インド映画「ブラフマーストラ」は、アヤーン・ムカルジー監督が11年間温め続けた構想が遂に結実した映画です。それは単なるエンターテインメント作品を超えて、インド映画の新時代到来を告げる歴史的作品となりました。
本作最大の特徴は、古代インド神話「ブラフマーストラ(宇宙創造の最強武器)」を現代的なスーパーヒーロー映画として再構築した点にあります。しかし、単純にマーベル映画の模倣ではありません。「愛こそが最強の力」というインド哲学の根幹を現代に蘇らせ、独自のシネマティック・ユニバースの礎を築いた野心作なのです。
映像革命と文化的意義:インド映画界の歴史的転換点
インド映画「ブラフマーストラ」を語る上で最も重要なのは、『バーフバリ2』以来となる圧倒的な視覚的衝撃でしょう。それはエンドロールに1000人を超えるVFXスタッフの名前が流れることからも分かるように、制作陣が注ぎ込んだ技術的情熱は並大抵のものではありません。
特に印象的なのは、各キャラクターが持つ「アストラ(超能力)」の視覚表現です。炎、水、光といった自然エネルギーがそれぞれ独特の色彩と動きで描かれ、まるで『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドバトルのような独創性を持っています。これまでのインド映画にありがちな「ケレン味で押し切る」表現から完全に脱却し、ハリウッドと遜色ない自然さを獲得している点は革命的といえるでしょう。
しかし、本作の真の価値は単なる技術的進歩にとどまりません。『RRR』がテルグ映画(南インド)の力を世界に示したのに対し、『ブラフマーストラ』はボリウッド(北インド)の底力と創造的可能性を国際舞台で証明したのです。アヤーン・ムカルジー監督が11年間かけて構築したビジョンは、完全にインド的でありながら国際的な訴求力を持つ作品創りを実現しています。
新時代のインド映画の誕生
ロケーション、色彩、キャラクター設定、すべてが「真のインドらしさ」に根ざしながら、同時にグローバルな観客にも響く普遍性を獲得している本作は、インド映画が技術的にも創造的にもハリウッドと肩を並べるレベルに到達したことを雄弁に物語っています。これは単なる映像技術の進歩を超えて、インド映画界全体の新時代到来を告げる文化的事件なのです。
実生活でも夫婦の主演コンビと豪華脇役陣
本作最大の話題は、主演のランビール・カプールとアーリア・バットが撮影中に実際に結婚したことです。『RRR』でも印象的だったアーリア・バットは、今やインド映画界のナンバーワン女優として君臨し、本作でも「CGみたいに美人」と評される圧倒的な美貌を披露しています。

ストーリー:愛の哲学を現代に蘇らせた三部作序章
映画「ブラフマーストラ」は167分という上映時間の相当部分がシヴァとアイーシャの恋愛描写に割かれており、「30分は二人の思いを語り合っているだけ」というレビューが多々あります。しかし、これは本作のテーマである「愛こそが最強の力」を観客に浸透させるための意図的な構成なのかもしれません。
インド映画伝統への回帰と現代的解釈
この長大な恋愛描写は、実はインド映画の古典的伝統への意図的な回帰でもあります。昔のディズニー映画のようなコテコテのミュージカル調で展開される恋愛シーンは、現代的な感覚では「やや冗長」と感じる観客もいるでしょう。特にシヴァとアイーシャの出会いから惹かれ合うまでの過程は、日本人観客からすると「キャッチボールになっていない、ちょっとやばい2人」に見えるかもしれません。
しかし、これこそがインド的な愛の表現方法なのかもしれませんね。一目惚れから始まる古典的なロマンスは、古臭く感じるかもしれませんが、「愛は理屈ではない、運命的な力である」という核心部分を体現しています。

インド版シネマティック・ユニバースの誕生
本作の真の価値は、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のような壮大な世界観構築への第一歩を踏み出したことにあります。MCUが『アイアンマン』という不完全ながらも革新的な作品から始まったように、『ブラフマーストラ』もインド神話ユニバース「アストラバース」の土台となる記念すべき出発点なのです。
三部作への明確なロードマップ
MCUとの最大の違いは、『ブラフマーストラ』が最初から明確な完結計画を持っていることです。既に具体的なスケジュールが発表されており、第二作『Brahmāstra: Part Two – Dev』が2026年12月、第三作が2027年12月の公開が予定されています。
特に注目すべきは、第二作で劇中の最大の謎であったデーヴ(シヴァの父親)が主人公となることです。ブラフマーストラを解放し、妻アムリタとの壮絶な戦いを繰り広げた彼の過去と真実が明かされることで、三部作全体の物語に深い奥行きが生まれることは確実でしょう。
まとめ:不完全ながらも歴史を刻んだ映画
映画『ブラフマーストラ』は制作費と11年の構想期間をかけた大作映画として、正直セリフが最大の弱点だと思います。それは壮大なVFXと神話的世界観に見合わない陳腐で説明的なセリフの数々は、作品全体の品格を著しく損なっています。
しかし、これらの欠点を補って余りある歴史的意義と「新しい映画体験」がここには確実に存在しています。インド映画が新たな黄金時代に突入したことは疑いようがなく、『ブラフマーストラ』は技術的・創造的にハリウッドと肩を並べるレベルに到達したインド映画界の力を世界に示した文化的遺産として、映画史にその名を刻みました。
「これは一生に一度の映画体験であり、インド映画の新時代の始まりです」 ──不完全さも含めて愛と神話の力が織りなす壮大な叙事詩の幕開けに、あなたも立ち会ってみませんか。