2022年12月1日、Netflixに一本のノルウェー映画が静かに登場しました。タイトルはシンプルに『トロール』。
公開直後から急速に視聴数を伸ばした本作は、配信開始から最初の3か月間で1億300万回視聴を記録し、Netflix史上最も再生された非英語映画の座に就きました。93か国でトップ10入りを果たし、ノルウェー・アメリカ・イギリスでも首位を獲得しました。

なお公開からわずか2週間の時点で、すでに総視聴時間1億2800万時間を記録し、非英語作品のNetflixトップ10で首位に立っていたという事実も、この快進撃の初速を物語っています。
映画「トロール 2022」のメガホンを握ったのはローアル・ユートハウグ監督です。 ローアル・ユートハウグ監督は『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(2018)を手がけた実力者です。
ノルウェーにおけるトロールの文化的地位
「トロール」という存在はノルウェーに限らず北欧神話全般に登場しますが、 特にノルウェーでは国民的シンボルのひとつとして今も生活に根ざしています。
本作を語る上で欠かせない参照点が、2010年のモキュメンタリー映画『トロールハンター』です。 予算規模では本作に遠く及ばないものの、独自の雰囲気とリアリズムで 世界的に高い評価を獲得した「ノルウェー版トロール映画」として比較される一作です。 本作はその系譜に連なりながら、ジャンルのアプローチを大きく刷新した作品でしたね。
ノルウェーにおけるトロールの文化的地位
「トロール」という存在はノルウェーに限らず北欧神話全般に登場しますが、 特にノルウェーでは国民的シンボルのひとつとして今も生活に根ざしています。 キャスト・スタッフの一人は「トロールはノルウェーで育つ上で当然の存在で、 サンタクロースと同じくらい親しみ深い」と語っています。
撮影地のひとつフンダーフォッセンには、世界で最も写真に撮られるトロール像があり、 ノルウェー映画史においても名高いアニメ監督イヴォ・カプリーノが手がけた 大規模なトロール人形展示施設が存在します。
本作を語る上で欠かせない参照点が、2010年のモキュメンタリー映画『トロールハンター』です。 予算規模では本作に遠く及ばないものの、独自の雰囲気とリアリズムで 世界的に高い評価を獲得した「ノルウェー版トロール映画」として比較される一作です。 本作はその系譜に連なりながら、ジャンルのアプローチを大きく刷新した作品と 位置づけるのが適切といえるでしょう。
「怪物」ではなく「遺された王」
本作が単なるパニック映画に留まらないのは、トロールに「理由」があるからでしょう。
トビアスの研究と王宮地下の秘密が明かされることで、 このトロールが実はキリスト教の到来とともに家族を殺され、 洞窟に封じ込められたトロール王だったことが判明します。 彼の孤独な歩みは復讐ではなく、失われた家族の骸がある王宮へと向かう、 悲しみの帰路だった——この設定の重みは、物語後半に確かな感情的共鳴をもたらすでしょう。
ゴジラやキング・コングが積み上げてきた「怪物の悲劇性」という伝統を 正しく継承した設定といえます。 太陽の光を浴びて石に還っていくトロールの姿には予想を超えた切なさが宿っており、 峻烈とも形容すべきその最期のシーンは、本作でもっとも印象に刻まれる場面でした。

怪獣映画の金字塔「ゴジラ」の方程式にトロールを代入する
物語の構造を端的に言えば、「眠れる巨人が目覚め、人類がそれを食い止めようとする」 というモンスターパニック映画の王道そのものです。
ノルウェーのドブレ山脈を貫く大規模な鉄道工事が引き金となり、 千年以上眠り続けていたトロールが目覚め、現代文明へと歩み始める。政府は古生物学者のノラ・ティーデマンを招集し、 軍と科学者がその巨大な脅威に対峙していくという流れです。
謎の揺れと破壊の痕跡から始まり、足跡の発見、トロールとの遭遇という 段階的な「見せ方」が序盤に丁寧に設計されています。『ジュラシック・パーク』へのオマージュとも取れる 「コップの水の波紋」を想起させるショットも挿入されており、 怪獣映画の様式美を意識的に継承している点が見受けられるでしょう。

中盤以降は軍の攻撃が悉く空振りに終わり、 ノラが父・トビアスの研究ノートを頼りに弱点を探るという構造へと移行します。 終盤、王宮地下に隠された「トロールと人類の歴史的な秘密」が明かされる場面は、 物語に思いがけない深みを与えてくれるでしょう。看過できないのは、この物語構造の問題点です。 ゴジラもキング・コングも観てきた視聴者にとっては、展開がほぼ予測通りに進みます。
「政府は軍事力を優先し、主人公の意見を無視する」 「軍事作戦は失敗する」「主人公だけが真実を知っている」—— このジャンルのテンプレートを、本作はほぼ忠実に踏んでいるのです。
なぜ『トロール』の映像は世界を圧倒したのか
本作の白眉は、映像美と怪獣デザインの質の高さにほかなりません。
雪を纏う山岳、霧に包まれる渓谷、午後の陽光が差し込むフィヨルド。 これらの実景の中に、岩と土で形成された巨大なトロールのCGIが 極めて自然に溶け込んでいます。 「実際に生きた生物がそこにいるかのように見える」 そのクリーチャーデザインの精度は、驚嘆に値するでしょう。
アクション撮影においても、カメラアングルの巧みな活用によって 迫力と臨場感が丁寧に演出されています。 トロールが民家を踏み潰し、オスロへと迫る場面では、 高低差と速度感を駆使したカット割りが圧倒的なスケール感を生み出していました。 怪獣映画として評価するならば、映像クオリティは Netflixオリジナルの水準を大きく超えるハリウッド級といえるでしょう。
照明設計にも際立った意図が見受けられます。 日常シーンでは穏やかな自然光が人物の脆弱さを浮かび上がらせ、 トロールが登場するシーンでは霧と逆光が巨人に神話的な荘厳さをもたらす。 この光の対比が、静かに物語の緊張を高めているといえるでしょう。
父と娘の物語——人間ドラマの可能性と、惜しまれる類型性
映画「トロール」は主人公ノラと父トビアスの関係性が重要となってきます。幼い頃、トビアスはノラにトロールの伝承を語り聞かせ、「目ではなく心で見なさい」と教えていました。しかし成長したノラは科学者として父の主張を否定し、二人の間には深い溝が生じています。この断絶の構造は、北欧神話と現代科学という二項対立を人物関係に落とし込んだ、脚本上の誠実な選択といえるでしょう。
しかし、二人の和解には惜しむらくの急ぎ足が残ります。もう少し対話の時間が与えられていれば、クライマックスの悲劇が視聴者の胸により深く刻まれたはずです。父娘の軌跡はドラマの核として機能し得るものでしたが、それを十分に掘り下げる前に物語は次のアクションへと走り出してしまいます。
登場人物の造形全体を俯瞰すると、この問題はより鮮明になるでしょう。「主人公の意見を無視する頭の固い軍高官」「のんびりした善人の副官」「データより武力優先の政府」——このジャンルを何作も観てきた視聴者には既視感しかない配役が並んでいます。北欧神話という豊かな素材を扱いながら、そのポテンシャルを深掘りせず次のアクションへと切り替えてしまう場面が多く、「トロール神話の世界観にもっと踏み込んでほしかった」という印象は拭えないでしょう。
まとめ:神話の孤独は、画面の向こうにも届いてくる
Netflixオリジナル映画『トロール』は、王道の怪獣映画として申し分のない完成度を持っています。
ノルウェーの絶景とトロールのCGIが生み出す映像的な豊かさ、 そして「ただの怪物ではなく、孤独な遺物」として描かれるトロール像は、 単なるモンスターパニック以上のものを視聴者に手渡してくれるでしょう。
ストーリーの予測可能さや登場人物の類型性は、否定しようのない事実です。 しかしそれを承知した上でも、ノルウェーの霧の中から岩山のように立ち上がる 巨人の姿を目にした瞬間、そういった批判は少し遠のいていく気がします。
続編『トロール2』(Troll 2)は2025年12月1日よりNetflixで配信中です。 本作を観てからの視聴を推奨します。




