2012年に映画『アベンジャーズ』が公開されて、そのあとのスーパーヒーロー映画ブームが始まったのを起点として考えると、本作『クロニクル』は非常に興味深い立ち位置にある作品だと思えます。このスーパーヒーロー映画ブームでは、多額の製作費をかけたポップコーンムービーである点が大きく注目され、それを果たして映画と呼べるのかなどとさまざまな議論を呼びました。そのような、いわゆる「アメコミ」を原作としたスーパーヒーロー映画とは一線を画した、オリジナリティにあふれる作品が2012年に公開していたのはとても面白く感じました。
モキュメンタリーで語るスーパーヒーロー映画
映画『クロニクル』の最大の特徴は、ファウンド・フッテージ形式で描かれたモキュメンタリーであるという点です。この手法はホラー映画でよく使用される手法で、低予算での撮影が可能なことが特徴とされています。有名なところではいえば、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」でしょうか。そして本作と同じく青春スーパーヒーロー作品である映画『スパイダーマン:ホームカミング』にも、一部ファウンド・フッテージ形式を意識した場面がありますが、これはあくまでも演出の一部として利用されているだけです。それに対して、『クロニクル』は全編がファウンド・フッテージ形式で製作されており、スーパーヒーロー映画としては極めて斬新なやり方だと感じました。

ホラーとの相性が高いこの形式ですが、作品の全体的なダークな空気とも非常にマッチしています。スーパーヒーロー映画と言えば明るい雰囲気のハッピーエンドが定番とされている中で、この作品は開始数分でそうはならないことを視聴者に悟らせます。非常に効果的な演出だといえるでしょう。低予算なだけあり、CGや技術的な面ではチープさが目に付く部分もありますが、この形式だからこそそれが許される空気感もあります。何より、莫大な予算が必要と考えられがちなスーパーヒーロー映画を、このような形で成立させたアイデアの勝利だといえるでしょう。
ティーンエイジャーのスーパーヒーローもの
本作はストーリーとして高校生男子3人を描いた青春ものとしての側面も持ち合わせています。ティーンエイジャーのスーパーヒーローものは、人気が高く少なくない作品がありますが、展開させるのは容易ではありません。
アメコミに代表されるスーパーヒーローは、必ずスーパーパワーを持っています。普通の人間がスーパーパワーを持つことは大ごとと思います。アベンジャーズに代表される大人のスーパーヒーローですら、これを受け入れることは容易ではありません。ましてまだまだ成長途中のティーンならなおのことだと思います。それゆえに悲劇的な展開になることも容易にあり得ます。このバランスを保つことは非常に大変です。更に、スーパーヒーローには大きな責任が伴います。その責任を、まだ成人していないティーンに負わせるべきなのかという点についても考えなければなりません。

ティーンを主人公としたスーパーヒーロー映画といえば、一番の成功例は「スパイダーマン」シリーズといえるでしょう。実写映画としては3シリーズが成功作として展開されているスパイダーマンは、マーク・ウェブ版とMCU版では高校を舞台とした青春映画として機能しています。明るいイメージもあるキャラクターですが、ティーンが背負いきれるとは思えない重圧とダークなストーリーラインも盛り込まれていて、難しいティーンのスーパーヒーローものの大成功作と言えるでしょう。映画『クロニクル』の主人公アンドリューを演じたでイン・デハーンはこの後、『アメイジング・スパイダーマン2』にも出演しており、全く異なる境遇のキャラクターであるにもかかわらず、どことなく像が重なる気がしました。
ヒーローは常にヒーローなわけではない
映画『クロニクル』は、アメリカにおけるヒーローの象徴をヒーローではない姿で描いていたのも印象的でした。スーパーパワーを得た主人公は、必ずしもスーパーヒーローになれるわけではないというのがまずは大きかったと思います。これはDCコミック原作で『ザ・ボーイズ』(The Boys)に近いものがありました。
また消防士だったアンドリューの父親がヴィラン的に描かれていたり、命を救うはずの医師や薬剤師が、瀕死のアンドリューの母親を救えなかったりと、現実世界において英雄的な存在の人々が決して英雄的なキャラクターとして登場していないのもまた興味深いなと思いました。
本作に影響を与えている作品の一つが、『キャリー』だというのはまさに納得でした。主人公の力の暴走や結末などといった展開だけでなく、良いはずの人が良かれと思ってしたことが決して良い展開を迎えるわけではない、というプロットもまさに、『キャリー』だなと感じたからです。
これらの要素をすべて組み合わせ、スーパーヒーローものとしても青春ものとしても、ホラーやスリラーものとしても成立させるモキュメンタリー、というのは発想も作りも本当に斬新だなと感じました。従来のお決まりな映画からひねりのある演出や語り口に興味のある方には、是非お勧めしたい一作です。
特に作品のほとんどがホームビデオの映像風になっているため、そして超能力によりこのホームビデオを自由に操れるという設定により単調な固定ビデオカメラ視点ではなく自由自在な視点で映像が変わり面白いです。
そんな撮影方法なので劇場の大スクリーンで見るよりもストリーミングで観る方が合っている作品のようにも感じたので、ストリーミング形式に合った映画を見たいという方にもおすすめだと思います。