映画 アメリカ
ブラックアダム:新時代のアンチヒーロー誕生!

Score 3.2

混乱を極めたDCユニバースに、ついに新たな救世主が現れました。しかしそれは従来のヒーローとは一線を画す、破壊と殺戮を厭わないアンチヒーロー、ブラックアダムです。脚本の粗さや設定の大雑把さはあるものの、ドウェイン・ジョンソンの圧倒的な存在感と迫力満点のアクション、そして魅力的なJSAメンバーたちが織りなす痛快な「筋肉映画」として、期待以上の娯楽作品に仕上がっています。深みよりもパワーを、複雑さよりもシンプルな爽快感を求める観客には、まさに理想的な一本と言えるでしょう。

原題
Black Adam
公式サイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/blackadam/

© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. TM & © DC Comics

監督
登場人物
テス=アダム / ブラックアダム

Actor: ドウェイン・ジョンソン

古代の力を与えられた人物。復讐と独自の正義感に従い、現代世界で暴走/守護を行うアンチヒーロー。

アドリアナ

Actor: サラ・シャヒ

カーンダックの大学教授

ホークマン

Actor: オルディス・ホッジ

JSAの一員。空中戦と戦術でブラックアダムに立ち向かうベテランヒーロー。

ドクター・フェイト

Actor: ピアース・ブロスナン

他の作品:

魔術的知見を持つJSAメンバー。運命や魔法の力で状況を操る。

アトム・スマッシャー

Actor: ノア・センティネオ

パワー増幅と成長(巨大化)を得意とする若手ヒーロー。

サイクロン

Actor: クインテッサ・スウィンデル

風を操るJSAの若手メンバー。

配給会社
制作会社

ここがおすすめ!

  • ザ・ロック渾身のアンチヒーロー演技
  • 容赦なきバイオレンスアクション
  • 複雑な設定を排して痛快さを追求した潔い娯楽性

あらすじ

古代エジプトの奴隷として生まれながら、神々から力を与えられて最強の戦士となったテス・アダム。しかし暴君を倒した後、その破壊的な力を危険視され、5000年の眠りにつかされることになります。現代、中東の小国カーンダックは犯罪組織インターギャングの支配下に置かれ、人々は苦しい生活を強いられていました。考古学者アドリアナが古代の遺跡で呪文を唱えたことで、ついにブラックアダムが復活。圧倒的な力で侵略者たちを次々と葬り去りますが、その容赦ない殺戮は世界的な脅威と見なされ、秘密組織アーガスによってジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ(JSA)が派遣されることになる。

arner Bros. Japan — ブラックアダム

映画『ブラックアダム』は2007年の企画発表から実に15年たった映画です。そして「筋肉で作られた映画」という言葉がふさわしい、パワー全開のエンターテインメントです。

本作最大の魅力は、従来のスーパーヒーロー映画にはない「容赦なさ」にあります。復活したブラックアダムが敵を文字通り「殺しまくる」序盤のシーンは、近年のヒーロー映画で慎重に避けられてきた直接的な暴力描写を遠慮なく描いており、観客に強烈なインパクトを与えます。一発一発のパンチに重量感があり、編集とVFXによってブラックアダムの圧倒的な力が最大限に表現されています。

ドウェイン・ジョンソンの演技も見事です。普段は飄々としているものの、戦闘時には人斬り抜刀斎のような凄みを見せる二面性の表現は、『ターミネーター2』のT-800を彷彿とさせる魅力がありました。特に少年アモンとの交流で見せるコミカルな一面—決め台詞を練習したり、ヒーローらしい振る舞いを学んだりする姿—は、堅物だが不器用なユーモアを持つキャラクターとして絶妙に描かれています。

映像表現と物語構造—パワーで補う脚本の粗さ

映画「ブラックアダム」は撮影監督ローレンス・シャーの手腕も光る作品です。『ジョーカー』の撮影も担当した彼は、登場人物の心理状態を映像で表現することに長けており、本作でもその才能を遺憾なく発揮しています。

色彩でヒーローをしっかりと区別し、ダイナミックな照明によってそれぞれのキャラクターのスタイルが確立されています。近年のヒーロー映画では状況説明のためだけに映像が使われることが多い中、本作はビジュアルの美しさと迫力で観客を楽しませることに成功しています。

特に飛行シーンの撮影は、従来のワイヤーアクションによる不自然な傾きを避けるため、水平を保てる特殊なマシンを開発し、LEDスクリーンと組み合わせることで、よりリアルな飛行感を実現しています。ブラックアダムが「心理的チェス」を好み、相手を見下ろすように浮遊する演出も効果的でした。

大雑把だが潔い物語構造

ただ本作は脚本の大雑把さが目立つ印象でした。現代のカーンダックを支配する悪役たちの描き方は驚くほど薄っぺらく、「悪魔の王冠」というアイテムを狙う動機も曖昧で、市民が苦しめられている状況もセリフで説明されるだけという有様です。

また、ブラックアダムの弱点とされる「エタニウム」の設定や、序盤で死亡するキャラクターの存在意義など、疑問に思う部分も少なくありません。JSAの存在についても、これまでジャスティス・リーグに言及されなかった理由など、ユニバース全体の整合性に課題を残しています。

しかし、これらの粗さは「細かいことは気にするな」という潔い作風の一部として受け入れることもできます。深みはないが楽しい、テンポが良くアクションも見応えがある—そんなシンプルな娯楽作品として割り切れば、十分に及第点を与えられる出来栄えです。

DCユニバースの新時代を担う者たち

JSA—待望の実写化を果たした伝説のチーム

本作のもう一つの柱となるのが、ジャスティス・リーグよりも長い歴史を持つヒーローチーム、JSAの存在です。コミックファンにとって待望の実写化となった彼らは、それぞれが独特の魅力を放っています。

特に印象的だったのはピアース・ブロスナンが演じるドクター・フェイトです。金色のヘルメットをまとい、様々な魔術で戦う彼の姿は、まさに理想的な実写化と言えるでしょう。ジェームズ・ボンドを演じていただけあって、ベテランの風格と余裕を感じさせる演技が光ります。ブラックアダムとホークマンが激しく対立する中、高みの見物を決め込む様子は実にクールで、ドクター・ストレンジとは異なる魔術師ヒーローとしての独自性を確立しています。

アルディス・ホッジ演じるホークマンも、正統派ヒーローとして素晴らしい存在感を見せています。「ヒーローは誰も殺さない」という信念を貫く彼の姿勢は、容赦なく敵を殺すブラックアダムとの対比を鮮明にし、物語に緊張感をもたらします。完全に正反対の二人が戦いの中で男の友情を育んでいく過程は、見ていて心が熱くなる展開でした。

ユニバース再建と続編への展望

映画「ブラックアダム」は、混乱を極めたDCユニバースの再建に向けた第一歩としての役割にあります。エンドクレジットでのスーパーマン登場は、「この星で最強だ」と豪語するブラックアダムに対し、「そうでもない」と示す象徴的なシーンでした。これは原作でも何度も繰り返されてきた対決の構図であり、今後の展開への期待を高めています。

また、『ザ・スーサイド・スクワッド』でおなじみのエミリア・ハーコートの出演も、ユニバースのつながりを示す重要な要素です。アーガスという秘密組織の存在が明かされ、アマンダ・ウォラーとの関係性も示唆されました。アーガスはマーベルのシールドに相当する組織ですが、より「汚い」手段を厭わない点が特徴的です。捕まえたヴィランたちを使ってスーサイド・スクワッドを結成するなど、DCらしいダークな側面が垣間見えます。

またジェームズ・ガンのDCスタジオ共同会長兼CEO就任も追い風となるでしょう。『ザ・スーサイド・スクワッド』での手腕を考えれば、今後のDCユニバースには大いに期待できそうです。正式に「DCユニバース」という名称も決定し、ようやく一貫したビジョンのもとで展開されることになりました。

JSAメンバーたちの個別作品への期待も高まります。特にドクター・フェイトとホークマンのバディムービーが実現すれば、きっと素晴らしい作品になることでしょう。また、アドリアナとその息子アモンも、原作ではヒーローになる設定があるため、今後の展開が楽しみです。

まとめ:筋肉と情熱が切り拓く新時代のヒーロー映画

映画『ブラックアダム』は、脚本の粗さ、設定の曖昧さ、キャラクター描写の不足など、指摘すべき問題点は数多くあります。しかしながら、それらすべてを補って余りある「情熱」と「パワー」に満ちた作品であることは間違いありません。

15年間の構想期間、キャスト陣の徹底した役作り、そして何より「ファンの求める映画を作りたい」という純粋な想いが結実したこの作品は、映画制作における情熱の重要性を改めて教えてくれます。アンディ・サーキスがコミコンで語った言葉—「良い演技、良いキャラクターを作る人たちはみんな情熱を持っている」—が、まさに本作を象徴しています。

深いメッセージを求める人には物足りないかもしれませんが、シンプルな爽快感と圧倒的なビジュアルを求める観客には、まさに理想的な娯楽作品と言えるのはないでしょうか。そして何より、混乱していたDCユニバースに新たな希望の光をもたらしてくれた功績は、決して小さくありません。

本作が提示したのは、「ヒーローは殺さない」という不文律への挑戦であり、「チャンピオン」という新しいヒーロー像の確立でした。ブラックアダムは最後までヒーローとは呼ばれず、あくまで民を守る「守護者」として描かれます。

筋肉とパワーで切り拓かれた新時代のヒーロー映画。その先に待つ未来に、大いに期待したいと思います。

各サイトのレビュースコア

概要と位置づけ

『ブラックアダム』は、DCユニバースの中でも“反英雄”を主人公に据えたアクション超大作である。
監督ジャウム・コレット=セラは、スリラー演出に定評のある作家で、『ロスト・バケーション』や『ラン・オールナイト』などで見せた緊張感を本作のスーパーヒーロー描写にも持ち込んだ。
主演のドウェイン・ジョンソンは製作にも深く関わり、自らの肉体と神話的存在感を融合させたキャラクター造形を確立している。

本作は公開時、観客の熱狂的支持を受けた一方で、批評家からは厳しい評価を受けた。その乖離こそが本作を読み解く上での焦点である。


各プラットフォーム評価とレビュー傾向

  • Filmarks:3.7 / 5
    「理屈抜きで楽しい」「王道アクションの爽快感」と肯定的な声が多い一方、「ストーリーが浅い」「中盤が単調」との指摘も見られる。
    日本では娯楽性を重視する傾向が強く、脚本よりも体験としての満足度が重視されている。

    「圧倒的パワーで全部解決する爽快感」
    「ストーリーは荒いけど映像の迫力がすごい」
    「ヒーローより悪役の魅力に惹かれた」

  • IMDb:6.2 / 10
    国際的に見れば平均的評価。
    アクションの迫力は好評だが、「物語が平板」「キャラクター描写が薄い」といった批評も多い。
    世界的に見ると“大衆向けアクション映画”としては十分合格点という印象である。

    アクションシーンは素晴らしいが、ストーリーには感情的な深みが欠けている。“The action sequences are amazing, but the story lacks emotional depth.”
    ドウェイン・ジョンソンが最もパワフルな姿を見せる、楽しいポップコーンムービー。“A fun popcorn movie with Dwayne Johnson at his most powerful.”

  • Rotten Tomatoes:批評家 38 / 100・観客 87 / 100
    批評家は「ストーリーが単純」「深みのない派手さ」と酷評する一方、観客は「楽しい」「ドウェイン・ジョンソンのカリスマが全て」と高評価。
    批評家が知的完成度を重視するのに対し、観客は感覚的快楽を求めている構図が明確に表れた。

    • 批評家

      騒がしい見せ物、熱意と深みを混同している。“A loud and hollow spectacle that confuses intensity with depth.”
      破壊を物語と勘違いした映画で、ジョンソンのカリスマ性すら救えない。“Johnson’s charisma can’t save a film that mistakes destruction for storytelling.”

    • 観客

      まさに視聴者が求めていたものであり、純粋な楽しさとアクションだ。“Exactly what I wanted — pure fun and action.”
      不十分な箇所はあるが、DCが再びワクワクするものを届けてくれた。“Not perfect, but finally DC gave us something exciting again.”

  • 映画.com:3.5 / 5
    「映像の迫力とアクションのテンポが良い」「ブラックアダムの存在感が圧倒的」といった肯定的意見が中心。
    一方で「世界観の説明不足」や「物語の整理不足」も指摘されている。


批評家評価と観客評価の乖離

批評家スコア38点に対して観客スコア87点という極端な差が存在する。
批評家は物語の深みや倫理的テーマの欠如を問題視したが、観客は純粋に“パワーと破壊の快楽”を楽しんでいる。
すなわち『ブラックアダム』は、思索的鑑賞よりも感覚的カタルシスを重視する映画であり、現代のエンタメ構造を象徴している。

ジョーダン・ピール監督の『NOPE』が社会構造をメタ的に描いた知的ホラーであるのに対し、本作は真逆の立場を取る。
『ブラックアダム』は「考える映画」ではなく「感じる映画」である。


総合評価:観客主導の神話的エンターテインメント

『ブラックアダム』は、批評家の求めるドラマ性よりも観客の“体感的満足”を優先した作品である。
ジャウム・コレット=セラは、物語の繊細さを削ぎ落とし、映像と音の衝撃で観客を圧倒する方向に舵を切った。

これは『NOPE』のように知的構築によって映画的意味を探るアプローチとは正反対だが、いずれも“映画とは何を体験させるものか”という問いに対する異なる回答である。

『ブラックアダム』は、批評家を唸らせる作品ではない。だが観客を熱狂させる力を持っている。
映画が多様化する現代において、本作は“体験型アクション映画”の到達点のひとつとして位置づけられる。

本ページの情報は 時点のものです。
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