監督は、クリント・イーストウッド
『ミリオンダラーベイビー』(2004)や『運び屋』(2018)で監督と主演を兼任するなど、俳優としても映画監督としても活躍しているクリント・イーストウッドが手掛けた本作は、世界興業5億越えを記録しています。
この数字は、クリント・イーストウッドが監督として制作した映画の中でも驚異的なもので、アメリカ本土を中心に世界的に第注目されました。その結果、子どもや女性を含む160人もの命を奪ったクリスは、英雄なのか、残忍な殺人者なのかと激しい論争を生みました。
この論争について簡単に答えを出すことは難しいですが、戦争について考える機会を作ることこそに意味があるのではないでしょうか。ちなみにイラク戦争で活躍したクリスを英雄として描いたイーストウッドですが、イラク戦争は支持していないと明言しています。
出陣して帰ってきた兵士たちを襲う深刻な問題
戦場で常に神経を研ぎ澄ませ、気を緩めることのできない環境で数週間過ごす兵士たちは、自国に戻った時、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥ってしまうケースが多くあります。
クリスは、生まれたばかりで泣いている自分の赤ん坊を見て、射殺した少年や虐待を受けて泣き叫ぶ少年と重ねてしまったり、発車音に敏感に反応したり、TOYOTAのロゴを見てテロリストではないかと警戒したり…と平和なアメリカに戻っても戦場へいるときと変わらない緊張感から抜け出せない症状に悩みます。家族関係も険悪になってしまいます。
戦争は勝てばいいわけではありません。また、戦場から無事に帰ってこれればそれでいいわけでもありません。戦争がもたらす恐ろしい側面をリアルに体感することができました。
原作との比較
『アメリカン・スナイパー』は、主人公クリス・カイルによる自伝『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』が原作となっています。
※以下、物語の重要なポイントに触れています。未鑑賞の方はお気をつけください。
主人公・クリスの年齢
幼少期に父親と狩りに出ている時、スナイパーとしての才能を発揮したり、父から弱者をいじめる者を守れる人になれと教え込まれたりしていたクリスは、同時多発テロの残虐な映像を見て、祖国のために入隊を決めたのが映画版でのストーリーです。入隊時に30歳であることから「年寄り」と罵られながらも過酷な訓練を乗り越え晴れてシールズへの仲間入りを果たしました。
しかし、実際のクリスは、1974年生まれであり、同時多発テロ以前にシーズルに入隊しています。また、訓練期間は、30歳ではなく、20代の頃であると分かっています。つまり、祖国愛や忠誠心の強さを物語るための設定として脚色されていることがわかります。
ムスタファ
クリスを追い詰めるイラク側のスナイパー・ムスタファは、五輪の射撃競技で表彰台に乗ったほどの実力である設定が映画版ではあります。そして、腕に入ったタトゥーを頼りにクリスを殺すともらえる賞金を手に入れようと、貪欲に追いかけ、クリスの仲間も被害にあってしまいます。
映画版では、クリスに匹敵する敵の敏腕スナイパーという立場で登場するのですが、原作では、クリスがムスタファと交戦したことは語られていないため、”1920メートル先からの射撃”も脚色されていることがわかります。
みんなのコメント
- イーストウッド特有の映像美と変わっていく人間の描写が素晴らしい。
- 賛否はあるけれど、精神を病むこともある、四肢を切断することもある、死体となって帰ってくることもある、それでも大切な人を守るために戦場へ向かう人たちをどう見ればいいのだろうか。
- 実話に基づいた話は説得力がある。