2012年に公開された映画『アベンジャーズ(The Avengers)』にて、それまで単独で成立していた映画作品のキャラクターを集結させたことで世界をアッと驚かせました。そんなMCUが仕掛けた一大イベントが、アベンジャーズシリーズ第3作目となる映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』です。そしてMCUフェーズ3の集大成でもある『アベンジャーズ/エンドゲーム』へ向けて踏み出した作品でした。
スケールアップしたヒーローたちの集結
映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の最も注目すべき点は、当時最大規模となったスーパーヒーローたちの大集結です。本作はMCU作品としては19作目の劇場公開作品です。つまり、それまでに18本もの映画作品が作られています。中には、「アベンジャーズ」シリーズや『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のように、ヒーローたちが集結する作品もありますが、基本的にはどの作品も独立した世界観を保ってきました。そのため、それらのキャラクターがどのようにして一つの映画にまとまるのかは、なかなかに想像しづらい状況でした。
例えば、映画『ブラックパンサー』はアフリカにある架空の国ワカンダを主な舞台としていますし、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズも宇宙を舞台とした作品です。これらの作品に登場するキャラクターたちを無理なく集結させるのは、難しいでしょう。
しかし、本作ではそれを見事に成し遂げています。それまで展開されてきたそれぞれの映画の、クローズされていなかった部分を巧みにつなぎ合わせて、それらをすべて伏線とすることで上手に回収し、一本の映画にまとめ上げていたのです。本来ならばニューヨークにいるはずのスパイダーマンが宇宙で活躍するなんて、誰が想像したでしょうか。このように大きな破綻なく事前に明確なビジョンがないと難しいことで、本作がいかに計算されて作られたものなのかが分かります。

アイアンマン側を筆頭に各ヒーローのバトルシーン、スパイダーマンのスーツのテクノロジーのシーン、ストレンジの魔術、ソーの新たな武器作成。
最強ヴィランのサノスが戦う理由、生命が多くなりすぎると食糧問題で絶滅の危機に瀕するので半分殺して救済する?まあアメコミらしいというかなんだかなという理由。そこらへんは深くは考えずにとりあえず「最強のヴィラン」と考えて観ました。
多彩なキャラクターを捌ききった監督の手腕
映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』には数多くのヒーローたちが集結しています。しかし、ひとつの映画に多数のキャラクターが出演すれば、観客の混乱を招くこととなり、作品が破綻することもあり得ます。また、世界観が異なる作品をつなぎ合わせると不自然になることも多いですし、過去の作品を見ていない観客が置いてきぼりとなるリスクもあります。これらのマイナス点を見事に払しょくしたのが、本作で監督を務めたルッソ兄弟の手腕の高さといえるでしょう。
MCU作品を初めて見る人でも分かりやすいようにそれぞれのキャラクターを説明することはせず、冒頭で主要キャラクターが命を落とすという衝撃的な展開で一気に観客の注意を惹きつけ、瞬きを惜しみたくなるほどの目まぐるしい展開で、観客に考える隙を与えません。それでいて、合間にユーモラスな会話を挟み、決してシリアスな展開を引き延ばすことなく、適度な休息を観客に与えます。さらに、それぞれのキャラクターの良さを短時間で引き出す巧みな手腕で、それぞれのキャラクターを見事に観客に印象付け、数の多すぎるキャラクター問題を捌ききっていたように感じました。
また、それぞれの作品で象徴的な音楽を適切なタイミングでインサートしてから映像を切り替えることで、視覚よりも先に聴覚で場面展開を感じられるようになっていたのも、分かりやすかったです。何より、過去の作品を宿題として履修しなければならない課題のように感じさせるのではなく、「このキャラクターの物語をもっと深く知りたい」と思わせる演出が多かったように思えました。次作への展開を考えると、素晴らしい演出だと感じます。
息もつかせぬド迫力のアクション
もちろん本作はヒーローが活躍するアクション映画とて、最初から最後まで息もつかせぬアクションの連続です。特に印象的なのは、各ヒーローの能力が最大限に活かされたバトルシーンです。
- アイアンマンとガーディアンズ・オブ・ギャラクシーが繰り広げる、宇宙空間でのスリリングな戦い。
- ドクター・ストレンジの魔術とスパイダーマンのハイテク・スーツが融合した、予測不能で視覚的に美しい共闘。
- ソーが新たな武器を手に入れるまでの壮大な旅路と、覚醒した雷神としての圧倒的なパワー。
などとこれらのアクションは、単なる派手な映像に留まらず、それぞれのキャラクターの成長や葛藤を巧みに描き出し、キャラクターの魅力を再認識させてくれました。
また本作の核となるのは、最強のヴィラン、サノスの存在があります。「生命が多すぎるために資源が枯渇し、滅亡が避けられない。ゆえに、宇宙の生命を半分に減らすことで救済する」という彼の信念は、単なる悪の論理を超えた、ある種の彼の「正義」を感じました。
彼の行動は狂気に満ちていると思いますが、そこには彼なりの哲学と、幼少期の経験に根差した悲哀が感じられます。そして、本作の結末では指を弾き、宇宙の生命を半分にしたサノスが、最後に浮かべるのは満足げな表情。その表情は、彼が自身の使命を完遂し、真に世界を救ったと信じていることの表れであり、観ているものには深い絶望をあたえるのと同時に、不気味なほどのカタルシスがありました。
ハッピーエンドではないヒーロー映画
映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』がスーパーヒーロー映画として特異なのは、ヒーローたちが負けて幕を閉じた点ではないでしょうか。これほどまでに規模の大きい、王道のヒーロー映画においてヒーローが負けて終わる作品は珍しいことです。ただ単にヒーロー側が敗北し、ヒーロー側で犠牲者が出ただけではなく、守るべき一般市民たちにも多数の犠牲を出し、もともとのミッションをすべて失敗する。その上、集うはずだったヒーローたちが集いきらなかったために一丸となって戦えなかった。これは、この手のスーパーヒーロー映画のセオリーを破る物語といえるでしょう。勧善懲悪なヒーロー作品を楽しみにしていた人たちにとっては、まさに最悪の絶望的な結末です。人々が愛してきた多くの人気キャラクターが灰となり散っていく様は、トラウマものでした。
本作はもともと2部作の前編として構想されていたからこそできた英断でしょうが、独立した作品として公開されたからには、この結末はアメコミ映画の中でも大きな意味を持つものだったのではないか、と感じました。
まとめ:これまでのアメコミ映画とは一線を画すヒーロー映画
映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は、さまざまな面でそれまでのアメコミ映画とは一線を画す傑作です。最大規模のヒーローたちが集結したにもかかわらず、それぞれのヒーローが作品として破綻することなく、各キャラクターやそれぞれの単独作品の良さを引き出しています。また過去作の知識がなくとも楽しめる作りでありながら、能動的に過去作を見たくなるような巧みな構成も優れていました。そして、何よりもスーパーヒーロー映画としては異例のバッドエンドという結末は、強烈なインパクトを残します。
次作となる『アベンジャーズ/エンドゲーム』と併せて、本作は単なる映画という枠を超え、世界中で語り継がれる一大イベントや社会現象としても大きな意味を持つ一作と言える作品でした。