アメリカマーベル社が発刊するコミックスのキャラクターを実写作品で描くシリーズ、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)。2008年に公開されたシリーズ1作目となる『アイアンマン』から10年、記念すべき20作目として公開されたのが映画『アントマン&ワスプ』です。MCUのクライマックスを飾る一大イベントとなった映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(2018)』と『アベンジャーズ/エンドゲーム(2019)』と同時期に公開された本作は、ファンの期待を裏切らない一作として大きな支持を集めました。
MCU史上初、女性スーパーヒーローがタイトルに
映画『アントマン&ワスプ』は、MCU史上で初めて女性のスーパーヒーローの名が冠された作品となりました。MCUにおける女性の役割については、広く議論が交わされてきたトピックでした。この後に「キャプテン・マーベル」が公開されますが、これまで公開された19作品において、男性ヒーローのみがタイトルに名前をクレジットされてきました。それは女性が主人公となった映画もなく、基本的にはヒロインポジションしか与えられてこなかったため、ジェンダー平等とは程遠い、という批判を産んでいました。そんななか、MCUが始まって10年かつ20作品目でようやく、女性ヒーローがタイトルロールとして登場することとなりました。
「アントマン」シリーズでは一作目から登場してはいた「ワスプ」ですが、ホープ・ヴァン・ダインがワスプとして活躍するのは本作からとなります。「ワスプ」というヒーロー自体は、コミックスやアニメーションにおいて、アベンジャーズの一員としても活躍していたので、ある程度の知名度のあったヒーローだといえるでしょう。そんな彼女がMCUで女性初のタイトルロールを獲得したのは、妥当だと感じました。
また本作ではそれ以外にも、MCUではあまり語られてこなかった母娘の物語であるという点や、もともとは男性キャラクターだったゴーストというヴィランが新たに女性のキャラクターとして登場している点など、それまでのMCUでおろそかになりがちだった女性キャラクターの描き方という点で、進展を見せた一作と考えることができます。
原作コミックのゴースト
進化したアントマンの活躍
映画『アントマン&ワスプ』では、ワスプだけでなくヒーローとして成長したアントマンの活躍を楽しむこともできます。前作では、一般人だったアントマンが、いかにしてアントマンスーツやその他のガジェットを使いこなして敵と戦えるヒーローへと成長していくか、に焦点が当てられていました。その後、映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』において、スーパーヒーローの集団戦で戦った経験を経て、アントマンとしての力を使いこなせるようになったスコットの活躍は、見ごたえがあります。
そしてアントマンとは異なり、羽根を持つことで飛ぶことが可能になったワスプとのアクションシーンも非常に躍動感があり、作品自体の大きな魅力を支えています。ガジェット面でも本作は真価を見せています。スーツケースのように持ち運び可能な量子研究のラボや量子トンネルのシーンは、本シリーズらしいユーモアとアクションに大きく貢献しています。この量子力学の研究は本作だけでなくMCU全体でも非常に重要な役割を持つため、本作の位置づけは非常に大切だといえるでしょう。

キャラクターの放つユーモアとテンポの良さ
映画『アントマン&ワスプ』が全体的に優れているのは、やはりその独特のユーモアとアクションシーンのバランス、そしてテンポの良さでしょう。メインのキャラクターであるスコット・ラング(アントマン)とホープ・ヴァン・ダイン(ワスプ)に加えて、他にも強烈なサブキャラクターたちも観客に強い印象を残しました。特にアントマンを担当するFBI捜査官のジミー・ウーと、スコットの親友ルイスはとてもユーモラスで観客の笑いを大いに誘う存在です。ファンの間でもとても人気のキャラクターで、「アントマン」シリーズに限らず、他のMCU作品にカメオ出演して欲しい、という声が常に上がるほどの大人気となっています。二人に共通しているのは、どこかへっぽこなのに情に厚く、頼れる存在でもある点です。ウーがマジックに気を取られるという小ネタや、ルイスの早口なのに長すぎる話は映画全体のテンポを作り上げているように感じました。
また、「アントマン」シリーズに欠かせないユーモアといえば、実在のカワイイを巨大化させる、というシーンです。一作目では巨大になったきかんしゃトーマスが大きな話題を集めましたが、本作では日本でおなじみのキャラクター、ハロー・キティが巨大化して登場。決して作品の流れを止めるわけではなく、むしろテンポの良さを創出していて、その絶妙なさじ加減がファンの心をくすぐったのではないでしょうか。
まとめ:男女のバディでのW主人公が織りなす、ユーモアとアクションの快作
映画『アントマン&ワスプ』は、MCUで初めて女性ヒーローの名がタイトルにつけられた一作です。それまでMCUでは活躍が限られていた女性キャラクターたちの活躍の場が広がった作品ではありますが、タイトルロールのアントマンの前作以上の活躍を見ることもできます。そして、ファンから愛されるユーモラスな脇役たちも、大きな魅力となっています。テンポの良いユーモアとアクションシーンで紡がれた本作は、のちにMCU全体でも重要な位置を担う作品なので、ぜひ履修していただきたい一作でした。