日本のおもちゃから発展した映画シリーズ「トランスフォーマー」。これまで、「トランスフォーマー」と「トランスフォーマー/リベンジ」では批評家評では苦戦しつつも、多くの観客から支持を集めて興行的に大きな成功を収めているシリーズです。
その中でも最も高額な興行収入を叩き出しているのが、三作目となる映画『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』です。これまでも非常に大きなスケールで描かれてきたシリーズですが、本作ではどのような物語が展開されているのでしょうか。
トランスフォーマーシリーズ 興行収入と製作費(日本円換算)
映画タイトル | 米国内収入 | 世界累計 | 製作費 |
---|---|---|---|
トランスフォーマー (2007) | 「469億円」 | 「1043億円」 | 「220億円」 |
トランスフォーマー/リベンジ (2009) | 「591億円」 | 「1229億円」 | 「294億円」 |
トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン (2011) | 「518億円」 | 「1652億円」 | 「287億円」 |
トランスフォーマー/ロストエイジ (2014) | 「361億円」 | 「1623億円」 | 「309億円」 |
トランスフォーマー/最後の騎士王 (2017) | 「191億円」 | 「890億円」 | 「319億円」 |
バンブルビー (2018) | 「187億円」 | 「688億円」 | 「198億円」 |
トランスフォーマー/ビースト覚醒 (2023) | 「231億円」 | 「645億円」 | 「287億円」 |
SF映画らしさが増した3作目
映画『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』は、前作と比較してアメリカのSF映画らしさが増したところがポイントの作品といえるでしょう。前作は世界中を舞台として物語が展開され、最終的にはエジプトが戦闘の舞台となりました。第1作からアメリカを飛び出し、スケールの大きさを見せつける展開だったといえるでしょう。
本作ではさらにスケールがアップし、タイトル通りの「月」がカギを握っています。アポロ11号やケネディ元大統領が登場した冒頭の場面は、本作が非常にアメリカらしい作品になることを思わせてくれました。またソ連の影がちらつくあたりもその印象に拍車をかけました。

トランスフォーマーたちは宇宙生命体という設定なので、これまでも本シリーズは宇宙とつながりはありましたが、本作では実際に月が登場したり宇宙船も登場したりと、これまで以上に宇宙とのつながりを強く感じさせられ、SF映画らしさがより増していたように思いました。
本作では人間パートのヴィランも立てられていて、よりテンプレ的なSF映画のプロットが際立っていたと感じました。「特に大きな野望があるわけではなく、自己保身のために巨大な悪の勢力の手先になる金持ちの社長」というキャラクター像もまた、非常によくある形で分かりやすく、大衆向けのSF映画らしさを演出していたのではないでしょうか。
3D映画としてのトランスフォーマー
映画『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』は、シリーズ初の3D映画として製作された一作でもあります。これまでもトランスフォーマーたちを中心としたCG技術が群を抜いて素晴らしかったこのシリーズですが、本作は3D映画として劇場公開されたため、全体的に3D対応の演出が目立っていたかな、と感じましたね。それは単純に画面から浮き出るような演出を狙った、というよりは、奥行きを意識しつつも凛寮監をより味わえるような画面の作り方が増えたのではないかと感じました。前作とは異なり、地球での舞台はアメリカ、特にシカゴが中心となっていましたが、ビル群の奥行きと昔からある建造物の外壁のレトロ感、そしてトランスフォーマーたちのメタリックさが相まって、独特の雰囲気を醸し出していたのが印象的でした。個人的には、それまでのシリーズ作品よりもトランスフォーマーたちの表面から「日本のおもちゃらしい質感」のようなものを感じて、なんだか子供心を思い出させられました。
また、トランスフォーマーたちのテクノロジーが前作まで以上に地球になじんでおり、現実のハイテク化と連動して「ガジェット感」が強くなっているようにも感じました。公開時期を考えると、ヒーロー映画が増えてきた時期でもあるので、観客としてもなじみやすい演出だったと思います。1作目では高校生だったサムが社会人になったことに伴い、映画自体も全体的に洗練された画面になっており、シリーズとして積み重ねてきたものの変化をCGの映像からも感じ取ることができました。
3D映画とは
観客が専用の3Dメガネをかけて視聴し、まるで映像が画面から飛び出してくるような臨場感を体験できる映画を指します。 左右の目に微妙に異なる映像を届けることで、脳が立体的に認識する仕組みを利用しています。
「アバター」による3D映画ブーム 2009年に公開されたジェームズ・キャメロン監督の「アバター」は、3D映画の歴史における転換点となりました。
この映画「アバター」以降、ハリウッド映画の多くが3D版も製作するようなり、映画館の3D対応設備が急速に普及しました。
ただし、近年は3Dブームは落ち着き、より自然な映像体験や他の技術(IMAX、4K等)に注目が移っています。

3作の中で最もシリアスな1作
映画『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』は、過去2作と比較すると最もシリアスな物語展開だったといえるでしょう。「トランスフォーマー」シリーズは主に人間パートで多くのコメディシーンが展開されてきました。トランスフォーマーという地球外生命体に地球を乗っ取られるかもしれない、というのが物語の基礎にあり、アクションシーンにも迫力があるためどうしても緊張感のあるシーンが多くなってしまう仲で、息抜きとしてコミカルなシーンが必要だったのでしょう。しかし、過去2作品、特に前作ではそれが過剰すぎて、作品全体の足を引っ張っていた印象がありました。その教訓を生かしてなのか、本作ではコメディシーンが減ったのと同時に、トランスフォーマーの悪側であるディセプティコンが人間に対して非道な行いをするシーンが増えていたように思います。これまでに2作と比較して、画面の色合いもなんとなく暗く感じられ、3作の中では最も地に足がついてダークな雰囲気でした。タイトルにも「ダーク」が入っているため、ちょうどよい空気感だったと思います。
しかしながら、人間ドラマの描き方についてはやはり課題があったように感じられました。特に、ヒロインが前作までのミカエラと異なり、新たなヒロインであるカーリーへと変更された点は、これまでの流れを見ていると不自然に感じられ、シリーズとして違和感をもたらしてしまったような気がしました。サムが主人公となる三部作としては本作が最終作だっただけに、ここは残念なポイントでした。
突然のヒロイン交代
前2作でミカエラ役を演じていたミーガン・フォックス、あの美貌でファンを魅了していたのですが、本作で突然、ロージー・ハンティントン=ホワイトリーに変わってしまいました。
当時の報道を見ると、実はスティーヴン・スピルバーグの判断だったって言われてるんですよ。製作総指揮を務めていたスピルバーグが、ミーガン・フォックスの降板を決定したらしいんですね。

まとめ
映画『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』は、「トランスフォーマー」シリーズの中でもアメリカのSF映画らしさがよく出ていた一作でした。3Dでの劇場公開を意識したため、これまでのCGに磨きがかかっただけでなく、奥行きを使った表現です。
そして従来作よりコメディ要素を抑制し、ディセプティコンの非道な行為を描くことでシリーズ最もシリアスな雰囲気を実現しているのが印象的です。ただ人間ドラマには課題があり、特にヒロインがミーガン・フォックスからロージー・ハンティントン=ホワイトリーへ突然交代したことは、スティーヴン・スピルバーグの判断によるものとされるが、シリーズの流れに違和感をもたらした。2時間半を超える長編ながら、主人公サムの最終章として見応えのある作品に仕上がっているものでした。