映画でもランドーは、色恋に前のめりな人物として描かれていましたが、本作においてはパンセクシュアルとして描かれることが、発表されていました。また、ランドーの恋愛対象は人間のような形をした種族だけでなく、ドロイドなど多岐にわたる様子が描かれています。その相棒としても知られる宇宙船ミレニアム・ファルコン号のシステムとランドーが恋仲のような関係だったというのはとても意外なエピソードで、これもまた現代的な価値観における包括性を示す描写だったように感じました。

現代に新たな作品を作りにおいて、これは非常に意義のある描写だと感じたと同時に、従来のファンによっては、それまで考えられてきたキャラクター像からの変更に戸惑ったり残念に思ったりすることがあるのも、頷けます。
ジェダイの登場しない「スター・ウォーズ」作品
映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は、映画「スター・ウォーズ」シリーズの本編ではなく、スピンオフという立ち位置で製作された映画です。本編との大きな違いは、ジェダイがメインキャラクターとして登場しない部分でしょう。「スター・ウォーズ」といえば、ライトセーバーを持ちフォースを巧みに操るジェダイの存在感が大きいですが、本作をはじめとしてジェダイをメインとしない作品も複数誕生しています。このジェダイが登場しないスター・ウォーズの先行作となった『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』はその成功例の一つです。
ジェダイはそもそも数が少ないとされていますし、この方向性は非常に広げる価値のある分野だと、本作を見ていても感じました。その一方で、他のSF作品との差別化も課題の一つとなっているように思いました。先行作とは異なり、本作はストーリーよりもキャラクターやアイテムありきの展開が多かったことは否めず、足を引っ張った部分もあったように感じました。
まとめ:新旧ソロ像が交錯する、新たな「スター・ウォーズ」への序章。
映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は、「スター・ウォーズ」シリーズの人気キャラクターであるソロのオリジンに迫る作品です。新たなソロ像を楽しめる反面、従来考えられてきたソロ像とは異なる姿が描かれていた部分は、賛否両論を産む作品だったな、と感じました。とはいえ、ジェダイが登場しない「スター・ウォーズ」作品には新たな魅力があり、掘り下げるのに十分な世界観であるとも感じました。一作のみで完結している映画でもあるので、「スター・ウォーズ」の世界観に飛び立つ準備に見ても良い一作かもしれません。
本作で関連しランド・カルリジアンの若き日を描く作品が、TVシリーズではなく、映画として製作されることが決定が公表されています。