映画「ザ・ロストシティ」を鑑賞してまず思ったのが、懐かしくも新鮮な、王道冒険活劇でした。最初にポスターを見たときは、少し古い典型的なハリウッド映画かなと感じていました。
サンドラ・ブロックもチャニング・テイタムも好きな俳優ですが、正直フォトショップで作られたような合成感のあるビジュアルに、期待よりも警戒心が先に立ってしまったのです。
しかし、実際に視聴してみると、そんな心配は杞憂に終わり80年代の冒険映画の魅力を見事に現代に蘇らせた、心から楽しめるエンターテインメント作品だったのです。
豪華キャストが織りなす最高の化学反応
映画「ザ・ロストシティ」は、何と言っても豪華キャストたちの競演です。サンドラ・ブロックとチャニング・テイタムの息のあった掛け合い、ブラッド・ピットの圧倒的な存在感、そしてダニエル・ラドクリフの意外な悪役ぶり。それぞれが持ち味を存分に発揮し、映画全体を輝かせています。
サンドラ・ブロック×チャニング・テイタム:最強コンビの誕生
サンドラ・ブロックが演じるロレッタは、考古学の知識を持つ知的な女性でありながら、夫を亡くした悲しみからロマンス小説を書き続けてきたという複雑な背景を持っています。『ミス・コンジニアリティ』(2000年)で見せた身体を張ったコメディが本作でも存分に発揮され、椅子に縛られたまま手押し車で運ばれるシーンや、派手なピンクのジャンプスーツでジャングルを駆け回る姿は笑いを誘います。
一方、チャニング・テイタムは表紙のカバーモデルという設定を活かし、筋肉質な肉体を惜しげもなく披露。特に印象的なのは、サンドラ・ブロックが彼のお尻からヒルを取り除くシーンです。従来の冒険映画とは逆に、男性キャラクターが服を脱ぐというジェンダーを逆転させた演出が新鮮でした。
2人の掛け合いは見事で、最初は冷たい態度だったロレッタが次第にアランの献身的な姿勢に心を開いていく過程が自然に描かれています。ただ、ロマンスの部分には少し無理があるように感じました。とはいえ、それは映画の楽しさを損なうものではなく、むしろ「この2人、本当に付き合うのかな?」と微笑ましく見守る気持ちになりました。
ブラッド・ピット:豪華すぎるカメオが映画を格上げ
本作のもう一つのサプライズは、ブラッド・ピットのカメオ出演です。元ネイビーシールズの凄腕救出スペシャリスト、ジャック・トレーナーを演じた彼の登場シーンは、映画の中で最もスタイリッシュで、映画全体のクオリティを一段階上げています。
ダニエル・ラドクリフ:ハリー・ポッターの面影なし、新境地の悪役
『ハリー・ポッター』シリーズのイメージが強いダニエル・ラドクリフが、本作では風変わりな大富豪の悪役を演じています。父親から認められなかったコンプレックスを抱えるアビゲイル・フェアファックスというキャラクターは、脚本上やや動機が弱く感じられましたが、ラドクリフの演技力がその弱点を補っています。
わがままで自己中心的でありながら、どこか憎めない魅力を持つキャラクターとして見事に演じ切り、彼が登場すると場の空気が変わり、物語に新たな緊張感が生まれます。髭を生やした姿も新鮮で、ハリー・ポッターのイメージから完全に脱却した新境地を見せてくれました。
冒険映画としての完成度と課題
本作は、冒険映画のお約束をしっかりと押さえています。ジャングルを駆け抜けるシーン、古代遺跡の罠、敵からの追跡、そして宝探し。これらの要素が過不足なく盛り込まれており、観客が期待する「冒険」を十分に提供してくれます。
ただし、アクション映画としては、少し物足りない部分もありました。本作は、激しい銃撃戦や大規模な爆発シーンよりも、2人が窮地から逃れるための知恵や機転に重点を置いています。ブービートラップを使ったり、狭いハンモックで2人が寝るような状況的なコメディが中心で、アクションそのものはそれほど派手ではありません。ブラッド・ピットが登場する序盤こそ、スタイリッシュで本格的なアクションが展開されますが、彼がいなくなった後は、どちらかというと「逃げる」ことが主軸になります。

また、いくつかのシーンでは、キャラクターの行動に論理的な矛盾を感じる部分もありました。例えば、敵が近づいてくるのを見て隠れるのではなく、わざわざ目立つ崖を登るシーンがあります。ロレッタは派手なピンク色のジャンプスーツを着ているため、どう考えても目立ってしまうはずです。映画の尺の都合上、カットされた部分があるのかもしれませんが、「どうやってあそこまで登れたの?」と疑問に思う瞬間が何度かありました。
また、コメディのリアクションラインが、後からアフレコで追加されたように感じる場面もありました。キャラクターが歩き去るシーンで、口が映っていないタイミングでセリフが挿入されているのです。おそらく、最初の編集後に「ここにもう一つ笑いが欲しい」と追加されたのでしょう。一部のセリフは面白かったのですが、中には「これが最善のジョークだったのかな」と思うものもありました。
撮影地と映像美
本作は、ドミニカ共和国で撮影されました。実際のジャングルでのロケーション撮影は、CGだけでは表現できないリアリティを映像に与えています。特に、コロナ禍で2年間室内に閉じこもっていた後、こうした開放的な自然の中を駆け回る映画スターたちの姿は、観ているだけで爽快感がありました。
もちろん、CGも多用されていますが、それが悪目立ちすることはありません。滝や古代遺跡の一部など、現実には撮影が難しい部分を補完する形でCGが使われており、実写との融合も自然です。ただし、一部の背景CGについては、もう少し質を上げてほしかったと感じる瞬間もありました。
ロレッタの派手なピンク色のジャンプスーツは、映画の象徴的な衣装です。彼女がハイヒールでジャングルを走り回る姿は、明らかに非現実的ですが、それがこの映画のユーモアでもあります。従来の冒険映画では、女性キャラクターが露出の多い服装をさせられることが多かったのですが、本作ではロレッタはきちんと服を着たまま。代わりに、チャニング・テイタムが何度も服を脱ぐという、ジェンダーを逆転させた演出が新鮮でした。
PG-13レーティングの功罪
本作は、PG-13レーティング(日本ではG指定)で制作されています。これは、13歳未満の子供でも保護者の同伴があれば鑑賞できるという意味です。このレーティングのおかげで、より多くの観客にリーチすることができました。
しかし、このレーティングには制約もあります。暴力描写や性的な表現が制限されるため、より過激なシーンを期待していた観客には物足りなく感じられるかもしれません。実際、一部の批評では「もう少しエッジの効いた内容でも良かった」という指摘があります。
とはいえ、本作のコメディは下品になりすぎず、上品すぎもしないという絶妙なバランスを保っています。ヒルを取り除くシーンなど、多少きわどい描写もありますが、それがコメディとして成立する範囲に収まっています。この配慮が、家族で楽しめる作品としての本作の強みになっています。
まとめ:笑いとロマンス、そして冒険の魔法
映画『ザ・ロストシティ』は、心から楽しめるエンターテインメント作品でした。サンドラ・ブロックとチャニング・テイタムの化学反応は素晴らしく、ブラッド・ピットのカメオ出演は豪華で、ダニエル・ラドクリフの悪役ぶりも印象的です。そして何より、80年代の冒険映画の魅力を現代に蘇らせた功績は大きいです。
私たちは時に、複雑で重厚なテーマを扱った映画に疲れることがあります。社会派のドラマや、暗く重苦しいストーリーに圧倒されることもあります。そんなとき、本作のような気軽に楽しめる冒険映画は、まさに心のオアシスです。
週末の夜、特に深く考えずに楽しめる映画を探しているなら、『ザ・ロストシティ』は最高の選択です。笑って、ドキドキして、最後にはほっこりする。それ以上の何を求めるというのでしょうか。





