2018年に日本で公開されるや否や、大ヒットとなったハリウッドのミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』。公開されてから7年経った2025年でも映画公開される作品となっています。

主演のヒュー・ジャックマンは後に、本作の楽曲を引っ提げた世界ツアーを行い、話題を呼びました。現在は本作の舞台化計画が進むなど、公開から時間がたっても愛され続ける作品となっています。
2026年春にイギリス・ブリストルのヒッポドローム劇場でワールドプレミアが行われる予定です。

瞬時に観客を魅了する演出
映画『グレイテスト・ショーマン』は、映画史以上においてトップクラスに印象的なオープニングシーンから始まります。主人公P・T・バーナムがシルクハットをかぶったサーカス団長のような格好で登場する冒頭はまさに圧巻です。このシーンはパフォーマンスもさることながら、細かい演出までが巧みであり、一瞬にして人々を惹きつけました。中でも光と影の使い方が目を引くのですが、これは作品全体のテーマとも結びついています。仰々しいほどに派手な演出で観客の関心を引く、という点でも、本作の舞台となるサーカスを強く印象付けていて、映画のオープニングとして非常に優れていることが分かります。
この巧みな演出は、オープニングに留まらず映画全体繰り返し利用されています。特に、バーナム一家や歌姫ジェニー・リンドなど上流階級を中心とした場面では光を中心に影を巧みに用いていた印象でした。対して、サーカス団員たちを中心とした場面では暗闇を基調として、光に意味を持たせる演出をしていたと感じます。また、ミュージカル映画にありがちな音声と口元の映像のズレを影の演出で目立たなくしていたのも、印象的でした。
そして実は本作でカギとなるような映像には、歴代のミュージカル映画を彷彿とさせる演出が多くあります。その場合、目新しさがなくなり、オリジナリティに欠けた印象になってしまいそうなところですが、本作ではなぜかそれがクールに見えてしまいます。そうやって観客を騙すのは、まさにバーナム式といえ、本作にぴったりだと感じました。
楽曲を手がけたは21世紀を代表する名コンビ
映画『グレイテスト・ショーマン』の一番の魅力というと、歌を挙げる方が多いでしょう。映画の素晴らしい演出も、音楽があるからこそ成立しています。本作に登場する歌曲を手掛けたのは、パセク&ポールとして知られるベンジ・パセクとジャスティン・ポールのコンビです。21世紀を代表する作詞・作曲家です。アメリカにおけるエンターテインメントのグランドスラム、EGOTを史上最も短いスパンの7年で獲得する実力者です。人気ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』や、アカデミー賞を獲得して話題となった『ラ・ラ・ランド』を手掛けたことでも知られています。

本作のサウンドトラックは世界中で大ヒットとなり、後に人気アーティストたちが劇中歌をカバーしたコンピレーションアルバム『グレイテスト・ショーマン:リイマジンド』がリリースされるという異例の事態にまで発展するほどの人気でした。楽曲はポップスの要素を兼ね備えつつも、ミュージカルらしくたっぷりと歌わせる見せ場を作った曲調と、多くの人々の共感を呼ぶ歌詞がヒットの秘密でしょうか。
加えて、歌唱力に定評のある役者陣が本作には集結しています。演劇界出身でハリウッドでも活躍する主演のヒュー・ジャックマンのように、映画以外の業界出身の役者も多くそろっています。中でも圧倒的な存在感を放っていたのが、ひげの生えた女として知られるレディ・ルッツを演じたキアラ・セトルでしょう。彼女の歌唱力は、多くの人々の心をつかみ、本作の要となっています。
実話をもとにした作品
本作の主人公であるバーナムは、映画だと夢を追いかける理想家として描かれ、差別を超えて多様性を讃える姿勢が強調されています。一方、実際のP.T.バーナムは、時に倫理的に問題のある手法で「見世物」を興行し、商業的成功を重視した現実主義者でした。映画では彼の「ヒーロー的側面」を強調し、史実の複雑さや物議を醸す部分を控えめにしています。

映画『グレイテスト・ショーマン』は演出や音楽で人気を博した一方、ストーリー展開自体には疑問を呈す声もあります。しかしながら、意外にも本作は実話をもとに作られています。主人公のバーナムは実在の人物で、19世紀に見世物小屋やその巡業で名をはせました。彼の設立した「地上最大のショー」という興行が本作のタイトルの由来でもあります。ホラ話がとても上手だったという逸話も残っています。

バーナムのサーカス団員についても、実話をもとにしています。親指トム将軍は英国のおとぎ話をもとにバーナムが名付けた実在の人物です。また、髭の生えた女や結合双生児のチャン&エン・ブンカー兄弟も、実際にバーナムの興行で活躍していました。バーナムがリンドの興行を担っていたことも実話で、ヴィクトリア女王にも謁見しています。劇場の焼失についても実際の出来事で、フィクションな部分も登場しますが、基礎となる部分は意外にも実話がベースとなっています。
総評
映画『グレイテスト・ショーマン』は、人気のミュージカルとして世界中で多くのファンを獲得しています。オープニングで観客をぐっと映画の世界に惹きつける演出は、数ある映画の中でも印象的なものです。本作の目玉である音楽、特に歌曲も人気で、世界中で大ヒットとなりました。そんな本作は、意外にも実話をベースとしています。舞台化や続編のうわさもあり、『グレイテスト・ショーマン』はこれからも多くの人々を楽しませてくれる作品です。魅惑のサーカスの世界に誘われてみたい方は、ぜひ視聴することをオススメな作品でした。