ディズニーの柱の一つである「ピクサー・アニメーション・スタジオ」は、非常に多くの傑作を生みだすことで世界的に定評のある映画制作スタジオの一つです。日本でも多くの人々から熱い支持を受けています。そんなピクサーが2015年に送り出した傑作が、映画『インサイド・ヘッド』です。多くの人々に感動を与え、ピクサーアニメーションにしては珍しく続編が作られるほどの高評価だった本作は、一体どのような作品だったのかを執筆しました。
新たなピクサーの傑作
映画『インサイド・ヘッド』の製作会社であるピクサー・アニメーション・スタジオは、1995年に初の長編アニメ映画『トイ・ストーリー』を世に送り出していこう、数々の傑作を生みだし続けてきました。2001年に設立されたアカデミー賞の長編アニメ映画部門では、これまでに11作品が最優秀賞を受賞するなど、その作品の質の高さは折り紙付きです。
そんな傑作を複数抱えるピクサーが2015年に発表したのが、映画『インサイド・ヘッド』です。本作ももれなく、アカデミー長編アニメ映画賞で最優秀賞を受賞しています。ピクサー作品は、質の高いCGアニメーション技術と良質な物語で多くの人々の心をつかみ続けています。その視点は非常にユニークなものが多く、本作では人間の感情を擬人化させて、感情の持ち主をコントロールするという興味深い設定が用いられています。
本作では感情を擬人化させ、その擬人化された感情が会議を行ったりするというコンセプト自体は他の作品でも用いられていますが、ピクサーが持つ独特のアニメーション技術やキャラクターを生み出す力、そしてなにより脚本力が光り、より奥が深く誰もが共感できる傑作へと昇華させていると感じました。
子供だけではなく、大人も感動できる一作
映画『インサイド・ヘッド』は、子供よりもむしろ大人の方がより感情を揺さぶられる映画なのではないでしょうか。ピクサーが作り出す作品の魅力は、子供がのぞいてみたくなる世界と、大人ならではの視点を巧みに融合させることです。アニメ映画というと世界的には「子供向け」という感覚が非常に強いのですが、ピクサーの作品についてはその域には収まりきることがないと考えられています。
その魅力の原動力の一つは、子供を大切に思う親の気持ちではないでしょう。子供向けの名作と呼ばれるものは、その多くは親が子供に伝えたい物語であったり、子供のために書いた物語であったりすることが多いです。ヨロコビたちがライリーの感情を理解しようとするプロセスは、どこか大人が子供の感情を理解しようとする時のそれを彷彿とさせるように思いました。人や物事を理解しようとするときには、はからずも自分を理解することにつながることも多いです。この「大人の目線で子供の感情を理解しようとする」という視線が、ひいては大人の自己理解を促すこととなり、結果的に多くの大人たちの心を揺さぶる物語につながるのではと感じてしまいました。
感情に「生命」を吹き込むストーリー
ピクサーアニメーションはさまざまなアニメーションを制作していますが、本作はやはり「感情」という生命のないものにキャラクターの命を吹き込んだ点があらためてピクサー・アニメーションのすばらしさを改めて感じました。人の感情を擬人化し、ヨココビ、カナシミ、イカリ、ムカムカ、そしてビビリが、まるで生きているかのように動き回ります。
中でも特に秀逸なのは、感情のシステムを驚くほど分かりやすく描いているところです。思い出が詰まった「思い出ボール」や、人格を形成する「性格の島」、思考が走り抜ける「考えの列車」など、一見複雑な心の動きを誰もが直感的に理解できる形で表現しています。
悲しみの役割を再認識する
筆者はこの作品の最大のテーマを、「悲しみという感情の必要性」ではないかと考えました。「悲しい時は悲しんでいい。それは決して間違っていない」というメッセージが、とても優しく心に響きます。
私たちは、悲しみをネガティブなものとして避けがちですが、この映画は、悲しみが持つ役割、そして他者との絆を深める上でどれほど大切かを描いています。感情のどれか一つが欠けても、私たちは豊かな人生を送ることはできない。どんな感情も、大切な思い出になりうるのだと教えてくれました。
自分のこととして感じられる作品
映画『インサイド・ヘッド』は、子どもや親のみならず多くの人が「自分のこと」として感じられる物語だと思います。それは誰もが経験する「思春期」のライリーを通じて、自分の過去や現在、未来について考えられる作りになっています。
また感情自体を擬人化することで、実際の自分の物語に当てはめて考えやすくなっているという点も、本作の特筆すべきポイントのひとつでしょう。楽しく幸せだったはずの思い出が、何かのきっかけで悲しみに変わってしまう。小さなきっかけで、自分の個性や特性が失われてしまう。どうしても感情をコントロールできなくなってしまう。それが負の連鎖となり、どんどんと悪いことが起きてしまう。こういったことは、人間の感情の起伏としてこれらは誰しもに起こりうることでしょう。感情を擬人化し、思い出や個性を島で表現することで、それを非常に分かりやすく表現していると感じました。

そしてSNS時代だからこそより強く伝わるメッセージもあったと思います。常に幸せであることに固執するヨロコビの姿勢は、どことなく常に「キラキラした幸せな毎日」を発信し続けないといけない、という強迫観念に追われる現代人を連想させました。「常に幸せではなくてもよい。悲しみや負の感情を隠して自分が崩壊してしまう前に、それらの感情と向き合い、周囲に正直に吐露することも大切だ」というメッセージは、SNSが普及した現代だからこそ、より人々の心に刺さる物語なのではないかと感じます。まさに、「自分の物語」として観客が感じることのできる、素晴らしい一作だと感じました!
まとめ:心の声に耳を澄ます旅
映画『インサイド・ヘッド』は、ピクサーが世に送り出した傑作の一つです。キャラクターから子供向けと思われがちですが、この作品は大人にこそ深く響く物語だと言えるでしょう。
またSNS社会を生きる現代人にとって、感情の複雑さや、見過ごされがちな心の声に改めて気づかせてくれます。観る人すべてが、まるで自分の物語のように感じられる普遍的なテーマが描かれていることでしょう。
自分自身と向き合いたいとき、心のバランスを崩しそうになったとき、この映画はきっとあなたの支えになってくれるはずです。ぜひ家族と一緒に、心の旅に出かけてみてください。