1962年8月に「MARVEL COMICS」に初めてスパイダーマンが登場しました。そして1990年代にアニメからされ、2002年にはサム・ライミ監督が手掛け、実写化シリーズとなり、アメイジングスパイダーマンシリーズ、MCU版と数多くのスパイダーマン映画が製作されてきました。今日では「スパイダーマン」というヒーローを聞いたことがない人はいないでしょう。
そんな中マーベル・コミックの漫画を原作とするスパイダーマンの映画としては初となる劇場アニメ作品「スパイダーマン:スパイダーバース」です。「スパイダーマン:スパイダーバース」はマルチバースの世界でそれぞれ昔なつかしカートゥーンアニメ(モノクロだったり2Dだったり)の様々なスパイダーマンが登場して、本作の主人公であるマイルズとともに世界を救うお話となっています。
複数のスパイダーマンが登場しますが、本作の主人公であり本作の世界で新しいスパイダーマンとなったマイルスがストーリーが進むにつれ、苦悩と葛藤と戦い、真のヒーローへと成長していきます。これはピーター・パーカーが辿ってきた道を彷彿とさせ、スパイダーマンを継いでいくストーリーがおもしろかったです。Marvel’s Spider-Manをプレイしたことがある人にはとっつきやすくとても楽しめると思います。
そして今作「スパイダーマン:スパイダーバース」が2018年(日本公開は2019年)にフルCGアニメーションで製作され、第91回アカデミー賞(2019年)で長編アニメ映画賞を受賞しました。これは第84回アカデミー賞(2012年)に受賞した「ランゴ」以来のウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ以外の配給映画での受賞であり、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントが配給会社として受賞したのは初めての快挙です。
絶叫アトラクションのような映像クオリティ
本作の特徴はなんといってもハイクオリティなCGアニメの映像シーンでしょう。それはこれまでのリアル基調の3DCGアニメとは異なり、アメリカン・コミックの要素を残す映像であり、CGを使いながらも、手書きアニメのような表現でした。
そんなシーンは特に予告でもあった気絶したピーター・B・パーカーとマイルスが自分たちの蜘蛛の糸が張り付いた電車に引っ張られるシーンは圧巻でした。ブルックリンの大通りで、渋滞している車を猛スピードでかわしていく映像はもはやテーマパークのアトラクションのようでした。そんなアトラクションのような映像の中でも、ちょっとした小ボケを入れてくるので、笑いが止まりませんでした。
くなったピーターのお墓に顔から激突したり、ピーター・B・パーカーの顔が道路に引きずられたり。それ以外にもアクションのスピード感に、お笑い要素を兼ね備えていているので、笑えて爽快なシーンが多くありました。家族、カップル、友達等、誰とみても盛り上がれるような大傑作です。
どのシーンを切り取っても一枚の絵になる
本作はコミックブックの世界を再現したアニメーションで構成されており、視覚的に非常に魅力がありました。まさにアートのような作品です!
ブルックリンの街を歩くマイルスや時空連続体装置の近くで戦うスパイダーマンたちなど、コマ割りや手書き風な演出が独特な世界観を作り上げており、色使いの美しい絵のような仕上がりでした。映画という映像以外にもアートやデザインに興味のある方にはぜひ観てみていただきたいです。
現代の最強ジャンル「マルチバース」の魅力
近年はマルチバースをテーマにした映画が多く作られております。世界興行収入2位の「アベンジャーズ/エンドゲーム(2019年公開)」や第95回アカデミー賞で作品賞を獲得した「エブリシング・エブリウェア・オールアットワンス」などが代表作で挙げられます。そしてなんといっても実写でも新旧のスパイダーマンが集結する「スパイダーマン: ノー・ウェイ・ホーム」は欠かせないでしょう。

すべてをリアルタイムに観ていました。それぞれのスパイダーマンでは悲しい物語があり、それがいつからでもやり直せる。これを今作を観ながら感じて「ありがとう」という思いを旨に心が温かくなりました。
そして今作もマルチバースブームを作り上げた作品の一つであり、マルチバースというジャンルのエンタメ性や壮大さを改めて感じました。
「マルチバースはむずかしい」と思う方もいるかも知れませんが、概念自体はとてもシンプルです。マルチバースとは「マルチ(複数)」と「ユニバース(宇宙)」を組み合わせた造語であり、「複数の宇宙が並行して存在する」という考えのことを指します。僕らが暮らしている地球・宇宙があるように、宇宙のどこかに同じような世界線が存在しているというイメージです。
これを読んでいる皆さまは人ですが、他の宇宙に住んでるあなたは「スーパーヒーロー」かも知れないし、「テーブル」や「ネコ」かも知れません。他の宇宙にいるあなたが、同じ空間に集結し、スーパーヒーローが突然、「私はあなたです」なんて言えば困惑するし、どんちゃん騒ぎになりますよね。これが現実ではなく映画の中では、非常に見ごたえのあるエンタメ作品に描かれるのです。
マイルスの自分らしさとアーロンの存在
本作の主人公であるマイルスが叔父のアーロンと地下鉄の立入禁止区域でグラフィティを描く場面は、特に印象に残りました。父親のジェファーソン・デイヴィスの前では自分らしさを出せないマイルスが、静寂で暗い空間に色鮮やかなアートを作り上げていく姿が描かれます。その演出は、マイルスの内面的な葛藤や自由への希望を表現しているような演出でした。

また、叔父のアーロンはマイルスが自分らしさを解放できる唯一の存在であり、2人の関係にも魅力がつまっています。アーロンがマイルスのグラフィティを見て、「お前の表現したいことがよく出ている」と賞賛するシーンは、映画を見終えた後に振り返ると切なさで胸が締め付けられます。
「誰だってマスクは被れる」のメッセージ
エンドクレジット直前で、マイルスが語った「誰だってマスクを被れる」という言葉は、視聴者に勇気や希望を与えてくれるような強いメッセージを感じました。
マイルスもスパイダーマンになった当初は「自信がない」「僕にはできない」と不安を抱いていました。しかし、覚悟を決め、スパイダーマンとしての道に進み、ブルックリンのヒーローとして成長を遂げたのです。
それぞれが憧れている人や心の中に抱くヒーローに「君たちだってなれるよ」と背中を押してくれるような言葉でした。
総評
「スパイダーマン:スパイダーバース」は、マイルスの葛藤や成長を描き、独創的なビジュアルと圧巻のアクションで映画の世界に引き込まれます。「マルチバース」という壮大な世界観と「誰でもヒーローになれる」というメッセージが心に響く、家族や友達と楽しめるような作品です。