サメ映画の歴史的な代表作といえば「ジョーズ」がまず思い浮かべました。そのほかにも「ディープ・ブルー」などサメに代表される獰猛な海洋生物と人間の闘いを描いた作品は、コアなファンを獲得しています。
そんなサメ映画の中で本作「海底47m 古代マヤの死の迷宮」は「47m」のヨハネス・ロバーツ監督による2作目になります。第1作では、ケージ(檻)からサメの鑑賞を楽しんでいたところ、47mの海底に落下。酸素が減っていく状況で、サメに狙われながら脱出を試みるパニックを描きました。
第2作では、原題の「Uncaged」にあるように檻からの解放が描かれます。しかし、二人の姉妹が閉じ込められたのは鉄柵の折ではありません。閉じ込められたのは、なんと水没したマヤ文明の遺跡であり海底洞窟です。そんな洞窟の閉鎖された場所で、仲間のひとりまたひとりとサメの餌食になっていきます。
サメ映画では必須ともいえる、ボンベから供給される酸素の欠乏に加えて、洞窟内の人骨、迷路から抜け出すパニックなど、次々と襲いかかる恐怖が襲いかかりとくに真っ暗な画面の中で突然サメが出てきたときには「うわっ!」と声が出てしまう作品です。
サメ映画ファンであれば観ておきたい!リアルな映像。
サメの恐ろしいところを挙げるならば、まず鋭い牙と大きな口、巨大な身体です(ジョーズに登場するホオジロザメは平均的な体長: 4.0~4.8メートル)。そして最も恐怖心をそそるのは無表情であり、冷酷な残虐性ではないでしょうか。映画で登場するサメは巨大であるにも関わらず、水中で獲物に静かに近づいて、そのくせ動きは俊敏でありすばやく喰らいつきます。

本作に登場するサメは、密林の奥にある水没したマヤ文明の古代遺跡に生息しています。洞窟の奥で海とつながっているせいか、海から少し離れた密林のなかの湖にも関わらずサメが潜んでいるのです。
そんなサメの存在を知らずに、主人公のミアとと姉であるサーシャ、そしてクラスメイト2人の女性は大人たちの目を盗んで、こっそり湖に沈む遺跡に潜水してスリルを楽しもうとします。そんな遺跡に潜っていると仲間の一人が焦って遺跡の柱を倒して、入口が閉ざされて脱出できなくなります。
ミアたちが狭い岩の隙間に逃げ込んでも、サメはぐいぐい鼻先を突っ込んで喰いつこうとします。水中で逃げ惑い、あっというまに水底へ連れ去ります。
本作のホオジロザメは、すべてフルCGで作成したそうです。あまりにもリアルな泳ぎに、本物を使ったのではないかと思うほどでした。撮影にあたっては、女優たちの演技を引き出すために手作りのサメも使ったとのこと。女優たちの迫真の演技を含めて、サメ映画ファンであれば観ておきたい作品です。
迷宮、人骨、酸素不足、激しい潮流など次から次へと襲う恐怖
本作ではダイビングの中でも難しいといわれる海底洞窟のケーブダイビングに、4人の女子高生は不十分な装備で臨みます。しかもミアとサーシャのふたりは、ダイビング初心者です。

そんなダイビング初心者な主人公ですから、海底洞窟に閉じ込められる恐怖が次々と襲いかかります。しかも閉じ込められた洞窟を進んでいくと、湖の遺跡の中で大量の人骨が沈んでいる墓場があります。さらには暗いため視界は不明瞭、少し離れると電波が途切れてコミュニケーションできません。音声が断絶して変調する場面では、視覚以外に聴覚からも絶望的な感情が募ります。
そして酸素不足。4人は度々酸素の残存量を確認しますが、残された酸素は各々少しずつ違います。パニックになって呼吸が速くなれば、酸素は急激になくなるからです。騒いで泣きわめけば、酸素は急激に減少します。といっても、この状況ではパニックになるな、冷静に行動しろというのがムリな話でしょう。
外に出られるわずかなチャンスが訪れるシーンもありますが、ここで芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のような展開になります。希望はぷっつりと途絶えます。サメの弱点に気づいても、決定的な弱点なのかどうか確かめるすべがありません。洞窟内ではサメと闘う手段はなく、この自然の「檻(ケージ)」から全力で逃げ出すことが全てなのです。
ぎくしゃくする家族関係と心の孤独
ミアの父親は、サーシャの母親と再婚したばかりで、ミアとサーシャの姉妹の関係はぎくしゃくしています。同級生たちといじめの場面を見ていたサーシャは、目を背けてその場を立ち去ります。帰宅してからも、家族の雰囲気はうまくいっていません。こうした心理的な痛みが描かれていることから、話が進み後半の恐怖と姉妹のサバイバルが意味を持ちます。
姉妹は、サメから逃げて洞窟から脱出するための協力を通じて、ふたりの距離を縮めていきます。ただ怖がらせるだけのパニック映画ではなく、根底にしっかりとしたドラマがあることから作品の厚みが生まれます。

終盤でミアは、彼女をいじめている同級生たちと再会します。これも恐怖のひとつといえなくもないのですが「あんた、ここで何やっているわけ?」と言いたそうな声を失った同級生の表情に対して、もはや少しも余裕がなく疲れはてたミアとの対比が印象的です。
そしてキャスティングについて触れておくと、まずミア役のソフィー・ネリッセ氏は「ぼくたちのムッシュ・ラザール」で映画デビュー後、さまざまな受賞歴のあるカナダの女優です。一方、サーシャ役のコリーヌ・フォックス氏は、俳優で歌手としても知られるジェイミー・フォックスの娘。モデルやテレビ作品に出演後、本作が映画デビューとなりました。
本作が映画女優のデビューには、もうひとりいます。ニコール役のシスティーン・スタローンです。名前から分かる通り「ロッキー」などで有名なシルヴェスター・スタローンの次女であり、モデルとしてシャネルのファッションショーでデビューして活躍していましたが、映画の出演は本作初になります。
このような映画初デビューの女優2人に注目することにより、サメ映画、パニックホラー映画以外に、鑑賞の楽しみが拡がる作品となっていました。
まとめ
巨大なホオジロザメから逃れるヨハネス・ロバーツ監督の「海底47m」の第2作。前作を踏襲しながら、水没した古代マヤの遺跡に閉じ込められるという設定を加えて、過酷な条件における脱出を描いています。サメ映画好きにも、ホラー映画好きにも楽しめる作品でした。