SF映画の金字塔の一つとしても知られる、『猿の惑星』。1968年に公開された映画のオリジナル版は、世界中で大ヒットとなり大きな話題を集めました。それ以降も続編やリメイクなどといったプロジェクトが何度か立ち上がりましたが、大きな成功は得られませんでした。
そんな中公開された2011年の映画『猿の惑星: 創世記』から始まるリブートシリーズは、技術の革新と重厚な物語の作り方が好評を博しました。オリジナル版ほどの大きなヒットとはなりませんでしたが、多くの映画ファンから支持される作品となりました。そしてその3作目となりリブートの完結作となるのが、本作『猿の惑星: 聖戦記』です。新シリーズの完結作として製作された本作は、映画好きからも傑作の一つだと高い評価を得ています。物語の主人公であるシーザーの物語は、どのような結末を迎えたのでしょうか。
さらなる進化を遂げた圧倒的な映像技術
映画『猿の惑星: 聖戦記』の一番の見どころは、圧巻の映像技術とその美しさです。そもそもこのリブートシリーズは、映像技術の高さが多方面から絶賛されていました。モーションキャプチャーの技術を活用して製作された本作ですが、猿のCG表現が素晴らしく、まるで本物のような錯覚に陥るほどでした。一作目からその技術力の高さは際立っていたのですが、作品を重ねるごとにその技術は向上し、本作でも前作を上回る圧巻の映像美を誇っています。
前作となる映画『猿の惑星: 新世紀』では、非常に多くのエイプが登場していたものの、それぞれの個体差が認識しづらく、どのエイプがどのキャラクターなのか、よく分からなくなってしまった印象でした。そして本作では、その側面が大幅に改善されているように感じました。エイプの動きや表情の違いの解像度が上がっているため、従来の作品よりもそれぞれの特徴が掴みやすかったです。
さらに景観美も魅力的でした。CGでの雪景色の表現は圧巻でした。エイプの毛皮につく雪を描くのは非常に難しいのではないかと思ったのですが、細かいところまで見事に作り込まれている印象を受けました。
本作のVFXを手掛けているのはニュージーランドに拠点を置くWeta Digital(2021年に「Wētā FX」に改名)です。創設者は映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで有名なピーター・ジャクソン監督であり、さまざまなアカデミー視覚効果賞受賞暦のある会社です。
アカデミー視覚効果賞受賞の例
- 『ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還』
- 『キング・コング』
- 『アバター』
その他、BAFTAやVES(Visual Effects Society)アワードも多数受賞。
シリーズを通じての主人公シーザーの進化
映画『猿の惑星: 聖戦記』の主人公であるシーザーのキャラクターとしての深みもまた、本作の見どころの一つです。1作目である「創世記」では主人公とまで言えなかったシーザーですが、2作目の新世紀でエイプを率いるリーダーとなった彼は、このシリーズを引っ張る主人公です。作品を重ねるごとに深みを増していき、彼の葛藤する姿に心動かされました。
シーザーは「シェイクスピア劇的なキャラクターである」としばしば称されますが、本作でもその雰囲気をまとっていたと感じます。特にコバの亡霊に追い込まれていく様は、『ジュリアス・シーザー』においてブルータスがシーザーの亡霊に悩まされるシーンを彷彿とさせました。

シーザーをシェイクスピア劇的な葛藤するキャラクターとして成立させるために重要となるのが、表情と声の演技です。手話を基本とするエイプたちと異なり、シーザーは言葉を発生することでのコミュニケーションを主としています。そのため彼の発する言葉やせりふ回しはどうしても注目してしまう部分です。さらには細かい表情の演技が彼の感情の機微を細かいところまで観客に伝えてくれています。これを可能にするのが、シーザーを演じるアンディ・サーキスの圧倒的な表現力です。
アンディ・サーキスは猿の惑星のシーザーだけではなく、ロード・オブ・ザ・リングシリーズでのゴラムとしても演技力が高い表現を魅せてくれました。
そんな彼は過去作品や本シリーズでも抜きんでていましたが、本作でまた大きな進化を遂げていると感じます。モーションアクターとしてトップを走り続けているサーキスの演技は、本作を見た誰もが大絶賛すること間違いありません。モーションアクターはCGを通しての演技が中心のため、賞レースでは軽視されがちです。しかし、今後は需要が増えるでしょうから、ぜひとも正当な評価が得られるようになって欲しいです。
リブートシリーズの壮大な物語の完結
映画『猿の惑星: 聖戦記』は、リブート版「猿の惑星」シリーズの完結作として製作されました。実は続編の企画も進行しており、実際に続編も制作されましたが、一応3作で完結ということになっています(2024年に新しい主人公に据えた猿の惑星/キングダムが公開されています)。このリブートシリーズは全体的にとても重厚で壮大な物語を展開してきました。タイトルもきちんと考え抜かれていて、制作陣の意図を丁寧に汲み取った邦題が選定されているのも、特徴かと思います。また個人的に「聖戦」という言葉は避けるべきかとは思いましたが、もともと「大戦」の予定だったところを修正しているため、気合の入った邦題なのだなと感じています。そして聖戦の言葉どおり、本作ではシーザーはひたすら殉教者としての立ち位置にいるように感じました。
このシリーズではシーザーの誕生から死までの、壮絶な生涯が描かれています。希望を持っては打ち砕かれ、人間との距離の取り方、関係の作り上げ方、そしてエイプたちを率いるリーダーとしての言動や家族との絆などが、重く語られています。人間だから、エイプだから、ということを抜きにして、彼の生きざまを見せつけられたと感じました。
まとめ
映画『猿の惑星: 聖戦記』は、圧倒的な映像美と映像技術で観客を強く引き付ける作品です。エイプたちを表現する最新技術だけでなく、モーションアクターたちの高い演技の技術を楽しむことができます。なかでも、シリーズを通して描かれるシーザーの生涯は繊細で重く、人々の心を揺さぶります。それを可能にしたサーキスの演技も、高く評価されるべき作品です。じっくりと、重厚な作品を楽しみたい気分の時にオススメの一作となっています。