前作である『MEG ザ・モンスター』は200万年前に実在した全長23メートル・体重20トンの超巨大ザメであるメガロドンと人類の死闘を描き、世界75の国と地域での公開初週末で1.4億ドルを突破するという驚異的なスタートを切りました。
そんなMEGシリーズの続編である映画「MEG ザ・モンスターズ2」はテーマパークに匹敵する、映画館そのものがアトラクションと化す体験を感じる映画のようでした。
太古の地球から現代リゾートまでの圧倒的スケール
冒頭から度肝を抜かれる演出の連続です。 白亜紀の太古の地球を舞台に始まる本作は、小さな虫からトカゲ、そしてティラノサウルスへと続く食物連鎖を流れるように描写し、最後にその頂点としてメガロドンが登場するという、まさに怪獣映画の王道を行く導入となっています。クイーンの「アンダー・プレッシャー」が流れる中でタイトルが現れるシーンは、観る者の心を一瞬で掴んで離しません。
人類未踏の深海世界の映像美も特筆すべき点です。光るイソギンチャクや小さなタコたちが織りなす幻想的な光景は、美しい映像美となっていました。一方で、ファン・アイランドというモルディブ風リゾート地での後半戦は、青い海と白い砂浜という開放的な舞台で、深海の暗闇とは対照的な明るいパニックシーンを展開させています。
物語構造:深海・海上・陸上で3度おいしいアクション体験
本作の構成は実に巧妙です。 物語は大きく3つのパートに分かれ、それぞれが異なるスリルとテンションを提供してくれます。
まず序盤の深海探索パート では、マリアナ海溝の人類未踏の地で繰り広げられるサバイバルが描かれます。新開発のパワードスーツを着用しての海底歩行シーンは、SF映画の醍醐味を存分に味わわせてくれますし、謎の海底基地での犯罪組織との攻防戦は、ミッション:インポッシブル的なスパイアクションの要素も加えています。
そして中盤の脱出劇 では、水深7500メートルからの決死の脱出が描かれ、ここでステイサムの元飛び込み競技選手としての経験が活かされた美しい水中アクションを堪能できます。
後半のリゾート地パニック は完全に「USJのウォーターワールド状態」(レビュアー談)となり、3匹のメガロドン、巨大タコ、古代爬虫類”スナッパーズ”が入り乱れる怪獣プロレス映画の様相を呈します。

ジェイソン・ステイサムの超人的魅力
主演のジェイソン・ステイサムは、もはや人間の域を超えています!「水深7500メートルでフリーダイブを始める時点で、彼は人間ではない」という評価があるほど、本作での彼の超人ぶりには拍車がかかっています。元イギリス代表の飛び込み競技選手という経歴を持つ彼だからこそ説得力を持つ水中アクションは、「海のステイサムこそ圧倒的に強い」ことを証明しています。
前作のスーインの弟という設定で登場する新キャラクター、ジウミン・ジャン(ウー・ジン)は、中国のスター俳優らしい存在感で物語を支えます。メガロドン”ハイチ”との絆を信じる科学者として、自然への畏怖を忘れないジョナスとは対照的なスタンスを見せ、続編への布石も感じさせる重要な役どころを担っています。
前作から続投のメイイン(ソフィア・ツァイ)は、14歳に成長した少女として新たな魅力を発揮。当初は足手まといかと思われた彼女が、終盤で重要な活躍を見せる展開は、成長物語としても楽しめます。
演出・テンポ:5分に1度の密度濃いイベント展開
本作の演出で最も印象的なのは、そのテンポの良さです。「5分に1度は何かが起こる」と評されるほど、イベントの密度が高く、観客を飽きさせることがありません。前作と比較して「サメ映画特有のパニックホラー感」は薄れていますが、その分アクション映画として純化されており、「ほとんどがアクションシーンと言ってもいい」ほどの密度を実現しています。
「アスレチック・サメ映画」というジャンル
本作を語る上で避けて通れないのが、『ジュラシック・ワールド』シリーズとの比較です。恐竜が登場する冒頭シーンや、飼いならした古代生物との絆を描く要素など、意識した作りが見受けられました。しかし、本作は「人間と古代生物の絆」を安易に描くことを避け、ラストシーンでジョナスが「イルカを追っただけかもしれない」と現実的な解釈を示すなど、より慎重なアプローチを取っています。
また、ステイサムの元飛び込み競技選手という経歴を最大限活用した残虐表現に頼らず、スポーティで爽快なアクションシーンによって刺激と興奮を提供する手法は、全年齢対応のモンスター映画として画期的な試みです。
B級路線への振り切りと薄っぺらさの功罪
MEG2は明らかに前作よりも「B級」寄りに振り切った作品です。 人間ドラマやキャラクターの背景描写は大幅に簡略化され、その分をアクションとスペクタクルに振り分けています。
正直これは諸刃の剣だった印象です。それは「グダグダした会話シーンを省いて派手な面白いところをバンバン見せてくれている」という肯定的な見方もできる一方で「ストーリーの洗練性を軽視している」という考えもあります。
特に犯罪組織の動機や背景については、前作と比較してかなり雑な処理がなされており、「頭空っぽにしてバカでかいサメや爆発が観たいだけでしょ?」と観客を軽く見ているような印象を与える部分もあります。
この欠点ともいうべきネガティブさを本作は徹底的に娯楽映画として振り切っており、その潔さこそが魅力とも言えるでしょう。
時代考証と生物学的リアリティの問題
古生物学的な観点から見ると、本作にはいくつかの問題があります。冒頭でティラノサウルスを捕食するメガロドンが登場しますが、ティラノサウルスが絶滅したのは約6600万年前、メガロドンが登場したのは約2000万年前と、実際には共存していません。これは日本映画で戦国自衛隊のように「戦国時代を描いた時代劇に自衛隊が登場するくらい奇妙」ですね。

また、深海に生息していたはずのスナッパーズ(古代爬虫類)が、なぜ地上でも活動できるのかという生物学的な説明も不十分です。エラ呼吸を獲得したという設定も、現実の進化論的には非常に考えにくいものです。
まとめ:エンターテインメントに振り切った作品として受け入れられるか
『MEG ザ・モンスターズ2』の評価を決定する最大のポイントは、この作品を「純粋なエンターテインメント」として受け入れられるかどうかにかかっているでしょう。
本作は明確に、ストーリーの深みや人間ドラマよりも、視覚的スペクタクルとアクションの連続に振り切った作品です。「バカでかいサメと超人的ステイサムの戦い」「深海・海上・陸上で展開される怪獣プロレス」「5分に1度起こるイベントの嵐」を優先しています。
この作品アプローチを「人間ドラマを含めた映画」と見るか、「娯楽映画としての潔い割り切り」と捉えるかで、評価は180度変わるでしょう。前者の視点では物足りなく感じられるかもしれませんが、後者の立場に立てば、これほど徹底してエンターテインメントに特化した作品も珍しく、その潔さこそが魅力となります。
この観る側の「頭を空っぽにして、ただただ楽しい映像を味わいたい」という気持ちで臨めば、間違いなく期待を上回る満足感を得られるでしょう。一方で、前作のような物語の奥行きや、現実的なサバイバル要素を求める向きには、やや物足りない仕上がりかもしれません。筆者は残念ながら後者でしたね。