「デビル」は、エレベーター内で男女五人が閉じ込められ、次々と襲い来る不気味な事件というミステリーとホラーが融合した独特の作品でした。本作「デビル」は「The Night Chronicles」というプロジェクトを通して、シャマラン監督のアイデアを基に、彼自身はメガホンを取らず、若手監督たちに託して作られるという斬新なプロジェクトだったんです。それはシャマラン監督がプロデュースする「新世代ホラー映画塾」みたいな感じです。
シャマラン監督といえば、「シックス・センス」や「アンブレイカブル」のような、驚きのどんでん返しや、静かで不気味な雰囲気が魅力な監督ですよね。そんなシャマランが制作に関わる第1作の「デビル」は、エレベーターに閉じ込められた5人の男女が、悪魔の仕業によって次々と命を落としていくという、クローズドサークル系のスリラーとなっていました。
ただ残念ながら「The Night Chronicles」は本作デビルのみとなってしまいました。
エレベーターに閉じ込められた男女の物語のあらすじ
エレベーターに閉じ込められた男女の物語は、予期せぬ停電により始まります。この映画は、狭い空間の中で彼らが直面する心理的なプレッシャーと、互いに抱える過去の重荷を浮き彫りにしています。

彼らは時間が経つにつれて、外部との連絡が絶たれ、孤独感や不安を抱えながら、現状を打破するための方策を模索します。また物語は、男女一人一人の性格やバックグラウンドに焦点を当て、観客に緊張感を持たせます。彼らの対話や行動が、物語の展開に大きな影響を与え、最終的には衝撃的な結末へと導きます。
このエレベーター内での偶然の出来事が、実は彼らの運命を左右する重要な瞬間であることに気づくのです。
デビル (2010年の映画) の重要なキャスト紹介
物語の中心となるのは、高層ビルのエレベーターに閉じ込められた5人の男女。彼らは互いに見知らぬ存在でありながら、次第に疑念と恐怖に飲み込まれていきます。
- トニー(ローガン・マーシャル=グリーン)
整備士で元海兵隊員。冷静さを保とうとするが、過去に大きな秘密を抱えており、やがて物語の核心へと直結していく。 - サラ(ボヤナ・ノヴァコヴィッチ)
野心的な若い女性。自信に満ちた態度で周囲を挑発し、閉所の緊張感をさらに高める存在となる。 - ビンス(ジェフリー・エアンド)
詐欺まがいのセールスマン。軽薄な言動で他の乗客を苛立たせ、真っ先に疑いの目を向けられてしまう。 - ジェーン・コウスキー(ジェニー・オハラ)
老婦人。弱者に見えるが、不気味さを漂わせる言動を見せ、次第に疑惑の中心人物となっていく。 - ベン(ボキーム・ウッドバイン)
ビルの警備員。乗客の一人として閉じ込められ、状況を制御しようとするが、やがて疑心の渦に巻き込まれていく。
この5人の間で繰り広げられる疑心暗鬼と緊張感こそが本作最大の魅力であり、限られた空間での心理戦は観客に強烈な圧迫感がありました。
エレベーターが作り出す極限のサスペンス
『デビル』は、エレベーターという舞台設定の妙です。エレベーターという密室が、単なる背景ではなく、登場人物の精神状態を深く掘り下げるための重要な装置として機能している点が常に緊張感をもったシチュエーションを作り上げています。
狭い空間でありながら、エレベーターの照明が不気味に明滅したり、外部との連絡が途絶えたりといった演出が、視聴者に「窒息しそうなほどの緊迫感」を味わわせてくれました。筆者もまた、この閉鎖空間で起こる不可解な出来事と、少しずつ明らかになる登場人物たちの背景に、強く引き込まれました。この映画のサスペンスは、派手なアクションではなく、この密室がもたらす心理的な圧迫感から生まれていると、私も確信しています。
エレベーターの設定がもたらす心理的影響
この映画のもう一つの魅力は、エレベーターに乗り合わせた5人の男女が織りなす人間模様です。一見無関係に見える彼らが、悪魔の存在を確信した途端、お互いを疑い始める様は、人間の本質を鋭く描いていると感じました。
「隣にいる人間が悪魔かもしれない」という恐怖は、単なるホラーの要素を超えて、人間が持つ根本的な猜疑心(さいぎしん)や罪の意識を浮き彫りにしています。この点は、多くのレビュアーが「単なるホラーではなく、深い人間ドラマ」と評している点に私も同意します。極限状況下で露わになる人間の醜さや弱さ、そしてごく稀に見せる善意こそが、この作品の核心ではないでしょうか。

終盤の展開と考察
映画『デビル』を観終えた後、様々な考察をせずにはいられません。私もまた、映画のテーマや結末について、何度も考えを巡らせました。
「悪魔の目的は何だったのか?」という問いに対して、他のレビューサイトを参照すると「罪を犯した者への贖罪(しょくざい)を促すため」という意見が見受けられました。
筆者もこの解釈に説得力を感じてしまいます。エレベーターという閉鎖空間は、彼らが過去の罪と向き合うための「裁きの場」であり、悪魔は単に罰を与えるだけでなく、人間が自ら罪を告白し、魂を救う機会を与えているように感じられました。
ラストシーンの意外な結末も、この映画のテーマをより深く印象づけています。派手な超常現象の裏に隠された、人間と信仰、そして許しという普遍的なテーマが、『デビル』をただのホラー映画で終わらせていないと筆者は考えてしまいました。
「The Night Chronicles」プロジェクト
このプロジェクトは、シャマラン監督が自身のアイデアを基に、他の若手監督にメガホンを任せる低予算の都市型ホラー映画3部作として計画されていました。
- 第1作: 『デビル』(2010年)が唯一完成した作品です。エレベーターを舞台にした超自然スリラーで、興行収入は好調だったものの、シャマラン監督のプロデューサーとしてのクレジットに批判的な意見も出て、新たなシリーズとして定着することはありませんでした。
- 幻の第2作: 当初『12 Strangers』、後に『Reincarnate』と改名された作品で、幽霊に取り憑かれた陪審員たちを描く超自然的な法廷スリラーとして構想されていました。しかし、シャマラン監督が『エアベンダー』や『アフター・アース』といった大作の監督に注力したため、この企画は立ち消えとなりました。
- 幻の第3作: もともと『アンブレイカブル』の続編として温めていたアイデアでしたが、最終的にシャマラン監督自身がメガホンを取り、『スプリット』(2017年)として完成させました。『スプリット』は大成功を収め、シャマラン監督は『アンブレイカブル』『スプリット』『ミスター・ガラス』という全く別の三部作を完成させることになりました。

まとめ:罪を暴く極限の心理戦
映画『デビル』は、M・ナイト・シャマラン製作の「The Night Chronicles」プロジェクト第1弾として、エレベーターという密室を舞台に繰り広げられるミステリーホラーです。
予期せぬ停電で閉じ込められた5人の男女が、次々と起こる不気味な事件に巻き込まれていきます。この物語は、過去に罪を抱える彼らの心理的な葛藤や疑心暗鬼を鋭く描き出しています。
特に秀逸なのは、やはりエレベーターという限られた空間がもたらす緊迫感です。照明のちらつきや外部との連絡が途絶える演出は、観客をまるで自分がその場にいるかのような心理的プレッシャーに引き込みます。
残念ながら、「The Night Chronicles」は本作のみでプロジェクトは途絶えてしまいましたが、その革新的なコンセプトは、のちのシャマラン監督の作品にも大きな影響を与えたと言える作品ではなかったでしょうか。