夢枕獏による小説の「陰陽師」は、現在2024年10月時点でシリーズ累計発行部数は680万部が刊行され、平安時代のコンテンツのブーム作り出した人気シリーズです。安倍晴明(あべのせいめい)と源博雅(みなもとのひろまさ)がタッグを組み、死霊、生霊、鬼などが生み出した事件を解明していきます。

夢枕獏原作の「陰陽師」は過去にも本作と同じく原作を踏襲しつつオリジナルストーリーとして映像化されいます。この「陰陽師」には「SHOGUN」で一躍有名になった真田広之氏が道尊 役として出演しています。
そして本作はこの「陰陽師」とはうって変わって爽やかなストーリーであり、安倍晴明はどこか怪しさを秘めたものかと思っていましたが以外に爽やかであり、世の中に対して冷めた青年という感じです。
平安時代の陰陽師という役職を丁寧に説明
小説の「陰陽師」は安倍晴明がすでに陰陽師となって活躍しています。そんな中で本作「陰陽師0」は安倍晴明がまだ正式な陰陽師となるまでの物語であり、本作では陰陽寮の学生にすぎません。そして現代では馴染がない、陰陽寮と官位について序盤からナレーションでわかりやすく説明をしてくれています。それはまるで平安時代はどんなものかを講義を聞いている感じでした。この序盤のナレーションとこの天文博士から学生への講義シーンは講師の授業を受けている様子がだけでも歴史を学ぶときに映像を見るだけでも学ぶことが多かったです。
このことにより陰陽師はどんな役割がしており役職と階級があるのでどんな権力とその権力に対しての闘争があるのかをわかりやすくしていると思いました。
ただ残念だったのは陰陽師が使用する呪文などの説明は足りないように感じました。陰陽師の役職である「陰陽部門」「天文部門」「暦部門」「漏剋部門」はナレーションや映像を使い観ている側でもつかめましたが、安倍晴明が呪文をしようして生霊を鎮めたり、敵方が舞を踊り火の龍を呼び出したりしますが、この呪文や舞がどんなものなのかは分かりづらかったです。オフィシャルサイトでそれぞれの用語の解説がしっかりと記載があるので残念に感じてしまいました。
美しい舞台と美麗な衣装
本作でなくてはならないのは、平安京の都や各宮殿、陰陽寮をそれぞれセットやVFXを駆使してとても美麗に映し出していることだと思います。本作はゴジラ-1.0も制作に携わった白組を中心に制作しているようです。このゴジラ-1.0の監督である山崎貴監督は、本作の監督である佐藤監督の夫になります。
この美麗な映像は源博雅と徽子女王がお互いに秘めていた感情をぶつけ合うシーンで映し出された花々が咲き乱れる美しいシーンや安倍晴明と源博雅が荒々しい火龍に襲われるシーンであり、そんな火龍を荘厳さをもった水龍をもって打ち据えるシーンはまさに圧巻の一言でした。

この映像表現により呪いや呪術、あやかしと呼ばれるものを操り、それが密接に結びついているというファンタジーな世界をより、ファンタジーな世界観に入り込むことができたと感じました。
また衣装に関しても美麗の一言につきます。これまで安倍晴明が着る陰陽師の衣装は、白が特徴の狩衣(かりぎぬ)というイメージがありました。しかしながら本作で山崎賢人演じる安倍晴明は「青」であり染谷将太演じる博雅は「緑」、そして奈緒演じる徽子女王は鮮やか「赤」でした。これは今までのイメージに囚われない、本作がもつそれぞれの登場人物の持ち味を活かしていく色を醸し出していました。このような鮮やかな色使いはシーンが移り変わるたびに目を奪われてしまいました。
すべてはまやかしだったのか
陰陽師をテーマにした作品は本作の原作である夢枕獏による小説以外にさまざまなメディアミックス展開されています。近いところだと2023年にネットフリックスからオリジナルアニメ「陰陽師」が配信されました。ゲームとしては「陰陽師本格幻想RPG」や遙かなる時空の中でなどがあります。これらの作品は主に怪異を式神などファンタジーな設定が多々登場します。
そんな中で本作「陰陽師0」では、不気味な死霊や鬼といった怪異は登場しません。これは陰陽師がいう怪異とはすべて「まやかし」であるといことが示唆されています。これは序盤に安倍晴明がカエルを弾き飛ばした下りで、「観客」に対して、カエルがハッキリと弾け飛ぶ有様を映して見せて、このトリックを解説しています。故に本作のテーマは世の不可解な事象を解き明かすことがメインの話になってきます。これは名探偵ポアロでみせた悪霊の正体が実はという題材に似た印象を受けました。

本作のブラナー版ポアロシリーズは、第1弾と第2弾ともに舞台が大変優雅でした、そんなシリーズの今作は20世紀中盤のベネチアを通して全体の舞台でありながら、事件と舞台となる建物が古びた洋館でありホラー要素が追加された作品となっています。
ですが、すべてをまやかしと表現するには無理があるシーンもある印象です。源博雅と徽子女王が感情をぶつけ合い抱き合い花々が咲き乱れる場面や炎の龍と水龍がぶつかり合う壮絶バトルをすべて「まやかし」という一言で片付けるには難しいでしょう。ラストも安倍晴明の正体はという展開も少々肩透かしをしてしまいました。
平安時代の貴族の覇権争いやそれにまつわる呪いとか穢れとか、けっこうおどろおどろしい展開てんこ盛りを期待していたので、ちょっと残念でした。