ジョージ・クルーニー渾身の一作

本作で監督、製作、主演の3つをつとめたのが『オーシャンズシリーズ』でよく知られるジョージ・クルーニーです。俳優としてもその地位を確立し、監督や脚本家、製作に加わった作品を合わせても多くの受賞歴があります。
そんなジョージ・クルーニーが、「数年の時を捧げて臨みたいと思った」と語る作品こそが『ミッドナイト・スカイ』です。本作はリリー・ブルックス=ダルトン手掛けるディストピア小説『世界の終わりの天文台』をもとにつくられています。
ジョージ・クルーニーは宇宙を舞台にしたSF作品の中で『ゼロ・グラビティ』にも出演しており、その作品ではベテランの宇宙飛行士役でした。しかし今回は地球に残る側。宇宙にいるクルーたちと交信を図る役どころをつとめています。
今回物語の設定が2049年ということもあり、宇宙船や宇宙服は少し未来的な新しいデザインで登場します。デザイナーやNASAのエンジニアとともに未来の姿を構想していったのだといいます。
そして、美しく繊細な映像と音楽にも注目です。音楽を担当するアレクサンドル・デスプラは、『シェイプ・オブ・ウォーター』『グランド・ブダペスト・ホテル』『フレンチ・ディスパッチ ザ リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』の楽曲を手掛けた音楽家だということで納得です。
ジョージ・クルーニー含め、『博士と彼女のセオリー』『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』に出演するフェリシティ・ジョーンズなど俳優陣演じるキャラクターの設定がしっかりしていて、1人1人に共感できるようになっていました。
本作は決して派手なSFアクション的要素はなく、大きなメッセージ性を持ちながら静かに私たちに”生きること”の意味を訴えかけてくるような作品となっています。
壮大なスケールで描かれる世界の終焉

本作は”人類の終わりが確定した地球”で、ある目的のために北極圏の天文台に1人残る科学者オーガスティンと、その事実を知らぬまま”人類の次の住処探し”から帰還する宇宙船クルーたちの2つの視点で描かれています。
大気汚染が進み、人や生き物が生きることのできない環境へと化した地球。主人公オーガスティンは輸血なしでは1週間も持たないほどの大病に侵されながらも、交信が途絶え情報が枯渇している宇宙船クルーたちに地球への帰還はできないことを伝えようとします。
大気汚染が広がり、大雪荒れる北極圏。地球への侵入を目前に、静まり返る相手との交信を急ぐ宇宙船クルー。人類の次の住処になるであろう惑星K-23。宇宙の壮大さ、人類のちっぽけさ、美しい未知を目の当たりにする感覚がありました。
隕石のかけらにより破壊された交信システムを修理するため、メインキャストのフェリシティ・ジョーンズ演じるサリーを含むクルー3人が、宇宙空間に飛び出すシーンがあります。修理が終わり船内に戻ろうとした瞬間、新たな隕石が3人を襲います。
これらのシーンはBGMが多用されておらず、静寂のシーンながらも宇宙空間の恐怖、美しさ、険しさなど全てがじっくり描かれており、『ゼロ・グラビティ』1本に詰め込まれていたそれらをワンシーンで満喫できる贅沢さだと感じました。似ているといってしまえばそれまでですが。
木星k-23についても、人類が次の住処に選ぶ場所だから、住みたい!と思えるような場所でないといけないというジョージ・クルーニーのこだわりが入っているそうです。
確かにこれまでのSF映画で見てきた惑星は、どちらかというと砂漠だったり殺風景なものが多い印象です。K-23は自然豊かで、青空の代わりに橙色の美しい空などとても美しい惑星として描かれていました。
人生が終わると決められたとき人は何を思うのか

本作で似ているといえば『インター・ステラー』も近いかもしれません。しかしながらそれらSF作品とと違うのは、クルーは地球には帰れず地球に住む人々はどこへも行けない。そんな絶望的ともいえる世界の終焉が描かれているところです。自分の人生がもう少しで終わる。そう決められたとき、人は何を思うのか。
また本作では1つのテーマとして、”家族愛”があげられていると思います。宇宙船クルーたちには2つの選択肢が与えられます。1つは、命の危険は承知の上、家族の待つ地球に帰還する。そしてもう1つは、惑星k-23へ向かい新たな人類の出発源となることです。
ジョージ・クルーニー演じるオーガスティンは、過去への後悔を抱え最後の時を迎えようとしています。そんな彼が1人寂しく、天文台に残って達したいこととは何だったのか?というところもこの作品の見所となっています。
世界が終ろうとしている原因となるのは、核問題なのか、環境汚染問題なのかはっきりとは描かれていませんが、そのもとは全て私たち人間が作り上げているものに変わりはないというメッセージも込められているようです。
地球滅亡の危機からどう脱するのか?ではなく、決定した近い未来を受けて人は何を思い、行動するのか。そんな人々の生き方や考え方に触れた、何か胸に刺さるものがある作品でした。