映画『トランスフォーマー/ビースト覚醒』は、マイケル・ベイ監督による5部作の重厚な世界観から一転しより親しみやすくエモーショナルな路線を打ち出した「バンブルビー」(2018年)の正統続編として位置づけられています。
本作の物語の舞台は1994年のブルックリンです。この時代設定が実に巧妙であり、当時のヒップホップやR&Bが流れるサウンドトラックは、観客を一気に90年代へとタイムスリップさせます。街並みの再現度も素晴らしく、グラフィティアートや当時のファッションまで、細部にわたって時代の空気感を見事に捉えています。
ビーストウォーズファン待望の実写化、しかし…
日本のファンにとって最大の注目点は、なんといっても「ビーストウォーズ超生命体トランスフォーマー」(1997年放送)のキャラクターたちの登場でしょう。ゴリラに変形するオプティマス・プライマル(日本版では「コンボイ」)、チーターのチータス、鷲のエアレイザーといった懐かしい面々が、最新のCG技術で蘇りました。
特に話題を呼んでいるのが、日本語吹き替え版でオリジナルアニメの声優陣が再集結したことです。プライマル役の子安武人さん、チータス役の高木渉さんといった、当時のファンにとっては伝説的なキャスティングが実現しました。SNS上では「懐かしすぎて涙が出た」「まさかまた彼らの声で聞けるとは」といった感動の声が多数寄せられています。
しかし残念ながら、彼らの出番は予想以上に限定的でした。チータスに至っては台詞が3つ程度、ライノックスは一言も発しません。また、当時のファンから絶大な人気を誇った山口勝平さん演じるラットトラップが登場しないのも、多くのファンから惜しむ声が上がっています。せっかくの再会の機会だっただけに、もう少し彼らの活躍を見たかったというのが正直な感想です。
トランスフォーマーシリーズの系譜に恥じない圧巻の映像美と演出
スティーヴン・ケイプル・Jr.監督(「クリード2」)は、アクションシーンにおいて確かな手腕を発揮しています。博物館での初戦闘、ペルーのジャングルでの追跡戦、そしてクライマックスの総力戦まで、どれも見応え十分です。特に終盤20分間の戦闘シーケンスは、シリーズ史上最高レベルの迫力と言っても過言ではありません。
VFXの完成度もトランスフォーマーシリーズらしく素晴らしかったです。トランスフォーマーたちの質感や変形シーンの滑らかさは、技術の進化を実感させます。マキシマルたちが動物形態からロボット形態へと変形する瞬間は、まさに「ビーストウォーズ」世代が夢見た光景そのものです。バンブルビーが復活し、空から降り立ちながら敵を一掃するシーンでは、劇場内から拍手が起こるほどの盛り上がりを見せました。
人間ドラマとロボットアクションの狭間で
主人公ノア(アンソニー・ラモス)は、病気の弟を抱えながら就職もままならない青年として描かれます。家族のために犯罪に手を染めざるを得ない彼の苦悩は、これまでのシリーズで最も共感を呼ぶ人間キャラクターと言えるでしょう。博物館で働く考古学者エレーナ(ドミニク・フィッシュバック)との出会いも自然で、二人の関係性は適度な距離感を保ちながら物語を牽引します。
しかし、ここで大きな問題が浮上します。約2時間という上映時間の中で、人間ドラマとトランスフォーマーたちの物語を両立させるには限界があったのです。せっかくの迫力あるロボットバトルシーンが、頻繁に人間側の描写に切り替わることで、アクションの流れが寸断されてしまいます。もう少し上映時間を延ばして、それぞれの要素を充実させる選択肢もあったのではないでしょうか。
新たなユニバースへの野心と不安 【ネタバレ注意】
物語は、惑星を喰らう巨大な機械生命体ユニクロンとその配下スカージの脅威を軸に展開します。スカージは歴代シリーズ最強クラスの敵として君臨し、オプティマス・プライムですら苦戦を強いられます。しかし、彼の背景や動機についてはほとんど語られず、単なる「強い悪役」に留まってしまったのは惜しいところです。
【重要なネタバレを含みます】
そして最大の衝撃は、ラストシーンで明かされる「ある有名フランチャイズ」との世界観統合でしょう。ノアがスカウトされる組織が、まさかの「別のハズブロ作品」だったという展開は、賛否両論を呼びそうです。アメリカでは人気の高いフランチャイズですが、日本での知名度は限定的であるのでトランスフォーマーの世界観に、果たして必要な要素なのか疑問が残ります。
まとめ:懐かしさと新しさが交錯する過渡期の一作
映画『トランスフォーマー/ビースト覚醒』は、シリーズの新たな方向性を模索する意欲作です。ビーストウォーズ世代にとっては、待望のキャラクターたちとの再会という感動的な瞬間を提供してくれます。一方で、彼らの出番の少なさや、予想外の展開による世界観の拡大は、純粋なトランスフォーマーファンには複雑な思いを抱かせるかもしれません。
「マキシマイズ!」と叫ぶプライマルの勇姿を大スクリーンで観られる喜びは、何物にも代えがたい体験です。本作は完璧ではありませんが、シリーズが新たな一歩を踏み出すための重要な橋渡し役を果たしています。
果たして、新たに示された「クロスオーバー構想」は成功するのか。ディセプティコンの登場はいつになるのか。そして、ユニクロンとの最終決戦はどう描かれるのか。疑問は尽きませんが、それもまた続編への期待を膨らませる要素と言えるでしょう。
90年代を懐かしむ大人たちと、新たにシリーズに触れる若い世代。両者をつなぐ架け橋として、本作が果たす役割は決して小さくありません。「ビースト、覚醒せよ!」――その掛け声とともに、トランスフォーマーシリーズは新たな時代への扉を開いたのです。